第22話 意識不明状態
長かった夏休みも終わり早くも肌寒くなる季節、秋になった。
と言っても九月はまだまだ暑い。
秋の区域に入る季節なのに夏の尋常な暑さが残る九月は少なくとも僕は嫌いだ。
葉も徐々に赤や黄色に色づき始めていて通学路にも沢山の落ち葉が散乱していた。
それを見ていると少しテンションが上がり、スキップしたい気持ちに駆り立てられる。
まあ、この後もあまり問題なくやっていけそうだ。
一つ言えば、夏休みが終わった次の始業式の日の帰り道、彼女の親友、美花とばったり出くわした。
急いで目を逸らしたが、美花はきつい目でこちらを睨んできた。
恐ろしい。猛獣のようだ。
美花だけではなく、美花と一緒にいた友達にまで睨まれてしまった。
噂が広まるのは一瞬だ。特にあのグループには気をつけないと。
九月も中旬に差し掛かった頃、久しぶりに彼女の病院へお見舞いに行った。
「やっほー!久しぶりぃ!」
彼女の病室に入ると彼女がいつにも増してテンションが高かった。
「君はいつでも元気だね」
僕がため息をつきながらベッドの隣の椅子に座ると彼女がだってー、と声を出した。
「もうすぐだよ!獅子座流星群!」
「うん」
「君っていつでも反応薄いから困っちゃう。一緒に見ようね!ところでいつ見られるんだっけ?」
「前、言わなかったっけ?十一月十四日頃から二十四日頃まで見られるよ。十七日が極大を迎えると言われている」
「へぇ!知らなかった!」
彼女は目を見張りながら感心したように大きく頷いている。
「絶対行こうねっ!約束だよっ」
彼女は大きな笑みを見せてそう言った。
「分かったよ」
僕はそう言って病院を後にした。
次の日病院に行くとナースステーションが心なしが騒然としていた。
「あの、どうしたんですか?」
僕がナースステーションでそう聞くと忙しそうにカルテを閉じたり開いたりしていた若い女性の看護師は振り向きながら早口で捲し立てた。
「ああ、あなた、結衣ちゃんのお友達の……中川君だっけ?」
「いや、僕は中村です」
僕がそう訂正すると看護師は別にどうでもいいけど、と呟きながら少しきつめの口調でこう言った。
「友達なのに何も知らないの?結衣ちゃん、病状が最近悪化してるじゃない?今日の朝、呼吸困難になっちゃって……。今も意識不明の状態だから安静にしていないとダメなのよ。だからお見舞いは無理よ。今は面会謝絶の札がかかっているはずだから」
看護師はそこまで言い終わると他の看護師に呼ばれて奥の方へ戻っていった。
僕はその場に座り込みたくなった、
目眩がした。
彼女の病状が悪化しているなんて微塵も知らなかったから。
そのまま、彼女の意識不明状態がおよそ一ヶ月続き、その間病室に行っても毎回同じ[面会謝絶]と書かれた札がかかっており、彼女の顔を見ることもできなかった。
いつメールアドレスを交換したか忘れたがメールを入れてみても一向に返事は返ってこなかった。
その日はよく晴れた秋晴れの空だった。
彼女の意識がようやく戻った。
その連絡を受けた時僕は彼女の病室へ飛んでいきたい気持ちだった。
実際、授業中だったのでそれは不可能であったけれど。
僕は学校が終了するとすぐに病院へ向かった。
彼女の病室へ行くとドアは開け放たれていてベッドには誰もいなかった。
僕が息を切らしながら立ちすくんでいると彼女を担当していた看護師が僕の前に来た。
「結衣ちゃん探してる?」
「あ、はい」
僕が頷くと彼女を担当していた看護師、
「結衣ちゃんは死にました………って言ったらどうする?」
「え……」
僕の心が急速に凍りついた。
彼女が死んだ……?
そんなはずがない。意識が戻ったのだから。死ぬはず……ないのだ……。
僕が狼狽えているのを見ると神崎は少し笑って言った。
「嘘だよ。結衣ちゃんは病室を移ったの」
僕がその言葉に心から安堵のため息をついていると神崎がこう聞いた。
「どうして私があんなこと言ったのか分かる?」
「分かりません」
正直内心では怒っていた。
彼女を勝手に殺すなんて。
僕は彼女の彼氏ではないからこんなこと言う資格ないのかもしれないけれど。
それでも許せなかった。
「それくらい君は結衣ちゃんのことを大切にしなさい、ってことだよ。いつ死ぬか分からない病気を持っているんだから。それを理解した上で付き合ってるんだから。君の気持ちが
「はぁ……」
何を言っているか分からなかったが僕は曖昧に頷いておいた。
僕は早く彼女の病室に行きたいがあまりに神崎から教えてもらった新しい病室へ行こうとしていた。
すると神崎の大声が聞こえてきた。
「結衣ちゃんをしっかり捕まえておけよ!」
振り返ると神崎は爽やかに笑っていた。
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