第22話 従魔スライムの創造
今日も俺は、麗しの庭園の誓い邸に用意された私室でくつろいでいた。
アマンダさんとミュゼルさんとマーリンさんには、大切な用事があるのでしばらく一人にしてくれとお願いをしている。前回のこともあり、俺の言葉を聞いた彼女たちは妖しい瞳でウキウキとし始めてしまったが、彼女たちには今回はTSポーションを使わないと言っておいた。その言葉を聞いた瞬間の、三人の落胆具合といったらすごかった。
俺は今のうちに、とある用事を済ませてしまおうと考えている。
先日の経験を反省し、俺はいざというときに自分を守ってくれる相棒が欲しくなったのだ。
やはり異世界転移といえば、モンスターの相棒だろう。つまり、今回の俺は創造魔法を使って従魔を生成しようと計画していた。
今回、俺が作るモンスターはスライムだ。機能的だし、愛くるしいからな。
なにより、俺は異世界転移において、スライムを従魔にするということにあこがれていた。
「――よし!やるか!」
この異世界には、モンスターをテイムして従えるテイマーのジョブがちゃんとある。街中でチラホラと、強力なモンスターを従えている冒険者を見かけることが何度もあった。
また、飼育の手間はかかるが、モンスターに馬車を引かせる高速馬車なるものもこの世界には存在している。それくらいに、この異世界ではモンスターは人間の生活に身近だった。
各国の軍隊などでは、ワイバーンをテイムして空を駆ける竜騎士が花形とされているくらいだ。
強力な魔物を従えるテイマーは、その危険度ゆえ街の中に出入りするために特別な手続きも必要になってくるが、スライムくらいなら簡単な手続きで済む。
この世界のスライムは特に人間に害を与えるわけではなく、むしろ、色々なものを消化してくれるので便利な生き物として扱われていた。言うならば、スライムを利用した廃棄物のバイオマス処理といった感じだろう。
だからスライムなら、俺が街の中で引き連れていても特に目立つことはない。俺が元いた世界で例えるなら、爬虫類を飼育しているくらいの珍しさだ。
こういう利便性もあり、俺はこの世界でテイムするモンスターとしてスライムを選んだのだ。
というわけで、俺はさっそく創造魔法を使って従魔スライムを作ることにする。
――バチバチバチ!
「うわっ!」
しかし、順調にいっていたはずの俺の従魔スライム創造に突然、異変が起き始めた。ものすごい轟音とともに、俺が創造魔法で作りかけていたスライムがいきなり雷を撒き散らし始めたのだ。
さらには、何かとてつもなく邪悪で冒涜的な魔力が外部から侵入してきた感覚がしたあとに、その魔力が生成されかけたスライムの中に勢いよく吸い込まれていく。
俺にはこの極悪な魔力の持ち主として、思い当たる人物が一人だけいた。そう、邪神さんだ。
「ククク。貴様には、世界に混沌の種を蒔いた褒美をくれてやる」
案の定、すぐに邪神さんからおかしなメッセージが俺の頭の中に届くことになる。もちろん、世界に混沌の種など蒔いた覚えのない俺は邪神さんに質問を返すことにした。俺は邪悪な活動など、何一つしていない。
「世界の混沌って、なんですか?」
「エルドス帝国帝都の広場で、貴様は混沌の種を人々に蒔いていたではないか。あれは数年後、大きな事件になるぞ」
邪神さんの堂々とした宣言を聞いた俺は、ハッとさせられる気持ちになった。
邪神さんの言う世界の混沌とは、どうやら俺の封印したい帝都での黒歴史のことらしい。確かに彼の言う通り、数年後に当時のことを思い出したら悶絶したいほどの大事件になるだろう。もちろん、俺にとって。
邪神さんはどうやら、わざわざこのタイミングで俺の黒歴史を茶化しに来たようだ。邪神は、やはり邪神である。
しかし、そんな俺の気持ちになど関係なく、依然として俺の目の前にある生成しかけのスライムには冒涜的で破滅的な魔力の塊が次々と混ざり込んでいる。その見た目は、まるでブラックホールのようだ。
多分この世界にいる聖職者が今俺がしていることを目撃したら、確実に俺は全世界に指名手配をされることになるだろう。それくらいに、今の室内は悪逆な状況になっている。
だって、俺の部屋には見る者をすぐさま発狂させるような怪しい黒霧が大量に発生しており、誰がどう見てもヤバいこの世の終焉を告げるような空気を持つ生き物が誕生しようとしているのだ。
そんな世界の終わりを感じさせる破滅的な魔力が、徐々にスライムの形に変化していく。そしてその魔力は次第に、質量を身にまとい始めていた。
どうやらもうすぐ、俺の従魔スライムが生まれるようだ。部屋の雰囲気が通常のものに戻ってきている。
俺は細かいことを気にするのは止めて、愛情を持って生まれてくるスライムを迎え入れることにした。スライムはスライムである。貴賤などない。
「では、さらなる混沌を期待しているぞ」
「あ、おつかれさまです」
邪神さんの気配が去った後に部屋に残されていたのは、一匹の少し透明な青色をした、まるでこの世に実態が存在していないかのような、そんな不思議な印象を持つスライムであった。
とりあえず俺はその不思議なスライムに、鑑定スキルをかけてみることにする。
異世界辞典
クトゥルスライム
創造神を冒涜する存在。世界に混沌をもたらす
「俺、従魔登録の手続きちゃんとできるかな?……冒険者ギルドにこのクトゥルスライムを連れて行った瞬間から、世界の敵認定されたりしない?」
異世界辞典の説明によると、どうやら俺が生み出したスライムはこの世界にとってかなり危険な存在のようだ。創造神を冒涜する存在って、具体的に何をする存在なんだろう?
しかし俺の心配をよそに、当のクトゥルスライムは人懐っこそうにその場に留まりながら、フルフルとかわいく左右に体を揺らし続けている。
「よし!お前の名前はプルだ!よろしくな、プル」
とりあえず、俺は従魔スライムに名前をつけることにした。邪神さんの横槍が入ったが、正真正銘俺が自らの手で作り出したスライムだ。愛着もある。責任を持って、俺が面倒を見なくては。
……フル……フル
俺が従魔スライムにプルと名付けると、プルは嬉しそうに体を左右に揺らす。どうやら、プルはとても人懐っこいスライムらしい。
それに、体の揺れで俺にはなんとなく、プルの感情が分かるようだ。今のプルは、俺に名前をつけてもらってとても喜んでいる。
「……かわいい」
「ボク、スライムを飼うの、小さい頃に憧れてたな~」
「よろしくな!プル!」
その後すぐに麗しの庭園の誓い三人組にプルのことを紹介すると、彼女たちは好意的にプルを受け入れてくれることになった。そして俺はすぐに冒険者ギルドに向かい、プルの従魔登録手続きをする。
冒険者ギルドで従魔登録をする際にもプルはクトゥルスライムではなく、ただのスライムで通すことが出来た。これで一安心だ。というかクトゥルスライムなんて、この世の終わりに出現する神話の存在だってみんなに笑われた。どうやら俺は、物語の読み過ぎだそうだ。
こうして、俺のパートナーの従魔スライムが誕生したのである。
「プルちゃん。ボクの膝の上でご飯を食べなよ!」
「……ミュゼル、だめ。……プルは私とご飯を食べるから」
「ふたりとも喧嘩はよせよ。私が責任を持って、プルにご飯を食べさせるから大丈夫だって!プル!こっちにおいで!」
どうやら麗しの庭園の誓い三人組は、たいそうプルのことがお気に召したようだ。彼女たちは熱心に、今日もプルの世話をしてくれている。むしろ誰がプルにご飯を食べさせるかで、三人の間に取り合いが起きてしまうほどだ。
ちなみにプルはこのあと三体に分裂して、三人にそれぞれご飯を食べさせてもらっていた。プルはスライムながら、世渡り上手なのだ。
「さて、明日は何をしようか」
こうして今日も、のんびりとした異世界生活が続いていく。
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