第11話 王宮での暮らし

「ジュリア様、本日よりお付きの侍女となりますサラです。こちらは、リナと申します。よろしくお願いいたします」


「サラ、リナ、どうぞよろしく。暫く面倒をかけるわね」


 王宮の私に用意された部屋は広々として、落ち着きのある薄緑を基調とした壁紙や寝具に、黒く塗装された統一された家具、ソファだけは華やかな金枠に赤い天鵞絨張の物が置かれていた。


 衣装も持ってきたが、私に用意された部屋には衣装部屋もあり、ドレス等も用意されていて、持ってきたものを入れたらいっぱいになってしまったのには少し笑ってしまった。


 やっと荷物の整理が終わって落ち着いてお茶を飲んでいる所に、フィリップ王子が訪ねてきた。そのままで、と手で示されて隣に彼が腰掛ける。


「やぁ、ジュリア。新しい部屋は気に入ったかな?」


「細やかなお心遣いに感謝します。とても気に入りました」


「よかった。晩餐は私と二人で摂ろう。それから、明日から少しずつ晴れた日には散歩もしようね。まずは健康になってもらわなくちゃ」


「……フィリップ王子」


 私が少し恥ずかしそうに名前を呼ぶと、クス、と笑って王子は私の頭を撫でる。


 モーガン様にもこんなふうにされた事の無い私は、顔が赤くなるのを感じる。モーガン様は紳士で、政略結婚なのだから私に触れる事はしなかった。マリアとは腕を組んで散歩をしていたのに。


「実はまぁ、私は君とこうなりたいとずっと思っていたから渡りに船だったのだけれどね。……ジュリア、君は何か、一人で抱えきれない物を抱えているね?」


「……!」


 そこまで見透かされているとは思わなかった。


 落ち着いた紫紺の瞳は私の紫の瞳をじっと見つめる。


「まだ、いい。だけど、君が抱えていられなくなった時、私は君の信頼を得るつもりだから……信頼してもいいと思えた時、私に話してくれるね?」


「…………はい、フィリップ王子」


「フィリップ、と。二人きりの時はそう呼んでおくれ、ジュリア」


 そうやって私の肩を抱き寄せ頭を胸元に抱き寄せてくれる。


 こうして誰かの腕に抱かれたのは、お母様が元気だった時以来だ。まして殿方になど……モーガン様がこんな事をするはずもなくて。


 私はこの暖かさに、思わずまた泣いてしまった。


 フィリップ王子は私が泣き止むまで、優しく頭を撫でてくれていた。


 その日から私はフィリップ王子と晩餐をとり、忙しい合間を縫って彼が訪ねてきてくれれば王宮の庭を散歩し、何気ない会話を交わし、だんだんと元の健康な身体を……そして心を取り戻していった。


 張りのある健康的な筋肉のついた身体、日に当たって血の気を取り戻した肌、王宮で磨かれていく自分の変化には、私自身戸惑いを隠せなかった。仕事をしない間も勉強は続けた。王子の嫁となれば、未来の王妃である。怠ける事は自分が許せなかった。


 私がフィリップ王子に全てを打ち明けよう、そう決めたのは、そんな生活が1ヶ月も続いた頃だった。彼が私のためにしてくれる事に、私も答えたい。


 彼が私の心を溶かしてくれた。……だから一人で抱えずに、全てを打ち明けよう。

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