第113話 おぞましき企み 弐

「さてと……」

 九龍が咳払いをするのだが、それに割り込む声があった。


「私を忘れていたのは、迂闊でしたね」


「な……ッ!」

 ズーハンが九龍くーろんを急襲しようと頭上をまで来ていたのだ。絡繰であるがゆえに、回復力は桁違いだったというわけだ。

 絡繰兵カラクリヘイだと侮っていたのがあだとなった。

翡翠飛翔脚フェイツイフェイシィァンジャオッ!」

 翡翠の名を冠した、極陰拳の技の一つ空中からの蹴りだった。

「ちッ」

 とっさにかわすが、ズーハン脚が九龍の顔を掠めてしまう。

「貴様……。わらわの邪魔した挙句、顔に傷を……」

 九龍は怒りでわなわなと体を震わせる。

「ならば、我が鉄扇で斬り裂いてくれよう!」

 九龍が畳んだ鉄扇を懐から取り出し、それがズーハンを襲う。

 鉄扇はそもそも護身用の武器だが、九龍はそれを本格的な武器として携帯している。

「燃え盛れ、炎斬イェンヂャンッ!」

「ぐッ……!」

 斬られはしなかったが、九龍の怒りの炎はズーハンを焼いた。 

 むろんそれが体中に燃え広がるというわけではなかったが、九龍の怒りのほどがうかがえる。

「道具ごときが、小賢しいッ!」

 そして隙ができたズーハンに乱暴に蹴りを埋め、吹き飛ばした。

「さて……、邪魔者は黙らせたし。話をしようかの」

「とんでもねェじゃじゃ馬だ……」

 太公望が呻きながら言うも、九龍からすれば称賛にしか聞こえない。太公望もまともに動ける状態ではないからだ。

「神龍が恐竜が進化した種だとは話したな? 恐竜がこの星で繁栄していたころ、巨大な隕石が落ちてな」

「……隕石? 星が落ちてきたのかよ?」

 アイシャとしては一発殴ってやりたい気分だが、意識だけ回復した状態では殴れもしない。できるのは質問を投げかけるしかなかった。

「隕石の落下により、凄まじき洪水に襲われた。さらには大量の灰により太陽の光は地表に届かなくなり、寒冷化した。当然我らも例外ではなかった……」

「……まさか、あの遺跡は貴様らのシェルターだとでも?」

 勘づいたアーサーがぶっきらぼうに言葉を投げかけると、九龍はニヤリと笑い。

「ふむ、道化のくせに。推測する知識はあるようじゃな。世界各地にあるお前たちの言う遺跡は我らが来る日のために建造したシェルターよ」

「なるほど、籠城に向いているのも当然か……」

 恐ろしいまでに生産、治療のための施設が充実していたのだからと、妲己は言う。

「じゃが、気候の変動は変動は早く、シェルターに入るいとまもなかった。どうにか恐竜の枷から外れた妾のような神龍のみが生き残れた……」

「……。なるほど、爬虫類は変温動物だったな」

 どうにか気力を回復したフェイがつぶやく。爬虫類は哺乳類のように気候の極端な変動に弱い。当然、寒冷化した環境ではまともに恐竜たちが生きられなかったのは想像に難くないだろう。

「その結果、環境に適応した哺乳類が繁殖し、栄華を極めたのじゃ。元は卵を盗んで糊口を凌いでいた連中であったのにな……」

 九龍が吐き捨てるようにいう。当時の哺乳類とて生きるために卵を食料としていたのだが、盗まれた側からすればその怒りは相当なものだろう。

「他の神龍はヒトと共存ないし、無関心であることを選んだ」

「じゃあ、あなたは……?」

 ケイが問いかけをな投げかけると、九龍は口元をゆがめ。


「妾か? 太古の龍の総意により卑しき者どもを浄化し、再び龍がこの大地の覇者となる道を選んだ者じゃよ」 

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