第7話 夏休み~1~
彼女が無事に退院し、夏休みに入った。
彼女からメールがあり、「今日、付き合ってほしいところがあるからお金持ってレッツゴー(笑)」と来た。
しょうがなく僕は適当にお金を持って集合場所に行った。
すると彼女の方が一足早かったみたいで「来てくれたんだぁ!じゃ、行こ!」
と言い、早足で歩き始めた。
「聞いてなかったけど今日はどこに行くつもり?」
彼女はしばらく歩いてからある店の前で立ち止まり、「ここ行くの」と指差した。
彼女が指した場所は寿司屋だった。
店内に入ると僕が思っていた回転寿司ではなく、注文すると単品で出てくるいわゆる大人の寿司バーだ。
僕はどこか場違いな感じがし、身を縮ませながら席についた。
早速店員が「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
と聞いてきた。今来たばかりなのに注文が決まるはずがない。
そんな彼女はメニューを見ずにスラスラと注文し始めた。
「この特上で。君も良いよね?」
成り行きで頷いてしまったが、特上とはどういうことだ。
店員が早口で注文の確認をし、去って行ったところで僕は彼女に聞いた。
「君は特上って、何を考えてるの?」
「えー寿司屋に来たら特上頼まなきゃ!嫌いなものある?」
「がりだけど……」
「がり嫌いなの!?意外―!がりなんてどこにもついてくるのに」
「君はないの?嫌いなもの」
「あるよ!
「山葵ってがりと同じくらいついてくるよね……?」
「まあね、辛いもの苦手。それにしても内装変わったなぁ」
「君ここに何回来てるの?」
「十回ぐらい?美花とか家族とかで来てるから!」
「君って太っ腹だね……」
「私、太ってないけど!?ひどーい!」
「そういう意味じゃないよ」
太っ腹の意味を知らないとは恐れ入った。
そうこうしているうちに注文の品が届いた。
「ご注文の特上でございまーす」
店員が声高々に言って机で大きな皿を置く。
なるほど、すごくネタが凝っている。
「どうぞごゆっくりー」
店員がそそくさと引き上げ、彼女はいただきまーすと早速寿司を頬張って幸せそうな顔をしている。
「君も早く食べなよ」
「うん……」
彼女を見ると一枚ずつ刺身のネタを外し、山葵を抜いている。
僕は、がりを脇に退けて箸を割って一口食べた。
確かに美味しい。
大トロは電気の光を浴びてますます光沢が増している。
サーモンは口当たりがよく、今まで自分は食べたことがないと実感した。
僕の大好きなイカは歯応えもあり、しっかりとした弾力もあって最高だった。
「あぁ……めっちゃ幸せ!男の子とここに来たことは一度もないなぁー彼氏とも来たことないし」
「へぇ……」
「美味しくない!?めっちゃ美味しいよね?ここ!美花にも評判いいんだよ!」
「うん。美味しいよ」
「普通じゃないよねーここのマグロは大トロが一番!」
「どこの寿司屋も大トロが一番美味しいんじゃないの?」
「君―それは違うよー大トロにも味が店によって分かれるの!私大トロ大好き!」
「はぁ……」
「君は?なんのネタが好き?」
「僕は断然イカ」
「げぇー私イカ嫌いー」
「どこの店の特上にもイカは出てくるよ?」
「だからイカは残すの」
「もったいない」
「いいの!大トロだってどこの店にも出てくるでしょ?」
「大トロ僕好きだよ」
「大トロに告白?えへぇ」
彼女の妄想にはついていけない。
よく親友はこのテンションについていけるもんだ。
特上の皿は二人で食べるとあっという間になくなり、僕は帰ろうと、席を立ち上がろうとした。
すると彼女が店員を呼び寄せ、「追加でマグロの大トロとサーモンとイカとエビとウニといくらとアナゴお願いしますーあ!イカは一つでいいでーす」
と言った。
「かしこまりましたー」
僕は耳を疑った。
「君は何個食べるの?」
「別にいいでしょー?美味しいものは生きている間に満喫しなきゃ!」
「でも、僕そんなにお金持ってきてないけど」
「いいよー私が払うからー」
「いつか必ず返すから」
「別にいのにーじゃあ生きている間に返してよ?なんちゃってー」
彼女は楽しそうに笑う。
「あー飲み物頼んでなかったね、何がいい?」
彼女はメニュー表を広げながら僕の方を見た。
「僕はウーロンで」
「はい?」
「烏龍茶ってこと」
「あぁ、そう。すみませーん!」
店員が駆けつけてくる。
「ウーロン茶一杯とビール一杯お願いしまーす」
「はーい」
僕はびっくりして「君は高校生なのにビールを飲むの?」と聞いた。
「もちろん!ビールは美味しいよー君も飲む?」
「いや、結構」
高校生でアルコールを飲むのは本当はいけないことだと思うが、僕はそこに触れないでおいてあげた。
「お先にお飲み物でございまーす」
店員が手際よく飲み物を並べ、「もうすぐお品が来ますので!もう少しお待ち下さい!」
と言ってカウンターの方へ帰っていった。
彼女はビールを飲んでうっはっっはーと笑った。
まるでゴリラみたいだ。
「酔っ払わないでね……」
「えーー?大丈夫だよー」
この時点で彼女は酔っ払っていた。
僕はため息をつく。
店員が「ご注文のお品でーす」
と出してくる皿は結構の数であった。
彼女は気持ちよさそうにきゃっきゃっと笑いながら箸でお寿司を摘む。
僕も彼女同様大トロを口に運んだ。
なんというか香りが違うのだ。味は同じような気がするが、香りがなんとも言えない香ばしさだった。
僕が「大丈夫?」と聞くと彼女は「何がー?」と笑いながら聞いてきた。
まだ昼なので変な人には見られないで済むかと思ったが実際昼でも夜でも同じことだ。
彼女はビールをうはーっと飲み干して店員におかわりを注文した。
「あぁーやっぱり美味しいねーここ」
「うん……。ねぇ、君は友達と食べる時もお酒飲むの?」
「えぇぇぇー飲む時と飲まない時があるかなぁー時と場合によるー」
彼女はしゃっくりを一つして「でも、美花は飲まないけどねー」
と付け加えた。
「君は飲んで親友は飲まないの?妙だね」
「妙っていうか美花はお酒の味が嫌いなの。だけどほら、君が知ってるかは別問題だけど
「はぁ」
愛梨というのはおそらく彼女の友人の一人なのだろう。
僕は苗字どころか顔も覚えていないが……。
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