第6話 隊員その5─付き従う者たち─
王宮の一角にある、従者や侍女たちの休憩室。その部屋に、数人の男女──ヴァイオレットとジェラルドの従者や侍女たちが、真剣な面持ちで使い魔からの知らせを聞いていた。
「とうとうこの時が来てしまったのね……」
ユリシーズの黒猫形の使い魔に報酬のクッキーをあげながら、皆顔を見合わせて呆れたような溜め息を吐いた。
皆が大好きなヴァイオレットが、婚約者である筈のクリフトフにぞんざいに扱われている事を、彼女の侍女たちは早い内から気が付いていた。
始めこそヴァイオレットに夢中だったのに、男爵令嬢──エミリア・ボンネットが出て来て以来、クリフトフの態度は一八○度変わってしまった。
顔を合わせれば罵詈雑言、エミリアの前では自身の株を上げるための駒としか扱わず、婚約者として許せる範囲はとっくに越えていた。
第二王子が婚約者に対してそんな態度を取るせいで、女中の中にもヴァイオレットを軽視し蔑ろにする者も増えている。勿論、ヴァイオレット専属の侍女たちは怒り心頭だった。
自身が好きで無理やり王宮にまで連れてきたのに、どうしてそこまで邪険に出来るのか……クリフトフの行動に、心を押し殺してヴァイオレットを諦めたジェラルドの従者たちも腹を立てていた。
「覚悟していましたが、本当に……ヴァイオレット様もジェラルド殿下も、浮かばれないというか、お可哀想で……」
従者の言葉に、侍女たちも頷く。
長い間ヴァイオレットとジェラルドに仕えていれば、二人が相思相愛な事にどんなに鈍くても気が付く。
顔を合わせれば複雑そうな、けれど「会えただけで幸せ」とでも言いたげな二人の表情に、皆切なさと愛しさに悶絶するのであった。
「ドレスの事も……待つなんて選択肢、さっさと捨ててしまえば良かったわ」
クリフトフがヴァイオレットへドレスも贈らない事を聞かされた侍女が、額を押さえて後悔を吐露した。
王太子就任パーティーには他国の官僚や王族も招待している。そんな中、婚約者がいるのにドレスの一着も贈られず、それに加え、その婚約者は別の女性に贈っていたなどと知れれば、ヴァイオレットが恥をかく。そして同時に、国の品位も軽んじられてしまう恐れもあった。
今回ユリシーズから連絡が来なければ、ドレスの仕立ては間に合わなかっただろう。ヴァイオレットの兄・アベルが動いてくれて助かったが、侍女として、隊員として、危機を回避出来なかった事は痛恨の極みであった。
「ドレスの件は仕方ないですよ。まさかこんな大きな式典で贈らないとは思いませんでしたし、お嬢様と同じ部屋で一緒に生活している訳ではないので……問題は、これからの事ですよね?」
ジェラルドの従者の言葉に、この室内にいた全員が、決意の意志を持って頷いた。
自身の主人に付き従うからこそ見えるものや知る事が多くある。それは好きなもの、嫌いなもの、評価の良し悪しだったり、人間関係だったりと、入ってくる情報は様々だ。
そんな自分たちだからこそ、尊敬する二人を支える事が出来るものがあると、彼らはこの時のために前々から話し合っていた。
「フォーレスト様やイライザ殿下たちのように前線でお守りする事は出来ませんが……裏は、私たちの舞台ですから」
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