第27話 別れ

彼女は救急車で総合病院に運ばれた。

連絡を受けてすぐに彼女の母親、親友の美花も駆けつけてきた。

あの丘にいた時点で亡くなっていることは判明していたものの、医師たちは真剣に手術をした。

だが、懸命の治療も虚しく彼女の意識がこの世界に戻ってくることは、なかった。

ストレッチャーに乗せられた彼女が病室に運ばれてきた。

医師も看護師も申し訳なさそうに俯いている。

親友の美花は突然の出来事に頭を抱えるほどパニックに陥っていた。

医師が静かに死亡報告を告げる。

「水野結衣さんは十二時五七分、死亡が確認されました」

彼女の母親はその報告を聞くや否やしゃがみ込んで涙を流していた。

一方美花は虚ろな目で穏やかな顔で眠る彼女を見つめるだけで涙一粒も溢さなかった。

やがて美花は徐々に状況を把握し、その場に座り込むように膝から崩れ落ちた。

「嘘……嘘だよね……?」

掠れた声で呟く美花の頬には大粒の涙が伝っていた。

「嘘だって言ってよ!どうしてよ!?どうして結衣なんだよぉぉ!!!」

美花は苦しそうに嗚咽を漏らしながら冷たくなった彼女の手を強く握りしめる。

「ねぇ、起きて!結衣。なんで何も言ってくれないの!ずっと傍にいた私になんで何も言ってくれないの!勝手に一人で死なないでよぉ!」

美花は血が滲むのも構わず、強く唇を噛み締めていた。

「どうして、どうして……結衣、ゆい、ゆいぃぃぃーーーーー」

その後も美花はどうして、を繰り返し、ストレッチャーを霊安室に運ぼうとしている医師たちの邪魔をした。

医師たちが「危ないから退いてください」と言ってもお構いなしだった。

美花には聞こえていなかった。医師達の声も、看護師達の声も。

目の前の彼女しか見えていなかったのだ。

仕方なく医師たちは諦めて彼女の母親を病室の外に呼び出した。

看護師たちが医師の後を雨後のたけのこのようについていった。

その中には神崎の姿もあった。

神崎は涙を流すことさえもできない状態にあるように見えた。

病室には僕と美花、そして目を閉じて開けない彼女だけが取り残された。

僕は病室の端に立ったまま動かなかった。

「あんたのせいでしょ……!あんたのせいなんでしょ!?」

美花が急に声を荒げ、怒ったように僕をきつく睨みつける。

「あんたが流れ星なんて見せなければ……!こんなことにはならなかったのに……っ!どう責任を取ってくれるんだよぉぉぉ!」

美花は取り乱したように必死の形相で僕に詰め寄る。

僕はその猛獣に一言呟くことしかできなかった。

「ごめん……」

「ごめん、で済むか!結衣はもう帰ってこないんだ!じゃあ、結衣を返してよ!私の大好きな親友を返してよ!」

美花はそう病室に響き渡る声で叫ぶと走って病室を出ていってしまった。

彼女はもういない、僕はその現実を受け止め切れていない自分がいるのに気がついた。

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