第23話 旅立ちとダンジョン
そして月日が流れ、俺がシュネーゼルの街から旅立つ日になった。旅の目的は異世界を観光する旅行と、ダンジョンを作る場所を探すことだ。
ダンジョンを作る方法であるが、実はすごく簡単だ。ダンジョンを作りたい場所で、ダンジョンコアというアイテムを使えばいい。
ダンジョンを作るためのダンジョンコアは、すでに邪神さんからもらっている。だからあとは、俺がどの場所にダンジョンを作るかを決めるだけだ。
この世界にはダンジョンが各地に点在をしていて、そのダンジョンから発掘できる武器やアイテムが有用な資源として利用されている。ダンジョンは、俺が元いた世界の鉱山のような感覚なのだ。
さびれた街の近くにダンジョンが発見されたことにより、ゴールドラッシュならぬダンジョンラッシュが生まれて、経済や街が発展する歴史がこの世界にはたくさんある。
ダンジョンによって栄えた国、ダンジョンによって滅びた国。数多の例が、図書館の本で読めるくらいだ。
さて、ダンジョンの運営についてだが、ダンジョン運営はダンジョン内に滞在する人間その他生物の魔力をダンジョンコアに吸い込み、その魔力をダンジョンポイントとして使うことでダンジョンの管理や拡張をしていく。
ダンジョンが生物から魔力を吸い取るタイミングは時間経過ごとに一定量、もしくは生物がダンジョン内で死亡したときに、その生物が持つ魔力をすべて入手することが可能だ。
魔力を吸い取ることでダンジョンポイントを手に入れるという性質上、所持している魔力量の大きい強い人間や生物が長く滞在するか、ダンジョン内で死亡するほどに多くダンジョンポイントを獲得することができる。
基本的なダンジョン運営法としては、たくさんの人間に長期間ダンジョンに潜ってもらいダンジョンポイントを貯め、そのダンジョンポイントを使うことで自分のダンジョンを大きくしていくことがあげられる。ダンジョンに自分の意志で潜るのは、人間くらいだからだ。
また、人間を多く集めることでダンジョンポイントを手に入れるというダンジョン運営の仕組みが理由となり、ダンジョンマスター同士には縄張り争いがあった。
既存のダンジョンの近場にダンジョンを作ってしまうと、ダンジョンにおける人間の奪い合いが起きてしまうためだ。ビジネスでいう、顧客の奪い合いである。
既存のダンジョンに潜っていた冒険者を新規ダンジョンが奪ってしまったり、または、既存のダンジョンがあるから新規ダンジョンにはまったく冒険者が寄り付かないという結果が起きるのだ。
ダンジョンマスター同士の縄張り争いがさらに発展してしまうと、相手のダンジョンマスターやその配下がダンジョンに乗り込んできて、直接ダンジョンを消滅させてしまうということも起きるようだ。
商売敵は力技で消滅させる。そんなパワープレイが、ダンジョン運営では可能なのである。俺は邪神さんからそのように、一通りダンジョンに関する説明を受けた。
ダンジョンを作ったばかりの弱小ダンジョンマスターが、近場に以前から存在するダンジョンマスターに滅ぼされる例はよくあることらしい。だからダンジョンを作る場所には十分に、気をつけなくてはいけない。一度ダンジョンを作ってしまうと、やり直しがきかないからだ。
しかし、ダンジョンがこの世界にたくさんあるという事実に関しては、縄張り争いという悪い面ばかりがあるわけではない。ダンジョンによって栄えた街の近くにもう一つのダンジョンが見つかり、その街がさらに発展したという例もいくつか、俺はこの世界の歴史を調べているときに図書館の本で見つけていた。
多分それはダンジョンマスター同士で同盟を組み、上手いことお互いのニーズを満たしあった結果だろう。
複数のダンジョンにより発展した街の例として最も有名なのは、100あるダンジョン都市ジュゲム。この都市には現在138個のダンジョンが街の中に存在し、今もその数を増やし続けているという。
この例によってダンジョンマスター同士が同盟を組んでいるダンジョンも、この世界には多数あるということが予想される。そして、この世界にやってきた新規ダンジョンマスターの囲い込みに力を入れている派閥の本拠地が、ジュゲムにあるのだろう。
ジュゲムにあるダンジョンは多種多様で、ダンジョンによって出現する敵や宝物が違うなどお互いにニーズを潰し合うことなく、ジュゲムは多くの冒険者を呼び込むことに成功しているようだ。
魔法の杖が主に宝物として出現するダンジョンや氷属性の敵や宝物ばかりが出現するダンジョンを例に、ジュゲムにあるダンジョンには専属性が見て取れる。
自分が欲しい宝物や自分の得意な敵が主に出現するダンジョンに狙って潜れるのだから、冒険者にとってはありがたいことだろう。これが、ジュゲムが大都市にまで発展した理由だ。
多数のダンジョンの集合体であるジュゲムは、テナント式の大型ショッピンクモールの大都市ダンジョン版といったものをイメージするといいのかもしれない。
さらにはダンジョン都市ジュゲムでは、ダンジョンコアの破壊が法律で禁止されている。ジュゲムはダンジョンを、都市の大切な財産であると宣言しているからだ。きっと都市の中枢にダンジョンマスターが入り込むことで、お互いのダンジョンを破壊されないように守り合っているのだろう。
一人でダンジョンを運営することに自信がない人は、ジュゲムに向かいノウハウを手に入れてから、安全な都市の中に新規ダンジョンを開くというルートを通るのかもしれない。
ダンジョン都市ジュゲム以外にも、この異世界では同盟を組んでいるダンジョンや大きな派閥、そういったものがしのぎを削っているらしい。
また、図書館で読んだ別のダンジョン関係の本に、ダンジョンが攻略されそうになると今まで出現していたモンスターとはまったく質も毛色も違う、ハイレベルな個体が突然出現することがあるという記載があるのを俺は見つけていた。
この不可思議な現象により、ダンジョン攻略を諦めたパーティーがいくつもあるようだ。多分、別ダンジョンからの援軍ということだろう。
お互いのダンジョンが破壊されそうになると、派閥や同盟から強力なモンスターを援軍として送ってもらえる。その代わりに上納金やダンジョンポイントを一部、派閥における上位の立場のダンジョンに収めるといった感じだろうか。
そこら辺は実際にダンジョンを作るか、俺以外のダンジョンマスターに話を聞かないと具体的なことは何も分からないのかもしれない。
また、ダンジョンを作る際にもっとも大切なことだが、すぐに突破されるような簡単なダンジョンを作ってしまうとダンジョンコアを奪われ、ダンジョンが破壊されるから注意が必要になる。いわゆるゲームオーバーだ。
ダンジョンコアの位置づけが、現代でいう手のひらほどの大きさのダイヤモンドのようなものだと例えると、この世界の多くの人が我先にとダンジョンに潜る理由が理解できるだろう。攻略しやすいダンジョンなど、絶好のカモだ。
ダンジョンコア自体がこの世界では貴重な資源となっており、皆がダンジョンに潜ることで一発逆転を狙っている。
では、ダンジョンコアを守るために、誰にも突破が出来ない極悪なダンジョンを作ればいいかといったら、そうでもない。
あまりにも致死率が高い危険なダンジョンを作ってしまうと、まず、ダンジョンに人が寄り付かなくなる。そんなダンジョンに、誰も潜りたくないからだ。他にも魅力的なダンジョンが、この世界には多数ある。だから誰も攻略に挑戦することなく、ダンジョン自体が放置されるようになるのだ。ひどいときには、ダンジョンへの入り口が物理的にも魔法的にも封印される。
それによりダンジョンポイントが手に入らなくなると、ダンジョン運営は暗礁に乗り上げることとなる。ダンジョンの拡張と維持が困難になってくるためだ。
また、致死率が異常に高い危険なダンジョンには、神託によって創造神からチート持ち勇者が派遣されてダンジョンが無理やり破壊されることもあるらしい。
この世に危険をもたらす、異物と判断をされるようだ。
だからダンジョンを作るには、簡単に突破はされないけど致死率も仕方がないかという程度、さらにはより多くの人間がおとずれるようにと、ダンジョンに設置する宝物やダンジョン内の構造に工夫を入れるというようなバランスが大切になってくる。
ダンジョン運営は複雑なのだ。ダンジョン運営は、巨大なテーマパークを経営するようなものだと考えていいだろう。
ダンジョンよく出現するモンスターや、難関として立ちはだかる名物ボスモンスターがマスコットキャラクターといった感じか。
まあそれらのことは旅をしながら、ゆっくりと計画していけばいい。まだ俺は、ダンジョンを作る場所すらも決めていないからな。
街を出た俺はのんびりと馬車に揺られながら、そんなことを考える。ちなみに、馬車の中には誰もいない。俺一人だ。
麗しの庭園の誓い三人組は、シュネーゼルの街を離れる前に他の冒険者たちでは解決できない高難易度の依頼をいくつか達成してから俺と合流することになった。
彼女たちは街を離れる前に、今までお世話になったシュネーゼルの街周りの危険度をある程度下げておきたいのだそうだ。凄腕のAランク冒険者には、そういう責任があるらしい。
しばし彼女たちとは別行動をすることになるが、またすぐに会えるだろう。
――ピコン!
「浮気するなよ!」
「大丈夫ですって!」
街を出て少しすると、三人組から俺の魔導板にメッセージが届く。俺はすぐに、心配ないよと返事を返した。
こうして、この世界でもスマホみたいに魔導板を使って遠くから三人とコミュニケーションが取れるし、寂しくはないのだ。
……フル……フル
それに、俺には頼れる相棒スライムのプルがいる。
プルが体を分裂させた分体を、俺は麗しの庭園の誓い三人に預けていた。彼女たちはキャーキャーと言いながら、プルと離れ離れにならなくていいことを喜んでくれることとなる。
彼女たちに何か危険があっても、プルが俺に知らせてくれるだろう。そしたら転移魔法で、彼女たちのもとに駆けつければいい。プルが持つ特性の一つとして、プルの分体はそれぞれ離れていても瞬時に意思疎通が可能だという能力があった。
だから俺はその能力を利用して、プルにはアマンダさんたちのボディーガードを頼んでいる。実はプルは、ものすごいスライムなのだ。
「さて、これからどこに向かおうか」
のどかな街道を、俺の馬車がのんびりと進む。カポカポというゴーレム馬が歩く一定のリズムを聞きながら、俺は馬車の屋根に上って日向ぼっこをすることにした。
この先、俺の異世界生活にはどんな出会いが待っているのか。楽しみである。
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