第5話 入院
僕は不安の気持ちを抱えながら病院に行った。
彼女の病室をノックするのももどかしく、飛び込むように入る。
彼女はベッドの上に座っていた。
「あれ?君来てくれたの?」
「全然大変そうじゃないね……」
僕は安堵のため息をつきながらそう答えた。
「君失礼だなー大変じゃない時も入院するよー。病気なんだから。なんかちょっと数値がおかしくてお母さんが大騒ぎするから」
「君、昨日大変な時にしか入院しないって言ってたよね……?」
「あーっはっははーそっかーとってた意味が違うのかも。ほら、私のお母さんにとって数値がおかしいのも大変なことでしょ?全く大丈夫だったんだけどさ」
「あぁそう」
「君反応薄いねーあ、いつもか」
「元気で何よりだよ」
「私、一応元気が取り柄なんで!」
彼女が豪快に笑う中僕は「君、一昨日花火大会、友達と約束してたんでしょ。なんで嘘付いたの?」と質問した。
「あぁ、それはねぇ………よく分かんない!」
「え……?」
「友達とは何回も行ってるから?的な?」
「……的な?」
「うん。君とは初めてだったし。何より伝えたかったことがあったからね」
「病気のこと?」
「そう。君友達とかいないし、言っても黙っててくれるでしょ?しかも君泣いたりしないからねー」
「僕は人前で泣かない。第一そんな恥ずかしいことしない」
「えー泣くのって全然恥ずかしいことじゃないよー感情を表すっていいことでしょ?」
「そうだけど……。僕、女子じゃないから」
「性別関係ある?」
「ある」
「あぁ!そう言えば今日
「君って本当に唐突に話逸らすね……友達が来るの?」
「うん。えーっと五時ぐらいだったかな?部活終わってから来るって言ってたから」
「友達に言ってないんでしょ。入院までしてなんて言ってるの?」
「うーん筋骨の手術って言ってる。病院側も合わせてくれてるから安心だよー」
「そう……」
「あぁ………私も部活したいなぁ」
「すればいいじゃん。文化系とか」
「運動系がいいの!前はね、ソフトボール部に入ってたの。美花と一緒に」
「それは無理だね……」
「病院側に止められてさー。部活するなら文化系って言われたけど大人しくするの苦手だから絶対嫌なの」
「落ち着きがなさそうだもんね」
「ないなぁ……。子供の頃からとにかく落ち着きがなかったから」
「容易に想像できるよ。………そろそろ帰るね」
「えぇぇ?まだいなよー。君はいつもそそくさと帰ろうとするけど別に何の用事もないんでしょ?」
「いつもってこの病院来るの初めてだよね………?」
「学校のこと言ってるの!まだ五時まで時間あるし、美花が来るまでの埋め合わせよろしく!」
「なんで僕が埋め合わせしなくちゃいけないの?」
「そんなことどうでもいいでしょ!君がいなくなったら私一人になっちゃうでしょ?」
「……君、僕が来るまで一人だったよね……?」
「そういえば君って部活入んないの?」
「君は僕の話を聞いてるの?」
「ねぇねぇ!」
本当に落ち着きがない。ベッドの上で跳ねて踊っている。
僕は仕方なく、一度浮かせた腰を元に戻し、「入るつもりはないよ」と答えてあげた。
「入ればいいのにー楽しいよ。特に運動系は」
「僕、運動は苦手なんだ」
「苦手なんてやってみなきゃ分からないでしょー」
「はぁ……」
「オススメはソフトボール部!楽しいよー」
「君の親友がいるんでしょ?それだけでも無理」
「えー美花のどこが苦手?めっちゃいい子じゃん」
「君にはそう見えるかもしれないね」
「うん。そう見えるよ」
「あっそ」
「君って素っ気ないね」
「素っ気ないのが僕の取り柄だから」
「その取り柄よくないよー直しなよー」
すると突然病室のドアが開き、彼女の親友が入ってきた。
「結衣―来たよー………ってなんで河原君?」
親友の声が個室の病室に大きく響く。
「美花―待ってたよ!あ、彼、お見舞い来てくれたの」
「ふーん。……聞いてよー今日顧問がねぇ……」
親友は僕に一言だけ「どーも」と言って彼女のベッドに近づき、話を始めた。
僕はすぐに病室を出てドアを閉めた。
時計を見ると五時十五分だった。
やっぱり親友は怖い。
怖いというよりも話しづらいのだ。
僕は家路を急いだ。
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