第14話 彼女の本音
下へ降りると
と僕たちを夕食会場へ案内した。
座るところは座敷で僕たちは座布団に座る。
案内役の女将さんは「今から料理を準備します」と言い、引き上げていった。
きっと彼女が食事のメニューまで事前予約していたのだろう。
彼女は「ここ初めてだから楽しみー」と頬を紅潮させていた。
「美花とも一回行きたいんだけどもうすぐ死ぬからねー行けないかなー」
「まだ時間はあると思うけど」
「冬休みとかも美花、部活詰めでさぁ。予定合わないのー」
「じゃあ夏休み最終日とかにすれば?」
「ダメダメー私たち追い込み期だから」
「は?」
「追い込み期!夏休みの宿題の追い込みってことー」
「君、まだ宿題やってないの……?」
「うん!まだ全然手をつけてなーい」
「君……何のための休みだと思ってるの?」
「遊ぶため!」
「宿題は最低限でしょ。何で君の親友も同じなの?」
「美花はねぇ、部活で忙しくて宿題どころじゃないらしいー」
「親友の言い分は分かるよ。君は?」
「私は……休む時間がないからー」
「君の言い分は分からない。何かで忙しくしてるんじゃないんだからしっかりしなよ」
「えー……そう言う君はやってるの?」
「僕はとっくに終わってるよ」
「えー!?早っ!?君は異常だよー病院行けば?」
「僕は普通だと思うよ。君の方が異常体でしょ」
「君ってひどいよねー」
そうこう言っているうちに最初のお刺身が並んだ皿が運ばれてきた。
前の寿司屋より味が少し下回っている気がするが美味しそうではあった。
並んでいる刺身は、赤身とエビとイカとサンマだった。
彼女は「赤身は硬いから嫌ー。イカも嫌いー」
と言って端に退けていた。
「君はもったいないことをするね」
「しょうがないじゃんー君は好き嫌いがなさすぎー」
彼女はエビを頬張って髪をかき上げた。
「君が好き嫌い多すぎなんでしょ」
「君ってばさぁ、ああ言えばこう言うー」
「そうでもないと思うけど」
彼女はエビとサンマを食べ、箸を置いた。
僕は赤身を食べた。
確かに少し硬い。前に大トロを食べたからか硬く感じる。
「あぁもっと美味しいもの食べたいー」
「そう言うのここに失礼でしょ」
「違うのーなんかもっとこう……刺激のある料理が食べたいのー」
「どら焼きでも食べてれば?」
「何でどら焼き?どら焼きって全く刺激ないー君センスなさすぎー」
そう言う彼女の前から皿が下げられ、しばらくしてから次の皿が運ばれてきた。
「うはぁー天ぷらだー私天ぷら好きー」
彼女は天ぷらを箸で突き刺して頬張る。
噛みごたえのあるエビと少し季節は早いがサツマイモ、よく熟しているナスもあった。
この後もいわゆる日本定食をとことん味わった。
最後のデザート、
「私がいつも笑っている理由はさ、辛いことを忘れるためなんだよね。本当はもっと生きていたかったなぁ。それにもっと普通の女の子で青春を楽しみたかったなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、硬直し、真顔になった僕を見て彼女は笑いながら誤魔化した。
「冗談だよー嘘ですー」
彼女は最後の白玉を口に入れて「マジになんないでよー」と言った。
僕は彼女が今言った言葉は本気なんだろうなと思った。
それを考えたらなんて返していいのか分からなくなった。
彼女は立ち上がると「部屋戻ろー」と言って女将さんにお辞儀をして出て行った。
僕も慌ててついていく。
部屋に戻るまで僕は彼女と一言も口を交わさなかった。
彼女も同様であった。
彼女は部屋につき、鍵を開け、電気をつけるとベッドに倒れ込んだ。
「うはぁーお腹いっぱいー美味しかったねー」
「うん……」
「あれぇ?なんか君ノリ良くないねーどうしたのー?」
本当に彼女はタフだ。僕は適当に彼女の話に応じた。
「僕だって元気がない時ぐらいあるよ」
「そうなの?まぁ人間生きてたら道に迷うことだってありますよー」
彼女は勝手な解釈をし、「せっかくの旅館だからお風呂入ってくるねー」とバスタオルを持って部屋の外に出て行った。
僕は一人になった。
僕は迷っている。彼女が言った通り道に迷っているのだ。
何かから逃げている。
僕は直感的にそう思った。
彼女も。そして僕も。
彼女がさっき言ったことが頭を離れず、僕はベッドに横たわった。
彼女にとって辛いことは『死ぬこと』。それを忘れるために無理して笑っているのか。
もっと生きたかった。それも彼女の本音だと思う。
親友みたいに元気に健康体で運動したかったのだろう。
これからの希望のある毎日を皆のように学校に通って他愛もない話をして笑いたかったのだろう。
自分の無力さが分かって大きなため息をつく。
僕は彼女に何もしてあげられない。
してあげることができない。
そう考えていると僕はいつの間にか深い眠りについていた。
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