第13話 告白
「大事なお話がありますの、フィリップ王子」
今は晩餐の時。周りに使用人や侍従が居る中で、王子を呼び捨てにはできない。
私がそういう事を言われずとも理解する所を、フィリップ王子は評価してくれていた。彼は王子……国王と王妃に私が万全の体調で挨拶を済ませれば皇太子になる。
ただ見目がいいだけの女は選ばないのだ。位が高いだけで擦り寄ってくるような、教養があるだけで礼儀がないような、見目がいいだけで知識が無いような、そんな女性は選ばない。選べない、と言った方がいいのだろうか。
彼は王子で何でも持っている風でいながら、実際は色んなものに縛られていた。自分で選べる物はそう多くない。私達は似た物同士だと、一緒に過ごすうちに思った。私の思い上がりかもしれないけれど……。
私もきっと外から見たらそうだったのだろうなと思う。パーティーに出るためのドレスや宝飾品は惜しみなく与えられたけれど、家での自由時間なんてほんの少し。外では次期公爵夫人として恥ずかしくない振る舞いをし、政略結婚の相手としてモーガン様を尊重した。彼は……あの日まで私にとって尊敬に値する人だった。
そして今、心より尊敬できる人の伴侶として私は目の前の方と食事をとっている。尊敬だけじゃない、……私はこの方に恋をしている。
モーガン様は優しかった。初恋、だったと思う。いつしか、政略結婚である事の方が重くなって消えて無くなってしまっていたけれど。
フィリップ王子は違った。私を見て、評価しながら、温かな心遣いを忘れず、愛情を持って私に接してくれている。
私をあの廃人寸前の所から救ってくれたこの方に恋をするのに、そう時間はいらなかった。
だから話そうと思う。お母様の遺書を添えて。証拠としては充分な効力があるだろう、故人の遺書を偽造するのは重罪だ。
そして、強姦も重罪だ。特に貴族にとって、それは恥ずべき行いであるとされている。
そんな重罪を犯した男の息子の妻とならないで済んだと思うと、どこかホッとした気持ちがあった事は否めない。お母様の話を聞いたあの日から、葬儀以来、公爵の顔を見ずに過ごせた事は幸いだった。
「……リア。ジュリア? 大事な話って?」
「申し訳ありません、ぼうっとしておりました。えぇと……ここでは、少し」
「分かった。この後君の部屋でお茶にしよう。——支度しておいてくれ」
執事が流れるように一礼をして下がっていった。
晩餐の間、私はこの方に全てを打ち明けて委ねていいものか、悩みに悩んだ。やはり、とどこか半分血の繋がった妹の事を考えてしまう。けれど、あの時の形相と叫び。そして私とモーガン様の婚約を破棄させた事。
目の前の男性を見る。
お父様にも感じた事のない安心感で、私は、彼に委ねる事を決めた。
そして晩餐を終えたのち、私の部屋にはお茶の支度が済んでいた。デザートがわりの茶菓子が少しに、湯気のたっている紅茶。
そして人払いを済ませると、私は日記帳を机から持ってきてフィリップ王子に見せた。遺書もだ。
フィリップ王子は難しい顔で考え込みながら、日記をめくり、遺書を読み、これを少しの間預からせて欲しいと言った。
「絶対に悪いようにはしないから、信じて、ジュリア」
「はい、お願いします、フィリップ」
私は、今まで一人で抱えてきた物を、彼に委ねた。
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