異変 2

背後から聞こえる細い悲鳴で、少女の意識は引き戻されていく。

振り返れば、そこには長女が顔を青ざめて震えていた。「う、嘘」と首を横に振りながら、血のぶちまけられたベッドに、おぼつかない足を進めようとする長女を、青年が「……部屋を出ましょう。貴女も早く」と静止し、そのまま彼は少女と長女の両名を連れて部屋を出た。少女は、はっと気がつく。あまりにも理解の出来ない現象に呑まれ、本来であるならば真っ先にすべきことを忘れていた。

未だに恐怖は顕在していたが、今は無理やりにでも体を動かさなければ。

今できることを最大限にしなければ!

「警察を呼ばなきゃ」

少女はポケットから携帯電話をを取り出す。少女はただの一般人だ。一人では対処しきれるわけもない。とにかく、外から応援を呼ばなければ__ぱかりと携帯を開いて、液晶画面を見ると、「圏外」という文字が嫌に目についた。

このままでは、外に連絡が出来ない。

ならば外はどうかと、彼女は一階へと急いで降りることにした。

降りる前に「外に出てくるね、おじさんはお姉さんのそばにいてあげて!」と叫ぶように告げて。

今にも転げ落ちそうな足取りであったが、どうにか落ちることなく無事に一階のロビーへとたどり着く。

ロビーには、主人と長男、そして執事とメイドが青ざめた顔で集まっていた。奥方の姿はいない。

駆ける音に気がついた主人は、音の主である少女に目を向ける。

焦る少女は見つめる主人のには気がつかず、飛び出そうと、大きな玄関へと手をかけた。

急いで警察を呼ばなければという一心で。



ガチャン、という音が、洋館に反響した。

けど、豪華な両開きの扉は、ぴくりとも開くことはない。


少女は、一瞬虚をつかれた。え?どうして?そんな疑問が少女の頭を埋め尽くす。

昨日まで、重い音をたてて開いていたじゃないか!どうして開かないの?!

何回か扉を開けようと試みたが、全くの無駄に終わることになった。

呆然とする少女に、心配した執事が声をかける。

「どうか、しましたか」

その声は、衝撃と驚きで疲れて切っていた。少女は「すみません、玄関の鍵が開かないんです」と、動揺しながら答えた。僅かに目を見開いた執事は、ポケットから鍵の束を取り出す。ちゃりん、と鍵と鍵がぶつかる音がした。その中のひとつである銀色の鍵を使おうとしたが、その鍵穴は合わない。カキン、カキンと噛み合わない音が少女の耳を強く叩いていた。すべての鍵が合わないことを悟ると、執事は驚愕に見開いた。その場から離れて、客室に繋がる廊下へと消えていく。少女がスマホを両手で持ったまま扉の前で立ちつくしていると、主人が少女へと近づいた。

「君は……それに、さっき鍵がどうとかいっていたが」

深刻な様子で見詰める。

昨日よりも細くなった鋭い目突きに、どこか責められているような気がして、少女は再び怯えてしまった。

「あの」と言葉に迷っていると、執事が血相を変えて戻ってきた。

その様子はただごとでないことが起きているのが、少女でも簡単に分かった。

まるで、幽霊を直視したような。

ロビーにいる全員が執事の様子に驚く。メイドに至っては、顔をぽかんとして、思わず、といった風に「えっ……」と声を漏らし、執事の傍へと駆け寄った。「嘘、ど、どうしたの?貴方が此処まで取り乱すなんて」と、先ほどよりも顔を蒼白にさせながらメイドは執事に問うた。

彼は努めて冷静な声で、その場にいる全員に聞こえるように言う。しかし、困惑が滲むその声は僅かに震えていた。


「……玄関の鍵が開きません。昨日までは問題なかったのですが。念のため、以前から使えなくなっていた裏口の扉も開くか確認しました。ですが、こちらも変わらず開くことが出来ません。マスターキーも含め、屋敷にある鍵では出入り口の扉が開けなくなっています。原因の究明を急ぎますが、確実なことがあります」

「その原因を突き止めるまでは、私たちは外に出ることが出来ません。後ほど、窓も開くか確認してみますが…。少なくとも扉から出ることは不可能になっています」



その文字列の意味が、少女は一瞬理解できなかった。

この人はなにをいっているんだろう?

いや、実際のところ、言いたいことは少女はわかっていた。

だがその単純なことを理解する余裕が今の少女にはなかった。自分の脳が、その言葉を事実として処理することを拒絶している。

一体どうして?何故?昨日まではあんなにも、この屋敷は穏やかで温かくて、血なまぐさいことなんてなにひとつなかった陽だまりのような場所だったのに、今は冷たくて重苦しい監獄へと化していた。

いや、それ以前の話に。

この洋館は誰がどう見ても廃墟だった。

窓は割れていたし、建物だってボロボロで、誰かが住めるような状態じゃなかった。

なのに、なのに!いざ入っていれば、まるで建てられたばっかりのような、豪華な洋館に変化していたじゃないか!

少女は、ようやく、この屋敷に対する違和感に直面する。

いや、違和感自体は気がついていた。だというのに、無視してしまっていた。

あまりにもこの家族のぬくもりが暖かすぎて、彼らが当然のように歩いていて、日常を過ごしていて、当たり前のことがぼやけていた。

そう、ありえないのだ。この家族がここで当たり前のように暮らしていること、それ自体が。


あまりにも信じがたい出来事が重なり過ぎて、少女はとっくに限界を超えていた。

バチンと、線が切れたように少女の意識は闇へと突き落とされる。

意識が途切れる前に、誰かが自分を強く呼ぶ声を聞いたような気がした。





少女が意識を取り戻した時には、時計は16時を過ぎていた。


「ああ、起きましたか。よかった、突然倒れて驚いたんですよ」

少女の目の前には、青年が今にも気を失いそうな表情でこちらを見ていた。自分が倒れてから既に数時間も立っていることに驚いた。あのあと、どうなったのだろうか?少女は乾いた唇で「あのあと、どうなったの?」と、青年に事の詳細を聞いた。

少女が倒れた後、丁度そのタイミングで長女と青年が少女が倒れているのを見つけた。

青年が客室に運んできたのだそうだ。そうして、少女が起きるまで、ベッドから一瞬も離れずに待っていたそうだ。次に、青年は屋敷の現状についても話してくれた。あの後、執事は扉だけではなく窓なども開くか確認したが、全く開くことが出来なかった。つまり、完全にこの屋敷に閉じ込められた状態になっている。その原因を突き止めるために主人を中心に動いていることも知った。奥方は…末娘の部屋から連れ出された後、「一人にしてほしい」とだけ告げ、自室にずっと籠っているそうだ。話を聞き終わった少女の心は昏く沈んでいた。限界が来ていたとはいえ、倒れて迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思う。

「無理をしてはいけませんよ」

青年は少女を優しく抱きしめた。

その温かさに、少女はそれだけで胸が満たされる思いがする。思わず泣きそうになってしまうぐらいに。

こんなところで泣いている場合ではないのに。

「ありがとう、けど、もう大丈夫だよ」

そう告げて笑うと、ベッドから降りた。

まだ疲れは抜けないが、それでも倒れる前よりはマシだろう。


自分たちに優しくしてくれた青年の家族の正体を、未だ少女は判らない。

あまりに、知らないことが多すぎるから。

末娘がいなくなってしまったという事実も、この部屋に突撃してきて「実は隠れていたのよ。心配させてしまってごめんなさい」と現れてこないかなぁ、と淡く願うぐらいには、受け入れられていなかった。

だって、未だに信じられない。死んだ?本当に?

少女の脳内は、彼女が死んだという事実を未だに受け止め切れていなかった。


動かなければ。今はとにかく動こうと、少女は混乱する頭の中で結論付ける。

まるで末娘がいなくなった事から目を逸らすように。

動こう。何かをしよう。出来ることを。

青年と、青年の家族のために。それはきっと、巡りまわって自分のためにもなると信じて。

けれど、何をしたらいいのだろう?自分には何が出来るのだろう?

何も思い浮かばなくて、思わず両手を強く握りしめていた。


険しい顔で少女が思慮していると、青年が「どうかいたしましたか?」と、心配そうに尋ねる。

その声に気がつき、ネガティブな思考から一時的に抜け出した少女は、はっとして青年の顔を見る。

青年の顔は変わらない。夜の美しさを想起させるような整った容貌だ。

ふと、少女は、ここでなら聞けるのではないかと思った。

今、この客室には少女と青年しかいない。当然ながら、他に誰かいるわけでもない。

だから、聞くなら今だ。積み重なった疑問を聞くならば。

少女は、荷物の奥深くにしまっていたアクセサリーを取り出して、青年に見せてから、祈るようにぎゅっと握り締めた。

古ぼけた十字と丸が組み合わさったようなアクセサリー。青年の瞳に、僅かな戸惑いが生まれる。

少女の薄い桜色の瞳は、青年の姿を完全に捉えた。


「ねえ、おじさん。聞きたいことがあるの。あの子が__妹さんがね、このアクセサリーは、家族の誰にも秘密だって言ってたの。どういうことか。たぶん、おじさんは知ってるんだと……思う。おねがい、おじさん。今はこれだけ教えて。これだけでいいの」

「おじさんのことは、おじさんが話したい時に話してほしい。けどお願い。これは、このアクセサリーは、お父さんとお母さんが残してくれた宝物なの。だから」


少女は、青年がこの屋敷で生まれ育ったのだろうということを確信していた。

勿論、他にも聞きたいことはたくさんある。けれど、全ての疑問を問いただす時間はないだろうことは理解していた。

もしかしたら、今にも心配してこの部屋に誰かが来るかもしれない。

別のことが起きて、聞く余裕なんてなくなるかもしれない。

だから、少女が最も知りたいことの答えを青年に求めた。

このアクセサリーの正体を。両親が残してくれた宝物を。

末娘の言葉に、どんな願いが込められていたのか。


青年は何故叔父と嘘をついていたのか、何故この家族との関係を黙っていたのか、そもそも、ここでなにがあったのか。

どうして、今まで言ってくれなかったのだろうかという気持ちは、今もある。不安で悲しくて悔しくて、たまらない。それは今だってそうだったし、本当なら、10年間の歳月のどこかで、全部を話してほしかった。青年がいらぬ苦悩を抱えてしまうなら、その荷物を少しでも持ってあげたかった。

きっと今からでも、遅くはないはずだ。



青年はそのアクセサリーを見やる。

少女にとっての宝物を。


夕食後の時のように、あるいは、末娘が亡くなった時のように……明らかに言うことを躊躇ったような顔をして。

青年が迷う時は、いつだって少女のためだった。

だから__少女にとってはきっとよくない事実であるのだろう。

けど、知らなければいけないのだ。どれほど残酷な事実でも。だって、少女自身が知りたいと願っているから。

少女は青年を見つめ返す。柘榴と桜が交差して、ぶつかり合う。


「……」


少しの沈黙の後、青年は続けた。苦虫を噛み潰した様な表情のまま。

少女が知りたかった真実。

それは、先ほどまでの陽だまりを全て消し去るほどに衝撃的なものだった。


「それは、この家の象徴です。この家で生まれた者は、10歳になった時にそのアクセサリーを当主から送られます。後は、この家に嫁入りしてきた方も一族の証として贈られますね。家族全員がつけていたでしょう?まあ、別につけなくてもいいんですけどね。俺も普段は身に着けていませんし。この屋敷で暮らしている人たちにとって、貴女が持っていることは本来ならあってはいけないことなんですよ。妹は、それを考慮して、貴女に秘密だと言ったんだと思います。もしもバレたら父は怒り狂い、貴女を追い出していたでしょうから」


少女は、心臓が止まりそうになった。

それが本当なら。

これのアクセサリーは、この家が在るべき場所だったのだ。

それを、どうして、今。自分が握り締めているのだろう?

これは、両親が盗んだものだったのだろうか?いや、両親は祖母から貰い受けたものだと言っていた。ならば祖母が罪を犯したのか?もしそうなら、どうしてそんな愚かなことをしたのだろう?わからない!わからない!!誰かの宝物を奪って、平然と生きていたというの?!家族の微笑みが冷たく切り裂かれたような想いに、少女の視界はぐるりと歪んだ。

目に見える存在の輪郭が全てぼやけていく。部屋も、青年も、自分の足元も、アクセサリーも、全て全て滲んでいって、何もわからなくなりそうだった。また意識が途絶えそうになって、力の抜けた手を、細長い何かがそっと包む感覚がする。暖かくて、優しくて、溢れるほど愛おしいぬくもりが、彼女を刺す冷たさを拭い去っていく。


「ですが」


青年の言葉は、続く。

先ほどよりも強く、確かな声で。

衝撃でぼやけた少女の意識が、もう一度鮮明になっていく。


「そのアクセサリーは……ちゃんと譲り受けたものだと。そう聞きました。そのアクセサリーは貴女の母親の両親…貴女から見たら祖父母の代になりますが……祖母が夫から……まあつまり祖父からもらったものだそうです。それを貴女の両親が受け継いで…今は貴女の手元にあります。少なくとも、この家から盗んだものではありません。強いて言うなら、そのアクセサリーを持っていたあなたの祖父が元凶と呼べるかもしれませんね」


「じゃ、じゃあ、じいちゃんが、この家のひとだったってこと?」

青年から告げられる真実に、少女の声は驚愕一色に染まり切っていた。

もしも本当にそうならば、この家は祖父の生家ということになる。ただ、少女は祖父の姿を見たことがなかった。

少女が産まれた頃には、祖父は亡くなっていたと聞いていたからだ。

いろんなことが起きすぎて、記憶の端へとおいやられたものを、少女はようやく取り戻す。そもそも、青年と少女がこの洋館に訪れた理由を。

自分は此処に、両親の思い出をかき集めたくて来た。

もう戻らない両親の記憶を、この手で触れたくて、確かめたくて、ただただ知りたくて…この洋館に訪れたのだ。

それを再確認した時、弱り切っていた少女の桜色の瞳に意思が戻る。

この屋敷には、少女が思っている以上に、秘密が隠されている。

何故、末娘が死ななければいけなかったのか?

この屋敷には、どんな秘密が、真実が眠っているのだろう。

少女は、その真実を知ることが、末娘の死の解明につながるのかもしれないと、おぼろげながらに思っていた。

こんなところで燻るわけにはいかないと、少女は扉の方へと、一歩、強く歩み出す。

青年はその背中を、ただじっと見守っていた。


扉を開けると、こげ茶の髪を揺らして長女が立っていた。さんざん泣いていただろう長女の瞳は腫れていて、頬には赤い筋がこびりついている。少女はその様子を痛ましく思い、目を伏せる。なんて言葉をかければいいのか分からなかった。そうして少女が迷っていると、長女が、少女の瞳をとらえて、薄い唇を開く。


「ああ、気がついたのね。よかった」とほっと胸をなでおろす長女に、少女は「ご迷惑をおかけして、申しわけありません」とお辞儀をした。

長女は少し迷った後に、少女に訊ねる。

「いいのよ。それよりも、いいかしら……体調がいいのなら、これからついてきてほしいことがあるの、大丈夫?」

少女は、その問いには迷いなく頷いた。「お兄さんも一緒に行く?」と青年に聞くと、「確認したいことがあるので、先に行って頂けますか?」と彼は首を横に振った。少女は僅かな不安がよぎるが、青年を引き留めるわけにはいかないと「わかった」と言葉だけを零した。

長女は、少女の様子を確認すると、美しい所作でロビーの方へと向かった。置いていかないように、ゆっくりとした足取りで目的地へと進む。少は、その背を追うようについていく。


ふと、青年の方へと振り返る。

青年は、客室から出て、少女から反対方向の廊下の奥へと進んでいく。

そういえば執事も玄関の鍵が開かないことを確認したときに、同じ方向へと向かっていたなと思い返す。

青年の背中に視線を向けていた少女は、廊下の奥に何があるのだろうと、青年から廊下の奥へと視線を移動させた。よくよく目を凝らせば、廊下の最奥に何かドアのようなものが設置されているに気がつく。「裏口の方に何かあるのかしら……」と、独り言のように呟く長女の言葉で、あの扉が裏口にあたるのだろうと少女は理解する。青年を見送った後は、「きっと、すぐに追いつくわ。さあ行きましょうか」と、告げて、こつこつと歩く長女を見て、少女も歩き出した。しゃんと背筋を伸ばして歩くその姿は、何故かとても小さく見えて、今にも消えてしまいそうだった。胸が詰まるような気持ちになって、少女の顔は悲しみに歪む。今の長女は、まるで絡繰り糸で操られたようにぎこちなかった。いや、こんな状況下で平然といられるほうがおかしいのだ。だって、大切な家族を失った上に、屋敷から出られなくなってしまったのだから。

階段を上ったところで、別の部屋から人影が出てくる。

それは、やつれた顔をした長男だった。

長男と視線がかち合う。

長男の瞳は泥のように淀み、今にも少女を飲み込んでしまいそうな粘り気があった。

少女の喉が恐怖で鳴る。自分は、何か彼に悪い事をしてしまったのだろうかと思いを巡らし、彼から逃げるように目を逸らしてしまった。

困惑する少女を後目に、長男は疲れた様子で階段へと降りていく。無礼を働いてしまったことを自覚した少女は、謝罪をしようと彼を追いかけようとしたが、長女の声で静止した。


「大丈夫よ。疲れていると、いつもあんな感じになるのよ。さあ、ついたわ」


長女の沈んだ瞳の先は、少女の呼吸を奪うのに十分だった。

二人の目の前には、階段のすぐ近くの扉__つまり、末娘の部屋があった。

少女は、昨日の出来事が脳内を過ぎって立ち竦む。

今すぐにでもここから逃げたいという恐怖に支配されそうになるが、ぐっとその恐怖を噛み潰すように歯を食いしばった。

長女は何か理由があって、ここに連れてきたのだから。

それから目を背けるわけにはいかないのだと、自分を奮い立たせた。


扉を開ける。

パステルイエローの部屋は、やっぱり昨日と変化はなかった。

ベッドの上を見れば、昨日のことが何もなかったかのように綺麗だった。べっとりとした血も広がっていなければ、愛らしいネグリジェドレスもない。昨日のうちに、誰かが片付けたのだろう。執事さんだろうか、少女にはわからない。ただ、少女の心にはあの光景をもう見なくても済むという安堵と、末娘の存在をかき消されたような悲しみがないまぜになっていた。


「遊びに行くって、約束していたでしょう?妹から聞いたわ。……よかったら、妹が持っていたものを持ち帰ってほしいの。妹と一緒に、遊びに行ってあげて」


長女は緩く、淡く微笑む。エメラルドの瞳に映るのは、深い深い追慕の色だ。

まるで雷に打たれたかのように、今まで遠く遠くにいた事実が、目の前の現実とカッチリと噛み合った感覚が少女の全身を貫いた。

改めて実感する。

末娘は、この世からいなくなってしまった事を。

その事実に心が溢れ、涙となってボロボロと流れていく。

長女は、泣き出す少女を優しく優しく包むように抱きしめる。

少女の心に触れたように、彼女もすう、と抱えていた感情を、瞳から溢れるものと共に零した。

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