第69話 はじめて校閲をしてもらった(22)

 第八章第一話。微調整と語順の調整。あと、少し長い文章の捻じれた表現の調整のみ。

 二話。三話。ここも微調整のみ。


 四話。


 憮然とした顔をしている。 → 明らかにすねている。(憮然は驚きやショックで言葉が出ない様。わたしもずっと誤用してました)


 あれれ。


 無数の言葉と感情。しかしそれを与えてほしいのは、ジェイだけなのか。誰も代わりになれない?

 ← 表現調整。主語と述語が合致していません。人称に注意。

「カツミが欲している無数の言葉と感情。それを与えられるのはジェイだけ? 誰も代わりにはなれない?」


 ほぼそのまま頂きました。


 主語を省略した書き方の時、述語の不整合が時々見られます。主語補完した時に文意が取れることを、必ず確認してくださいね。


 うい。てか、主語をなるべく省くなよって話よね。ううう。


 五話も細部のみ。


「もはや地に落ちたわね!」→「威信はもう地に落ちてるわ!」「言葉に」→「説明に」「サラの返しは、もう吐き捨てるようである」→「サラの言い様は、棘がむき出しになっていた」「耳をすます」→「耳をそばだてる」「言葉を返した」→「主張を整理して言い直した」

 などなど。言葉にネーミングしていますね。これらの言い直しはホント勉強になったなあ。


 第九章一話。


 うーん……ここだけは要書き直しだなあ。

 ここね、誰がどの視点で何を見ているのかがすんなりわからないんです。おそらくるっしー視点に近いナレーションなんだろうけど、るっしーの思考、カツミのモノローグ、ふあさんの神視点の解説がごっちゃになっていて、読んでいてすごくもやもやします。

「その意味はまだ分からない。」←これがその典型。「誰」にわからないの? カツミ? るっしー? 読者?

 ここは中途半端に誰かに寄せずに、完全に中立ナレーションにしてしまった方がいいんじゃないかなあ。


「カツミは今、切り立った崖の上で危ういバランスを保っていた。ほんの少し身体を傾けただけで奈落に落ちてしまう、鋭い稜線の上にいるのだ。

 カツミが眠れないのは、奇妙な夢のせいだった。地平線の彼方まで広がる真っ白な世界。薄く水の満たされた音も風もない世界。カツミはその中心に放り込まれ、呆然と座り込んでいる。耐え難い虚無の夢。何度も繰り返し同じ夢を見続ける。

 夢の中に恐ろしい怪物はいない。しかし光輝くだけの無音の世界はあまりにも孤独だった。孤独を恐れて育ったカツミは、夢のなかですら孤独を強いられてきたのだ。

 白い夢の意味はカツミ本人にも分からない。ただ、その夢がカツミの生命を脅かしているのは確かだった。

 ジェイと一緒の時だけは、その夢から解放された。しかしもうジェイはいない。カツミは必死にすがれるものを探していた。最愛の人との約束を守るため。それだけのために。

 カツミのリクエストの出どころを勘違いしているルシファーだったが、カツミが必死に伸ばす手を拒む理由はなかった。」

 わたしが書くならこんな感じ……という例です。


 白い夢の理由は……続編で明かされます(おい)ここは、続編への伏線ってところだなあ。んで、添い寝にゃんこ・カツミの行動理由(笑)


 愛情を与えられずに育ったカツミ。最も欲しているのは安心できる場所、スキンシップ、信頼。そして自由。

 しかし、ジェイがどんなに愛情を注いでも、カツミは砂漠が水を飲むように受け取れずにきた。ずっと満たされることのない、穴のあいた器。


 ジェイに守られていたのはたった一年だったけど、続編はこの話の十年後。ルシファーとは穏やかにじっくりと。時間がカツミを癒していきます。その間にカツミは特殊能力の制御も覚えていく。自分が最も恐れているものをコントロールできるようになっていくんですよねえ。時間薬だな。


 変更後。


 カツミは今、切り立った崖の上で危ういバランスを保っていた。ほんの少し身体を傾けただけで奈落に落ちてしまう、鋭い稜線の上にいるのだ。

 カツミが眠れないのは、奇妙な夢のせいだった。

 地平線の彼方まで広がる真っ白な世界。薄く水の満たされた音も風もない世界。カツミはその中心に放り込まれ、呆然と座り込む。耐え難い虚無の夢。何度も繰り返し同じ夢を見続ける。

 夢の中に恐ろしい怪物はいない。しかし光輝くだけの無音の世界は、あまりにも孤独だった。孤独を恐れて育ったカツミは、夢のなかですら孤独を強いられてきたのだ。

 白い夢の意味はカツミ本人にも分からない。ただ、その夢がカツミの生命を脅かしているのは確かだった。

 ジェイと一緒の時だけは、その夢から解放された。

 しかしもうジェイはいない。カツミは必死に縋れるものを探していた。最愛の人との約束を守るため。それだけのために。

 添い寝の理由を勘違いしているルシファーだったが、カツミが必死に伸ばす手を拒む理由はなかった。


 第二話。


 なんと言えばいいのか。どう接すればいいのか。この気持ちは変わらないというのに。カツミに対する想いだけは。

 ← 表現調整。うーん……。セアラが、女性っぽいところから男性っぽいところまでぐらぐら揺れてます。言い回しを統一させた方がいいかなあと。

「なんと言えばいいのだろう。どう接すればいいのだろう。カツミに対する想いは、ずっと変わっていないのに。」


 ここは、まんま貰っています。

 ふむー。女性っぽい言い回しかあ。そういうの考えたことなかったな。感覚で書いてら(おい)キャラに関しては、中性的な人物が多いんだよな。ライアンはまあ、その中でも男性的かもしれんが。セアラやサラ。女性キャラに関しては、主張がハッキリしていて芯のある女性。男性キャラよりも骨太だよな。


 それと場面転換はきちんとわかるようにした方がいいですね。

 ドライブ中のカツミが、朝ルシファーと交わした会話を思い出す部分。パラグラフの頭がいきなり会話で始まるので、面食らいます。最後まで読まないとシチュエーションがわかんないんですよ。(^^;; そこは一工夫してください。


 回想の冒頭。


 自動走行の車がハイウェイに乗った。カツミは変化のない景色をぼんやり眺めながら、今朝のルシファーとの会話を思い出していた。


 ◇


 回想の終わりと、次のシーン。


「どういうこと?」

「行けば分かりますよ」


 ◇


 ──行けば分かりますよ。

 朝、ルシファーと交わした会話の意味は、別邸のドアを開けたとたんにカツミの知るところとなった。


 なんで時系列ではなく回想にしたのかは、もう思い出せんわ(笑)


 向けられた瞳は泣き腫らしたように赤く、そして憎悪に満ちていた。

 ← 表現調整。「向ける」排除。瞳の色は不変。充血して変わるのは眼(目)です。「シドの眼は泣き腫らしたように赤く、憎悪に満ちていた。」


 変更後。げっ。マジか。瞳の色は変わらないのか。


「帰れ!」

 シドの目は泣き腫らしたように赤く、憎悪に満ちていた。


 三話。細かいチェック。


「推し量るように」→「カツミの反応を探るかのように」「カツミは言葉をなくしていた」→「カツミはただ呆然としていた」「高をくくっていた」→「安易に信じ込んでいた」「シドは」→「シドの怨嗟(えんさ)は」


 シドの言葉はとても現実的で、先ほどの狂気の片鱗すら窺い知れない。だがカツミは身体を硬くしたままでいた。シドがいつ狂気を再燃させるかと息を殺している。しかし次のシドの言葉もいつもの彼のものだった。

 ← 表現調整。丁寧に。「言葉」削減。中立のナレーション徹底。

「シドの言葉はとても現実的で、先ほどの狂気はかけらも含まれていなかった。しかし、シドがいつ狂気を再燃させるかわからないと怯えたカツミは、ずっと身体を硬くしたままだった。そんなカツミの心情を知ってか知らずか、シドがいつものように軽口を叩いた。」


 変更後。


 シドの言葉はとても現実的で、先ほどの狂気の片鱗すら窺い知れない。だがカツミは、シドがいつ狂気を再燃させるかと身体を硬くしたままでいた。

 緊張しているカツミに気付くことなく、シドがいつものように軽口を叩く。


 こういうとこ。書き方の違いが出るなあ(笑)


 全体としては細かいところだけなんですが、少しずつ表現が足りないという印象を受けます。特に行動描写と感情表現。省略が行きすぎていないか、頻出ワードを安易に使っていないか、十分吟味してくださいね。


 省略が行きすぎてる時ってのは、脳内映像がですねーー(もう聞き飽きた?)丁寧に、読者に親切に、しかし「うざったい、もってまわった表現はいらねえよっ!」ってやつなんですよねえ(汗)削って削って、シンプルな部分と重要な部分のメリハリをつける。大事だな。


 いまですよー。中島梓氏の本を再読中なのだが。これ校正かけてんのかな(笑)誤字あるある。削っていい部分が山もりある(笑)削ったら半分になるだろうなーと思いつつ、この蛇行しまくった文章の勢いって、もう手が動くまま、思いつくまま、感情の爆発そのままって感じなのよね。

 恩田陸氏の小説のなかで、こんなセリフがあったな。ドラマの方だったかな。「だって物書きだもの。溢れ出る感情を抑え切れません」。


 うん。初稿ってそうだよなあ。そこからどう推敲するか、だよなあ。


 んじゃ、また!


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