第4話:逃亡

「追え、追え、追え、絶対逃がすな」


 先生が殺されてしまった。

 大臣が人道のためと言って魔族の治療を頼んできた時から、絶対に罠だと思い、先生には近づかないように助言したのだが……

 人間に寝返った魔族なのか、それとも人質でも取られているのか、あるいは魔術で操っていたのか、先生は魔族に奇襲されて殺されてしまった。

 魔族との融和を説いていた先生が、助けようとしていた魔族に殺された状況を作り出せば、愚かな生徒を魔族との戦いに誘導できるだろう……


「あいつは危険だ、絶対に逃すな、殺してしまえ」


 生徒達に聞こえない所まで逃げられたようだ。

 だがその分、遠慮せずに俺を殺すことができるのか、大声をあげている。

 問題は城壁を飛び越えることができるかどうかだ。

 防御結界が展開されていて、逃げ出すことができない可能性がある。

 その時には城門から逃げなければいけないが、絶対に閉められている。

 門番を脅かして開けさせるか、破壊できるか試してみるかだが……

 ここで俺の実力を見せてしまうと、追手は十分な用意を整えてしまうな。


「矢だ、矢を射かけろ、魔術師も攻撃に加われ」


 それにしても、やはり俺達は体裁が整えられた所だけを見せられていたのだな。

 王都の広い地域が見たことのない貧民街になっている。

 貧しい生活なのだろう、痩せ細った人々がボロボロの服を着て、まるで幽鬼のような青白い顔で座り込んでいる。

 ろくに食べる事もできなくて体力がないのだろうな。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。


 いくつもの矢が俺のいる場所に向かって放たれる。

 飛行術はまだ隠していて、屋根や地面を蹴って素早く翔けているから、狙いは全然正確ではない。

 だが俺の移動する場所に待ち受けるように兵士がいるから、連絡する魔術があるのかもしれないが、予測や予言の魔術はないのだろう。

 もしそんなモノがあるなら、俺は逃亡前に捕まっていたはずだ。


 パッ、パッ、パッ、パッ、パッ。


 魔術の矢が正確に俺をとらえたが、全く痛くない。

 想像力で展開した防御魔法が効果を表している。

 確かめたいわけではないが、この国の伝わる呪文から発動する魔術だけでなく、異世界人が想像で創り出した魔術的現象も効果がある事が確かめられた。

 では、これはどうだ。


 俺は魔法袋から取り出した石を魔力で弾いて、城壁の上を通過できることを確認して、次にこの国の魔術で創り出した魔術矢も通過できる事を確認した。

 それでも万が一の事を考えて、自分が城壁の上を通過するまで、石と魔術矢を放って通過できる事を確認し続けた。

 やった、何とか王都の外に出れたぞ。

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