六章4話 卒業パーティ御用達の婚約破棄
卒業生を送るパーティの日がやってきた。
あのレスター・バーンライトも卒業生に含まれる。
つまりだ。
ゲームではこのパーティで婚約破棄が行われるのだ。
「アリアローズ!君との婚約を破棄する!」
そう宣言したのは卒業生代表として壇上に登ったレスター・バーンライトである。
卒業生代表として話すはずの壇上で、格下がお姫様を呼び捨てにした挙句婚約破棄まで言ってのけたことに会場は一気にざわついた。
当の婚約破棄された側であるアリアローズ様は急なことにポカンとしている。
「このことは父上も了承済みだ。アリアローズ、君が性悪でなければ良かったのに……」
「何を……言っていますの?」
了承済みなのはすでにレスターがソフィアとイチャイチャしてるのが王様にもバレてるからであって、アリアローズ様が原因ではない。
なのにレスター・バーンライトは自分の優位を疑わないのか偉そうに壇上からアリアローズ様を見下ろしている。
「君が入学してから行ってきた非道の数々は目に余るほど生徒会に報告が上がっている」
「私は何もしていませんわ」
私はアリアローズ様を安心させるため隣に立ち手を握った。
「しらを切り通せると思うな。証人だって何人もいるんだ」
「その証人だが、全員が『何も知らない』と口を揃えて言っているぞ」
そう言って会場に現れたのは卒業生であるはずのグレア・キングストン様、第一王子でありアリアローズ様のお兄様である。
騎士の礼服に身を包んだその美しい姿に女性たちが息をのむのが分かった。
その後ろを側近らしい騎士が数人ついてくる。
「グレア様?!なぜ卒業パーティにあなたが!」
これには流石の鉛の心臓を持つレスター・バーンライトも驚いたようだ。
「生徒会から妹の悪評の話を聞いて調査していたのだ。そのついでに顔を出しに来たのだが……」
「なら知っているでしょう?アリアローズがどんなに酷いことをしてきたのか!」
「貴様は今まで妹の何を見てきたのだ。大体生徒会に上がっている話の殆どが根も葉もない噂程度。証人がいるといった話も嘘。貴様は卒業パーティで何をしでかしたか分かっているのか?」
「そ、それは……!」
グレア様の勢いに圧されてレスターは押し黙る。
「まぁいい。お前の希望通り婚約は破棄だ。ただし、王家との縁談をそっちから破棄したんだ。ただで済むと思うな。処分は追ってバーンライト公爵に伝える。自宅に戻って謹慎していろ」
「くっ……」
「ま、待ってください!レスター様は悪くないんです!」
レスターをかばうようにソフィアが飛び出した。
話がまとまりかけていたのに今更出てきて何をしようというんだろう。
おそらく皆同じ思いでソフィアの事を見ている。
「そ、ソフィア?!」
「そうか……お前がソフィア・リンジット男爵令嬢か」
思った以上に冷めた目でグレア様はソフィアを見た。
恐らくシスコンのグレア様にとってソフィアは最愛の妹の縁談を破談させた女だ。
ただの学生として見ることはできないだろう。
「レスター様は、アリアローズ様にいじめられる私をかばってくださったのです」
「アリアローズに?いつ、どこでいじめられたというんだ?」
「えっと、入学式の日に中庭で……」
「その日アリアローズ様は私と一緒にずっとクラスにいました。クラスメイトに確認していただければ分かります」
聞き捨てならない、と私が声を上げるとクラスメイトの何人かはうんうんと頷いてくれた。
「じゃ、じゃあ体育祭の日……」
「その日は朝から体調不良で寮にいました。寮母に確認すればわかるはずです」
とアリアローズ様も反論する。
さすがに言われっぱなしではいられなかったようだ。
「一年生の夜会の日」
「その日アリアローズ様は公務で学園にいませんでした。それはグレア様もご存じかと」
グレア様は私の言葉にそうだな、と頷いた。
「で、他にはどんな嘘が飛び出して来るんだ?」
そう言われてソフィアは言葉を詰まらせる。
「あぁ、そういえばリンジット男爵からこんな事を言われたな『娘は妄言が激しいので何を言われてもすぐに信じないでください』だと」
「そんな!お父様がそんな事言うわけない!嘘つきはそっちよ!」
おいおいソフィアよ。不敬って言葉知ってる?
さっきから第一王子様に対する態度じゃない。
「どんな言い分にせよ貴様ら二人は謹慎処分になる予定だったんだがな」
「え?」
「なんだって?」
グレア様の言葉にソフィアもレスターもぽかんとしている。
「生徒会の活動費を使い込んで遊びまわっていたそうじゃないか。お前たちの言葉は聞き飽きた。おい、連れて行け」
「はっ!」
控えていた騎士が二人を拘束して会場を出て行く。
ようやく騒動の種が居なくなったと安堵のため息が漏れる。
「騒がして済まない。今日は卒業パーティは仕舞いとする。後日私の権限でまた開催するので許して欲しい」
グレア様が言うと残った騎士達が端から退場を促し始めた。
ぞろぞろと人が帰って行く中、アリアローズ様は残っているグレア様に近づいて行く。
なぜか私の手を離してくれない。
「お兄様」
「あぁ、アリアローズ。災難だったね」
といってグレア様はソフィアを見ていた時とは別人のような笑顔でアリアローズ様の頭を撫でる。
「大丈夫ですわ。それよりも公務で忙しいお兄様こそ大丈夫ですの?」
「公務は終わらせてきたから問題ないよ」
「そうですか」
「所で、そちらが?」
未だに手を繋いだままの私をグレア様は見た。
「ど、どうも初めまして!リタ・トゥールマンです!」
「どうですお兄様、可愛らしいでしょう?」
「アリアローズ様!」
可愛い人に可愛いと言われると反応に困ってしまう。
「ふふ、良い子じゃないか。話は聞いているよ。妹をよろしく頼んだ」
「は、はい!」
私の返事を聞いて満足そうに頷くとグレア様は騎士に指示を出しに行ってしまった。
「ねぇリタ」
ぎゅう、と手を強く握られる。
「はい?」
アリアローズ様はぐっと体を寄せて耳元で囁いた。
「この後、私の部屋に来て?」
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