第3話 克服開始

 啓司はイノリさんに言われた通りに父親が帰ってきた時に部屋から出てこようとしていた。


「はぁ…はぁ…」


 少し呼吸が乱れながらも少しずつ前へ前へ進んでいった。そして…父のいるリビングまでたどり着いた。


「哲司!?大丈夫なのか?」


「う、うん…少しでも…せめて母さんと姉さんだけでも…元に戻れたら…」


 そう父に伝える哲司の目には涙が零れていた。


「わかった。無理だと思ったら部屋に戻っていいからな」


 そう父は哲司に伝えると母と夏樹を呼びに部屋へ行った。その時の啓司は足の震えが止まらずに椅子に腰かけた。


「啓司…呼んできたぞ」


「啓司!」


 啓司の顔を見るや否や夏樹は啓司に抱き着いた。


「啓司…だいじょ…」


 母が大丈夫かと問い終わる前に啓司の反応を見ると、呼吸は乱れているモノの当初の過呼吸とまではいかないほどの落ち着きを見せていた。


 このとき啓司は

(ありがとうございます…イノリさん…あなたのおかげで家族とはわだかまりなくすごせそうです)

 と心の中でお礼を言うのであった。


 そして啓司は家族にこれまでの経緯を話した…すると母は話を変えるように


「啓司…進路どうするの?あなたがそこまで考えているなら…」


「そうなんだけど…やっぱりまだ…」


 ここで夏樹が割り込むように


「といううか…なんで教師はこのこと知らないわけ?」


「多分……隠してるんだと思う…その……」


「だから美来ちゃんが気付かなかったのね」


「美来…見たんだ…」


 啓司は俯いてすこし呼吸が乱れて過呼吸になってしまい。ここで父が止めに入り


「母さん、夏樹これ以上は…」


 そう言われてから母と夏樹は何も言わずに啓司を見つめて


「そうね…ごめんね啓司…明日先生に来てもらう?」


「うん…進路相談できてないから…」


 啓司は父に運ばれて部屋に戻ると


「父さんは嬉しかったよ…啓司が少し前に進んでくれて」


「ううん…1人じゃなにもできないのは変わってないよ…」


 そう言って啓司は部屋の扉を閉めた。それから啓司はAWを始めるためにPCの前に座り心を整えてからログインした。


『あ!ケイくん来た!』


『は、はい!』


『どうだった?話せたかな?』


『少しだけですけど…』


『よかったよかった』


 こうしてAW内でイノリさんと祝杯をあげたのであった。

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