フリージアの花言葉
花火大会当日。
学校が終わり夏休みに入る。
週に一回の体育がないだけでも体が軽い。
あと30分で春馬が迎えに来てくれる。
すると電話がなった。亜門からだった。
「もしもし、あっくん?」
「うん。あのさ、今日難波と行くことになってごめんね。美羽怒ってるかなって思って。ちゃんと謝ってなかったし。」
「いいよ、別に。」
少し、亜門に冷たいのは嫉妬だ。
怒ってないと言ったら嘘になる。
大体、亜門の流れは見えている。
まず、瑠奈が亜門に告白するのは間違いない。
相手は亜門が小学生の頃からずっと思いを寄せる瑠奈だ。
付き合うに違いない。二人の仲は親密になる。
亜門は三人の仲を抜けてしまう。
なぜかそう考えてしまう。
「それなら良かった。春馬と楽しんでね!あと、昨日は永山とマンツーマンで補修だったんだろ。惚気聞かせてな!じゃあ。」
通話は終わった。
昨日どうやって瑠奈と愛紗が二人を誘い出したのかがわかった。
色々考えていたらもう15分も過ぎていた。
「春馬遅いな。」
今まで遅刻したことない春馬が珍しい。
心配になって表で待っていることにした。
数分で春馬は来た。春馬はグレーの甚平を着ている。
「おまたせ。ごめんな、遅くなって。」
「全然!早く行こう。」
春馬はしばらく荒い息のままだった。
「走って来たの?」
「ううん。歩いてたよ。」
「大丈夫?」
春馬の家から美羽の家までそこまで距離はないのに歩くだけでそんなになるのか。きっと走ってきたんだな。
「あと花火まで一時間だ。なにか食べる?」
春馬から聞いてきた。
「わたがし!」
「女子だな~。」
「女子です!」
色々な屋台があって、美羽はわたがし。春馬はやきそばを選び場所取りに向かった。
「神奈くんのことあっくんって呼んでもいい?」
遠くからそんな声が聞こえる。
春馬もその声に気づいたようだ。
「あっくん?」
美羽は少し唖然としてしまった。
あっくんは美羽だけが呼んでいる、亜門の愛称だった。
「そんなのねえだろ亜門。」
春馬は少し怒った様子を見せた。
「あっくんって呼ぶのはちょっと…」
亜門が躊躇しているのを見て安心した。
いいよって返事したらどうしようかと思った。
あっくんって呼び方は私だけの、私の亜門だって縛りなのかもしてない。と、気付かされた。
「いいじゃん。だって私達って友達でしょ?私も美羽と一緒だよ。」
急に春馬が歩き始めたと思うと、春馬は美羽の手を握って引っ張った。
「春馬!なに?」
「尾行しよう。亜門と難波。」
春馬と美羽はバレないように二人の後を追った。
「あっくん、かき氷食べない?」
瑠奈は馴れ馴れしく亜門を呼ぶ。
「だからその呼び方は…。」
「いいじゃん。」
瑠奈は今までに見たことないくらいぶりっ子で亜門を釣ろうとしているように見える。
「難波も表じゃあ美人ヅラしてるけど性格悪いな。」
春馬がぼそっと言った。
春馬は信頼できると確信した。
亜門と瑠奈はかき氷の屋台の前に並んでいる。
「難波のヤツ、亜門に媚び売ってるな。俺難波みたいなやつ苦手なんだよな。なんかムカつく。それに、相手が亜門だと尚更。」
春馬は分かっていた。
美羽も同じ思いだった。
「行った。」
亜門と瑠奈が移動した。
バンッ。
「花火…」
うっかり一時間が経過していた。
「美羽、ごめん。ちゃんと見たかったよな。」
「私もあっくん気になるからいい。ほら、追おう。」
亜門と瑠奈が立ち止まったのは花火の音と散った少々の花火しか見えない人影のないところだった。
やっぱり瑠奈は花火を見ることが目的ではないんだ。
「やっぱり瑠奈ってあっくんのこと…」
「告ってる。」
春馬に言われ急いで二人を探す。
数十メートル先の大きな木の下にいる。瑠奈の口元が動いているのでなにか喋っているということは分かる。
亜門もなにか話し始めた。
このまま二人は付き合ってしまうのだろうか。
その瞬間、瑠奈が泣き崩れる。
「えっ。」
「なに?」
春馬も美羽も、この場の状況が理解しきれない。
亜門は泣いている瑠奈に構うことなくその場を去る。
「行こう。」
春馬は立ち上がり、人混みを掻き分けて亜門を追いかける。
「亜門!」
「あっくん!」
人の多さと祭りの騒音で二人の声はなかなか亜門に届かない。
「亜門!」
「あっくん!」
ついに亜門が振り向いた。
「お~二人共。」
「あっくん、瑠奈のこと振ったの?」
「なに~盗み見してたのか~。振ったよ。」
亜門はあっさり言った。
「なんで?あんなに好きって。」
春馬が言う。
「なんでって…」
「あっくん!」
後ろを振り向くと、目が赤く充血している瑠奈がいた。
「なんで私じゃだめなの?」
瑠奈は周りの目を気にすることなく泣き叫ぶ。
「好きな人って誰?」
叫び続ける瑠奈に少し恥ずかしくなって、美羽は春馬と、亜門の手を引いて帰り道に向かう。
「美羽が好きなんでしょ!」
そういう瑠奈に誰一人として振り返らなかった。
人混みを抜け、薄暗い道に入った。
「亜門、女の子泣かせちゃだめでしょ。」
春馬が言う。
「知らねえよ、あんな媚売女。」
「知らないって…瑠奈あんなに泣いて。」
美羽の脳裏に目を赤くした瑠奈が過る。
「あら?亜門?」
「母さん。」
静かな住宅街に亜門の声が響く。
「声でかいんだよ亜門。」
春馬が小声で言う。
「三人共、ちゃんと花火見た?」
亜門の母は三人に向かって言う。
「見ました。綺麗でしたね。」
春馬は礼儀正しく言った。
「二人共時間あればうち寄って行って。」
亜門の母はそういうと亜門に鍵を渡した。
「いいですか?」
「もちろんよ。二人のママには私が連絡しておくから。」
「ありがとうございます。」
亜門の母はどこかへ行ってしまった。
「あっくんの家久しぶり。」
最後に来た時と変わっていない。
「ずっと気になってるんだけど結局難波を振った理由はなんなの?」
春馬が言う。
「理由?普段一緒にいないと本性がわからないから。なんか思ってたのと違うって思ったんだよね。」
三人亜門の部屋の床に座り団欒を始める。
「でも亜門あんなに難波のこと好きだったじゃん。」
「あれは強いて言えばの話だから。」
「で、春馬はどうだったのよ。」
亜門がそう言うと空気は静まり返った。
「あっ上手くいったのね。いいよ気ぃ遣わなくて。」
「あっくんどうしたの?」
「してないの!?」
だんだん亜門が可怪しくなる。
「黙れ。」
春馬が言う。
「マジ?ごめん。マジごめん。二人共今の忘れて。」
隠し事があることは確実だ。それともまた亜門のいたずらか。
「トイレ行ってくる。」
春馬が退室した。
「美羽?」
「ん?」
「俺、瑠奈ちゃんに好きな人がいるからって振ったの。」
「なんか瑠奈そんなようなこと言ってたね。あれ嘘なの?」
「実はね、本当なんだ。俺は人生で一番長くいる幼馴染の女の子が好きみたいなんだ。」
幼馴染…。
びっくりしすぎて理解できないが亜門の言う幼馴染が美羽であることは確かだ。
「分かってる。俺ら三人は誰に恋してもずっと三人でいるって約束した。抜け駆けするつもりはない。だから気持ちだけ分かってくれればいい。」
「ありがとう、あっくん。」
足音が聞こえて二人共黙った。
すぐに春馬が来たがよそよそしくなってしまった。
「帰るか。美羽。」
春馬が言う。
「そうだね。お邪魔しました。」
春馬は家まで送ってくれた。
「じゃあ明後日ね。」
「作文頑張ろうな。おやすみ。」
美羽は春馬が見えなくなるまで見送って家に入った。
「ただいま。」
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