第6話 ひかりの先へ

支配者様が私に問い掛けました。


『君は、どうしたい?』


私の発した言葉は明快でした。


『母に会わせて下さい』


それだけの事です。

支配者様は微笑みを絶やす事なく語り続けていました。心地の良い響きでありました。


『君は普通の人になりたいのかい?』


『いいえ』


『ならば、どうなりたいのかな?』


『私は、私のままでありたい』


支配者様は私を抱きしめてくれました。

私は母を殺めて以来、すっかり歳をとってしまった様です。

この53番街を見下ろす丘の上のホテルは、所謂最期の砦とでも申しましょうか、この世とあの世を隔てる処なんだと、薄々は判っていたけれど、それがハッキリした途端に怖くなっている自分が情けない。身体中の震えが止まらなくて、涙も何故か止まらない。


みうちゃんもかいくんも、僕と同じ恐怖を味わったのかな?

支配者に抱きしめてもらっていると、不思議に懐かしい匂いがした。

うたごえも聞こえています。

僕がむかーしにきいていたような歌。

おひさまがぽかぽかしていて、ゆらゆらゆれているのがとってもきもちがよいです。


おふねにのってるみたいでした。

ボクのおかおのちかくで、おかあさんがすごくやさしそうにわらってくれています。

おかあさんのにおいは、おみかんみたいです。

ボクは、ぎゅっと、おかあさんのせなかをつかみました。

うれしかったです。


ぽかぽかぽかぽか。

ボクはおひさまにだっこされて、びゅーんっておそらにとんでいきました。


ありがとう。



おしまい。

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ホテル下53番街 みつお真 @ikuraikura

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