第8話『おねだり』
オレの住むマンション部屋のお隣さんは引きこもりのニートだった。
ひょんなことから、更生を頼まれ、お隣に出向くがその
柚木は超が付くほどの駄目人間で怠惰の限りを尽くす引きこもりだった。
だが、その正体は、人気プロイラストレーターの『結月ゆい』だった。
先週、土曜日は。SNSサークルのオフ会に代行として行った。『わたしをリモートで参加せて』と柚木に頼まれ出向くと面子は、見事に、万代第二高の生徒で統一されていた。
これって、学校部活動と変わりないよな彼女達は既に出版社のレーベルに属していているプロの小説家達だった。(約一名、怪しい同人漫画家を覗いて)
同じ高校生としてプロで活動しているのは、素直に凄いと思った。
それと同時に、なんでオレだけ冴えない才能なんだと周囲の才ある女の子を羨み劣等感に苛まれた。
オフ会が終わり、柚木との出会いから芽生えていた感情を胸に、彼女の所へと向かった。
そこで彼女の引き籠もりとなった理由を聞いた。
それを聞いてもなお、オレの気持ちは変わらなかった。
彼女に、『オレの小説のメインヒロインになってくれ!』と一斉一大の告白をした。
彼女は快く了解してくれて、柚木がイラスト。オレが小説で『二人でラブコメ小説を書籍化させよう!』とゆう夢が生まれた。
二人の小説を出そうと二人三脚での歩き出し、そうしてオレ達のラブコメ創作が始まった。
そんな週末のオフ会&
午前中の授業を終えて昼休み。教室の机で涼風と弁当を食べていると南先輩がオレのクラスまで来た。
その装いは、黒髪の三つ編みヘアーに
茶縁メガネが相まって見るからに真面目な優等生といった印象を受ける。
上は制服のブレザージャケットがピッチリになるくらいに誇張された胸に抱擁力を抱かせる。
スカートの下からはストッキングを纏った艶かしい肢体が妙にセクシーだ。
周囲の生徒が何事かザワザワとどよめき立ち驚く。それもそのはず、特待生のA組の先輩がわざわざ下級生(B組)の教室に足を運んでいるのだから。南先輩は、オレの席の前まで来ると、
モジモジして何かを伝えようとしてくる。
「どうしたんですか?南先輩。わざわざ2年の教室に来るなんて。」
「そんなの決まってるでしょ!藤也くんとお話する為よ!」
先輩は、自分の立場も気にしないと
積極的に迫ってくる。
「その...この前は楽しかったわね。とても興奮したわ。」
「ああ、オフ会のことですね。はい、そうですね。」
「あれから考えたのだけど、わたし...」
「藤也くんと一緒に、作りたいの...」
「それつまり...どうゆう意味で?」
まさか、子作り?!そんな、いきなり!?脱ぐのは最後だ!と思っていると
「せっかく、同じ学内の生徒が集まっての創作サークルなんだから学外のみでの活動だけじゃあ勿体ないと思うの。」
「つまり、学校内でもあにファンのサークルを作りたいの!」と南先輩はオレに言って来る。
でも。オレは放課後は柚木との小説を書く時間に当てたい。だからサークル活動に割いている時間はない。
「すいません、先輩。少し考えさせてください。」
「そう、良い返事を期待しているわ。」
そう言い残して南先輩は去って行った。
放課後。早く帰って執筆の続きをしようと下駄箱を開けたところで校内放送が入る。
《2-Bの藤也瀬翔。至急、生徒指導室に来るように!》と呼び出しを喰らってしまった。
おい、またかよ! 心の中でそう毒づき生徒指導室へと向かうのだった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
生徒指導室の前まで来てノックをして扉を開ける。
「失礼します。」
すると、塚本先生は、ソファに座り、テーブルの上に羊羹とお茶を置いて待っていた。
「塚本先生、なんの用ですか?」
「よかった、茶が冷めないうちに来てくれて。」
黒髪ロングに、教師服の上から白衣を纏ったその姿は、まるで何処ぞの組織の研究員のような印象を与える。
カッコイイ!
「まあ、柚木との途中経過を聞こうと思ってな。まあ、座りなさい。」
「お茶菓子もあるから一緒にどうだ?」
そう言い向かい側に座るように促してくる。
「羊羹とお茶ですか。;渋いですね。」
とても、20代半ばの女性のセンスと思えない。この人は、中身は既にお婆ちゃんなのだろうか?と思った。
だけど、それは敢えて告げずに、「なんの用ですか?」と率直に用件を訊く。
「率直に聞こう。柚木との交流は順調か?」
「ええ、ちゃんとリモート授業を受けるように言っておきましたよ。」
そして、柚木が自分の絵の才能のせいで周りの生徒と孤立してしまったこと。
そのせいで、不登校となり引き籠もりとなってしまったこと。
そこで、塚本先生に一つ聞きたいことがあった。
「先生、なんで柚木の周囲の生徒は、どうして彼女のことを拒絶したのでしょうか?」
「それはだな藤也、別に皆が彼女のことを嫌いになったわけじゃない。」
「ただ、彼女の才能が羨ましかったんだろう。」
「羨ましかった?」
「こんな経験はないか?君は好きな漫画を定期購読していたとする。」
「初めはそんなに人気は無かったが、あるとき人気に火が付き大人気漫画となった。」
「雲の上の存在となってしまったことで気持ちの変化が生まれてー」
「そして、いつしか夢中で読んでいたはずの漫画を読まなくなくなってしまった。」
確かにそんな経験がある。だけどどうしてだっけ?皆が読んでいて自分だけが知っている漫画じゃなくなったから?
「経験ありますが、それはどうしてなのか...」
「それはだな、君がその漫画家が羨ましかったからだ。」
「人は、自分には無い才能を目の当たりにすると二つの人間に分けられるんだ。」
『その才能を受け入れる人か』
『拒絶する人』
「君は前者と言えよう。」と答えを示してくれるのだった。
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そして学校から帰り、いつものように、208号室
に弁当の空を貰いに行く。
部屋の前で、インターホンを押す。「はぁーい。今行きまーす!」と元気な声で
まるで、オレの帰りを待ち遠していたかのような浮ついた声が返ってくる。
そんなに、オレに会いたかったのか!と嬉しくなる。
扉ががチャリと開く。
柚木は、珍しくオシャレして白い花柄のチュニックにジーンズと合わせた装いで出迎えてくれた。
なんとゆうか、清楚な感じでいいと思う。
「藤也くん何か気付くことはない?」
そう言いチュニックの裾をヒラヒラさせて言う。
「あの、その服が可愛いくて、似合ってると思う。」
とゆうか、何で今日は、そんなにお洒落しているんだろう?と疑問に思う。
「はい。大変よろしい。」
柚木は、ニコリと微笑み満足といった感じだ。
「はい、お弁当。美味しかったよ。」
「おう、お粗末様。」
なんだ?今日は、妙に素直だな。いつもはまぁまぁだったとかとか言うくせに。まぁいっか。
そんな、素直が一番などと思っていると、柚木がなんだかモジモジして、何か言いたげだ。
オレから聞いた方がいいのか?
「どうした柚木?」
「それがね、お願いがあるんだけど...いい?」
と上目遣いにクリクリの青緑色の瞳でねだってくる。なに、この子可愛い!そんな興奮を押し殺してオレは訊く。
「なんだ?言ってみろ。」
「それはね、今夜、うちに夕食を作りに来て欲しいの!」と突然大声で言われた。
「うわ!びっくりした。急に大声出すなよ!」
オレが柚木の部屋に!?それってなんだか......
同棲生活をするみたいだと思い、胸の鼓動がドキリと跳ねた。
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