第10話 二人の絆
新潟の4月はまだ寒い。関東は、もう既に、ポカポカ陽気なんだろうけど雪国の新潟は4月と言えどまだ肌寒い。柚木宅で夕食を一緒に食べてから、妹たちも交えて柚木と夕食を供にする日が多くなっていきた。 柚木の自宅に、夕食を作りに行く権利を得た俺は、いつものように彼女のところに夕食を作りに来ていた。
「柚木、今日も作りに来たぞ。」
「やったー!今夜はなにー?」
「まだ、肌寒いからな、シチューにしようと思う。」
「それじゃ、じっくりコトコト頼みます」
「わたしが何か手伝うことある?」
「おっ、気が利くな。それじゃあ...」
じゃあ、野菜の皮むきでも頼もうと思い口を開いたとこで、柚木が口を挟む。
「ごめん。言ってみただけ。わたし包丁とか使えないからさ。」
「だよな。液タブのペンとかしか持てないよな!」
「まったく。使えない奴は大人しく部屋でゲームでもしてろ!」
「はーい。そうしまーす!」
柚木は、その言葉を待っていたと言わんばかりに潔い返事を返す。
まったく、これだから引き籠もりは!などと心の中で毒づき、夕食の準備にと取りかかる。
一人で調理していると、予想外のハプニングに見舞われる。
キッチンで夕食の準備をしていると、突然、玄関のドアがl開き、来客がある。
おっ、愛那達か?でも、まだ来るには少し早いな。
「おーい!愛那、もう少しうちで待っててくれ!」と声を掛ける。
「ちょっと!うちで、何しているんですか?」中に入ってきた来客の主にと訝しげに声を掛けられる。
綺麗な凜とした声で、えっ?!愛那じゃない?誰が来たんだ?と思っていると、その人物はスタスタとリビングに入ってきて姿を現す。
リビングとキッチンの空間が繋がっていることから直ぐに、姿を確認出来た。
その人物はモデルかと思うほどの整った容姿で30代後半と言った感じの綺麗な女の人が眉をキツく吊り上げ警戒心を露わにしてそこに居た。
その装いは、ブラウンのロングコートを着込み白のカットシャツと合わせていて、ボトムスは黒のジーンズのパンツ姿でコーディネートされていて、とても決まっている。
茶髪の髪を腰まで伸ばし、瑠璃色の瞳は、知らない不審者を見る目でキツく吊り上がっている。
「ふ不審者!今すぐうちから出て行って下さい!」
柚木との関係を説明しようにも、この状況で果たして信じて貰えるだろうか。
「俺は、不審者じゃないです。これには深い訳があるのでどうか聞いて下さい!」
「ふん!不審者は皆、そう言うんですよ。」
どうやら、聞く耳を持ってくれないみたいだ。柚木は、夕食が出来るまで自室に篭もってゲームをしてるし、愛那達が居れば家族ぐるみの付き合いだと説明出来るのだけど今は、は自宅に待機させている。
どうしたら信じて貰えるんだ!
だからどうか、通報しないで!
再び、今度は柚木母と最悪の出会いを果たしていた。
「お腹空いたー。藤也くん、ご飯まだー。」
そんなそんな二人の緊迫した空気の中、リビングへと出てきた柚木が俺達の
気まずい空気を破る。
柚木は女性の存在に気付くと
「あっ、ママー。帰ってたんだ。」
とにこやかに近寄っていく。
「ただいま、唯依。ところで、この人は誰?勝手に家に上がって料理していますけど。」
「ああ、藤也くんのこと?最近、一緒に夕食を食べることになったお隣さんだよ。」
「あっ、そうだったのですね。わたしはてっきり不審者かと。」
「わたしは、柚木
「只の、隣人が自宅に夕食を作りに来るなんて娘に取り入って何を企んでいるつもりですか。」
舞依さんは、それでも警戒を緩めないで探りを入れてくる。そこで、俺はすかさず舞依さんに俺と柚木とのの詳しい関係を伝え疚しい考えがあって近づいたわけではないことを伝える。
俺は、娘さんと同じ学校のクラスメイトで約、一週間前に生活指導の先生から娘さんの不登校の更生を頼まれたこと。
それから、気に掛けるようになり、おかずのおすそ分けから始まり、夕食を作りに来て欲しいと頼まれたことで、今はこうして夕食を作りに来て食事を供にしていること。
だから、なにも疚しいことなどないことを伝える。
「ほんとうに、何も疚しいことはないんですね?」
そう釘を刺された俺は、「はい、ありません。」
とまさか、以前に柚木の自室に誘われた時に不可抗力でパイ揉みしたことなど言えるはずがない。正直に言えば、通報され兼ねないとこればかりは墓場まで隠し通そうと心に誓った。
「それと、実は俺はWEB小説を書いていて書籍化を目指してるんです。唯依さんからはイラストを描いて貰っています。」
意を決して話すと、それを聞いた舞依さんの表情が変わり、
「藤也さん、後日でいいので時間を取れますか?」「明日の学校が終わってからマンションの迎えのカフェに来て頂けませんか。大事な話があります。」とそう真剣な表情で言われるのだった。
***
柚木母の舞依さんと思わぬ遭遇をしてから翌日、学校から帰った俺は、俺は舞依さんから指定されたカフェへと来ていた。お洒落な洋風のカフェで指定された時間通りに来たら、舞依さんは既に待ち合わせのカフェに来ていた。カウンター席に座り、コーヒーのカップを片手に待っていた。
なんだか、周りの男性客が、そわそわして舞依さんの方をチラ見している。
そうだよな、こんなに綺麗な人を前にしたら、、どよめき立ってしまうよな。
俺も、昨日見たときはあまりの美貌に驚いたもん。
「今日は、あなたに大事な話があります。もうこれ以上、唯衣に付きまとわないで欲しいんです」
「学校であの子が引き籠もりでありながら才能を認められ、特待生として学校側からイラストレーターとしての活動出来てます。そこでPRをすることで、不登校を容認されていたのは知っています。」
「ですが2年次からは、今までのような待遇は維持できないとの通告を受けて考えが変わりました。」
「只の不登校の引き籠もりとして、あの子の学歴に傷が付くくらいなら、イタリアのフィレンツェに連れて帰ります。」
「そこで、芸術の名門校に編入させて画家としての道を歩ませたいと思っています。」
「その方があの子の為になるんです。」
「だから、あなたからは娘から手を引いて貰いたいのです。」
「そう、ですか。」
それはそうだよな。無名WEB小説家のイラストレーターとして活動するより、名だたる芸術学校で
絵の技術を磨いた方が遙かに唯衣の将来の為になるだろう。
フィレンツェといったら芸術の都だし、その方が柚木にとってもいいのだろう。
「分かり、ました。」
本当は柚木と離れたくない!だけど今ののオレには舞衣さんにオレなら出来る!
と言えない。柚木を連れて行かないでくれ!と叫びたい。頭では、柚木を引き止めめたい気持ちで一杯だった。
そして、手の平を握り返して勇気を振り絞り口を開く。
「柚木さんは、オレの担当イラストレーターで、お互いに夢を誓い合った仲なんです。いくら母親であろうと俺たちの邪魔はさせない!」
「今は、無名でもオレは必ずベストセラー作家になってみせる!」
「結果を出してあなたを認めさせてみせる。」
「俺たちの絆は引き裂けない!」と言い放つ。
「そこまで言うならどこまでやれるか見せて見て下さい。」
「半年の有余を与えますから、その間にある程度の実績で示してみて貰いましょうか。」
「その間に唯衣を不登校から更生させるか、その小説とやらである程度の成果を出してみてください。」
「良い結果を出せさえすれば唯依をイタリアに連れて帰ることはしないと約束しまょう。」
「今は、引き下がりますが、半年経っても唯衣のイラストレーターの実力と貴方の小説家としての実力が見合っていないと判断したら、容赦なく唯衣からは手を引いて貰いイタリアに連れ帰ります。」
と釘を刺され舞衣さんは帰っていくのだった。
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