第3話:包囲網
異世界召喚に巻き込まれてから二十日間、敵の包囲網が狭まっているのが分かる。
最初は異世界人を警戒していた教職員の中に、明らかに先生を敵視しする眼つきをした者が現れだした。
世の中には、金と地位と女を与えれば簡単に転ぶ男がいる。
副園長が真っ先に狙われて、簡単に転んだようだ。
「先生、気をつけてください、副園長が敵側に転んだようです」
「分かっているよ、私にも何度も誘いがあったからね。
副園長には口が酸っぱくなるくらい注意したのだが、駄目だった。
だが私が反対している限り、生徒達に戦いを強制させる事はできない。
だが、異世界人は何をやってくるか分からん。
もし私が殺されるような事があれば、鮎川君は遠慮せずに逃げなさい。
学園の教職員が生徒を売るような状況で、縁もゆかりもない鮎川君が生徒のために命を捨てる事はない」
先生はまた生徒のために全てを投げうつ心算だ。
善良だけど憶病な生徒を救うためだけではなく、身勝手で乱暴な生徒も教え諭すために、命を捨てる覚悟なんだ。
俺も憶病で足がすくむ身体に叱咤激励して、先生の手助けをしよう。
先生が生きている間は、勇気を振り絞ろう。
俺と同じように魔力を高めた先生が殺されてしまうよなら、諦めて逃げよう。
「恩師長殿、どうか御願い致します。
生徒達を戦いの場に出してくれとは申しません。
ですが、せめて、せめて、負傷兵の治療に手を貸していただけませんか。
負傷兵達は、魔族の軍勢から家族を守るために武器を取った義勇兵なのです。
彼らを見捨てるというのは、いくらなんでも人道に反するのではありませんか。
そんな行いを、教師という聖職についた者が生徒に教えるのですか」
勇者集団召喚の責任者という大臣が、厭味ったらしい言い方をして先生を責めるが、そのような日本の倫理観や言い方を大臣が知っているわけがない。
おそらく裏切者の教職員、副園長辺りが悪知恵つけたのだ。
異世界人が副園長と主任級の教職員を懐柔したら、先生の命が危ない。
俺に副園長達を殺す度胸があれば、先生も生徒も護れるのだろうが、情けない事に俺には人を傷つける度胸がない。
「……分かった、貴様らが言う、治癒の力を持った生徒を協力させよう。
だが、私のいる前でだけだ。
私のいないところでは、絶対に生徒を働かせたりはせんぞ。
各学級の担任と副担任は生徒達を集めてください。
生徒達が異世界人に騙されないように、よく話して聞かさなければいけません。
もし私が殺されるような事があれば、副園長が異世界人に寝返っています。
担任と副担任は、副園長に唆されることなく、教員の誇りを持って生徒達を護ってください、これが私の遺言だと思ってください」
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