第114話 絶望
「……で、それが受け身の戦術だったわけかよ? ずいぶん非効率的なことをやってるよな、てめぇ」
アイシャがが皮肉を吐き捨てる。受け身であるのは事実だ、理由はわからないが
「誰が好き好んで憎い相手に潜むと思うておる……。昔、一匹の女狐に取り付き、国を操ろうとしたのじゃがな……」
「それが、九尾ね……」
京が言う通り確かにこの九尾にも九の文字が付いている。どうやら九龍は歴史の裏でさまざま妖怪変化として暗躍していたということらしい。
「じゃが、
「……、ただでは転ばんと応龍に取り憑いたわけか。したたかな奴だ」
妲己は忌々しいという顔をして九龍を見た。九龍が意識だけを回復させたというのは本当で、妲己を以てしても体にだけ力が入らない。
「力を蓄えてじきに応龍を喰らってやろうかと思ったが、幸いじゃったな」
「こんな奴に利用されるために……。この国に来たのか? 僕は」
アーサーが地面に拳をたたきつける、やりきれない思いだった。
「せっかく旧き人類を否定する手伝いをしてやったのに、その言い草はなかろうて」
「ちッ……」
アーサーは舌打ちするしかなかった。そして九龍は妲己に顔を向け、
「そういえば妲己よ。そなたは確か
「……確かにそうだが。もう、するべきではないと悟ったんだ。今更、反省したとしても遅いかもしれないが」
妲己は力なく首を横に振る。己の身勝手さもまたこの事件を引き起こした元凶であり、身勝手な思いからでしかなかった。
「いやいや、そなたの願い。せっかくであるし、叶えてやろうと思うてな。慈悲というやつじゃ」
九龍は歪に口元ゆがめ、笑みを浮かべた。そして、京にゆっくりと近づく。
「……ッ!」
何をしようとしたのか理解した妲己は体を動かそうとするが、やはり体だけは動かせない。
「何を……?」
京は顔を近づける九龍に恐怖を覚えていた。いや、これはもはや畏怖なのかもしれない。
「おい、妲己! あのクソ龍は
「九龍は、京の体を奪うつもりだ……。間違いない」
怒鳴るアイシャに妲己が悲壮に満ちた表情で答える。
「おい……。やめろ」
「さて、その貴様の
そういうと、九龍が光り輝き、その姿を消した。
乗っ取られるも京の抵抗は、まったくなかった。まさに神龍の御業というべきものなのだろう。
「ふむ……。想像以上に魂が馴染む。儲けものじゃったな」
京が立ち上がったのだが、その笑みは京のものではなく、九龍の心根のように邪悪そのものだった。
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