第13話 神様は彼女の味方

「神様は僕の味方になってくれなかったよ」

僕がため息まじりにそう言うと彼女は笑いながら「私の勝ちってことねー」

と言った。

その顔がなんとも憎たらしい。

結局あの後、僕たちは帰ろうと思ったが思ったより時間が遅くなってしまい、あの海から駅まで時間もかかるので彼女が調べた近くの旅館に泊まることになった。

しかも予約済みらしい。

絶対泊まれるように時間を設定したなと思いながら僕は彼女を恨んだ。


僕は辺りを見回した。すごく綺麗な旅館だ。

新装開店したばかりらしく全てが真新しい。

「海の近くの旅館なんてロマンチックー」

「どうして僕が……」

僕は言いかけた言葉を飲み込んで椅子に座った。

彼女は予約の手続きをし始めた。

僕はボーッとしながらカウンターの方を見つめる。

意外とすぐに予約確認は終わったみたいで彼女は鍵を渡されて説明を受けているらしい。

彼女は何度も頷き、そして僕の前に戻ってきた。

「終わった?」

「うん!ということで三階だってー」

鍵を手にぶら下げながら彼女はエレベーターまで歩を進めて行く。

僕は何気なく彼女の手元を見る。

すると彼女の手にぶら下がっていた鍵の数は一つだった。

僕は何かおかしなものを感じて彼女に尋ねた。

「君……確認だけど鍵は何で一つしかないの?」

彼女は振り返ってニッコリ笑いながら僕の前に鍵をぶら下げた。

「元々一部屋しか予約してないからー」

「は……?」

「ふふんー君は私と泊まるの嫌みたいだけどざまあみろ」

彼女は得意気に大股でエレベーターに乗る。

僕は足元がぐらつくのを感じた。


気がつくと僕は部屋の中にいた。

いい部屋ではあるが、これを彼女と一緒にとなると話は違う。

「わぁ広いーーめっちゃスイートに近いよねー」

彼女は興奮しながらあちらこちらを回っている。

彼女は畳の部屋に行き、机の上にあった和菓子を封を切り、くわえながら戻ってきた。

「向こうに和室があって、ここが洋室じゃん?ベッドで寝る?布団で寝る?」

「選択肢があるのは贅沢なことだね。僕は断然ベッド派だから」

「あれー?気が合うねー私もベッド派」

彼女はベッドに身をまかせる。

僕は隣にあるベッドに座った。

「ベッドがシングルなだけでも僕は助かった気分だよ」

「ダブルでもよかったんだけどねー」

「ダブルだった場合、僕がベッドで寝るから君が布団で寝るんだね。まぁそれかその逆」

「君が布団でしょ。女の子はベッドじゃなきゃ」

「そんな決まりないでしょ」

「ないよー」

彼女は窓を開けてバルコニーに出る。

「わぁぁー海、綺麗ー」

僕も試しに窓の外を覗いてみると確かに綺麗であった。

夜の海は月が長い影を作っている。

風がかすかに吹く中、彼女は夜空を見上げた。

無数の星が光り、彼女の目を反射させる。

「本当に星って綺麗。流れ星も星もやっぱり好きだなー」

「流れ星の方が僕は好きだけど」

「私だって流れ星の方が好きー」

彼女は中に引っ込んで和室に入り、僕の分の和菓子を持ってくる。

僕はありがたく受け取り、それをベッドの上に置いた。

「あーそういえば夕食の時間ー行こ行こ」

「僕は前々からお腹がすきまくってたよ」

「でしょ?楽しみだなー」

彼女は部屋の電気を消し、鍵をかけた。

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