第16話 異変

僕はしばらく眠っていたが、ある音で目が覚めた。

見ると和室の障子から明かりが漏れている。

僕は起き上がり、和室に近づいた。

すると中から彼女のぶつぶつ言う声が聞こえてきた。 

途切れ途切れだがはっきりとしていた。

「ここ……美花宛……宛に書こう……遺……枕の……気づ……どうしよ……」

なんだろう?彼女は向こうで何をやっているのだろう。

障子に移る影を見ると彼女は机に向かって何かを書いているように見えた。

僕はさっき彼女の途切れ途切れに聞こえた声を思い起こす。

美花宛と言っていた。

親友に宛てた手紙を書くのだろうか。

枕とも聞こえた気がする。

僕は推理しようとしたが頭が働かなかったので再びベッドに寝転んだ。

それと同時に彼女が和室の襖を開け出て来たので僕はそのまま何も考えずに寝た。


—あの時彼女の言った意味が分かっていれば僕はもっと早く彼女のの異常に気がつけたかもしれなかった。



窓から差し込む眩しい朝の光が僕を照らした。

彼女は朝風呂に行っていいていない。

僕は窓を開け、バルコニーに出た。

目の前の海が昨日の夜とはまた違って見える。

もう夏も終盤だ。

海がさざめく音と共に綺麗な音色が下から聞こえた。

僕が下を見るとあるおじいさんが庭にあるピアノを弾いていた。

すごく上手だがどこか寂し気のある演奏であった。

その演奏は地平線よりも遥か遠くまで届いていく。

僕はその音色に完全に聞き入っていた。

おじいさんはふと上を見上げたのか僕の方を見た。

僕とおじいさんの目がバッチリ合う。

僕は慌てて部屋の中に引っ込んだ。

すると一旦止まった演奏がまた続いた。

その音色と共存したように思った。

僕はその音をずっと聞いていたい気がした。

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