六章2話 悪役令嬢とは



そこは何もない真っ白な部屋だった。


そこにいる彼は真っ白な服に身を包んでいる。


顔には胡散臭い笑顔を張り付けてそこに佇んでいた。




「1人目はノースラントの姫君、2人目は学園の女子生徒、3人目は没落貴族のご令嬢、4人目は砂漠の商人、5人目は吸血鬼の姫、うーん6人目はやっぱり王都かなー…」




ブツブツと呟いていた男はふと、何もない空間を見つめる。




「何の用だいアーシア?」




何かを感じたのかそう声を発すると彼の前に一際美しい女性が現れる。


彼女は怒っているのか眉間にしわを寄せていた。




「それはこちらの台詞よ。フォルテ」


フォルテと呼ばれた男は一瞬胡散臭い笑顔を歪ませる。


「なんのことかな?」


「しらばっくれないで。貴方が私の世界から複数の魂を転移転生させていることは分かっているのよ」


「じゃあ黙っていてくれないかな?」


「できるわけないじゃない。元は私の世界の管轄の魂よ!」


それに、フォルテが暇つぶしで魂を引き寄せているのを知っているのかアーシアは険しい表情のまま言った。


「これ以上あなたに自由にさせるわけにはいかないわ。これは上位神からの言葉でもあるのよ」


上位神。言葉通りアーシアやフォルテよりもさらに上位の偉い神様の事だ。


その名前を出されたら折れるしかなかった。


「わかった。わかったよ。……でもすでに最後の1人を転生させてしまったばかりなんだ。それには目をつむってもらうよ?」


「……もうすでに転生してしまっているのなら仕方ないわね。次は無いわよ」


そう言ってアーシアは消えてしまった。


再び静寂の訪れた真っ白な部屋で彼は胡散臭い笑顔を浮かべながら自分の管轄の世界を見下ろす。




「さぁ、皆。この暇な時間を楽しみで彩っておくれ。百合って最高!」






*********






リタ・トゥールマン15歳。


長年親友だと思っていた王女様に襲われてそのまま食われました。


それも初めてなのに激しく抱かれたという!!


「リタ、どうしましたの?」


そう隣で満足そうに微笑んでいるのが親友であり王女様のアリアローズ・キングストン様である。


あなたのせいです。


なんて言えるわけもなく私は首を横に振った。


「あ、安心してください!ちゃんと今日の授業はお休みしますって侍女に伝えてもらっていますから」


「そうじゃないんです。いやそうだけどそうじゃない……!」


そう、目覚めたらすでに太陽は頂点に達していた。


完全なる遅刻である。


それをこの王女様は適当に理由をつけて二人とも休みにしたのだと言う。


二人同時に休みを取るとか何かあったと思われるに決まっているじゃないか。


後後もう一人の親友に何を問い詰められるのか、考えただけで頭が痛い。


「まずは着替えましょう?それからご飯を食べるの」


「えぇ、わかりました」


私は持ってきていた着替えに手をかける。


「あ、違うのリタ!今日はこちらをお召しになって?」


そう言って差し出されたのはアリアローズ様の髪と同じ淡いピンク色のドレスだった。


私の濃いダークブルーの髪に合わせても問題は無さそうだ。


しかし、どうしてドレスなんだろう。


「えっとですね。今日は一緒にお買い物しに行きたいなぁって」


「私達授業を仮病で休んでるんですよね???それに買い物だけであればドレスじゃなくてもいいはずです」


「仮病じゃないですぅ!ちゃんと外出の為休みますってお願いしましたー!それに行きたいのは王室御用達のお店だからドレスが必要なんですぅ!」


アリアローズ様はぷんぷんと怒ったポーズをする。


そんな仕草も可愛らしいんだから憎めない。


私はため息をついた。


「わかりました。行きましょう」


と言ってドレスを受け取る。


すると見て分かるほどに嬉しそうに笑う。




****




アリアローズ様と出会ったのはいつだっただろうか。


あれは私が5歳の時、お父様に連れられてお城を訪れた。


その時はなんの用事かわからずついていったけど、今思えばアリアローズ様との顔合わせだったのかもしれない。


客間でお父様を待たせ、私はお手洗いに行くため一人で外廊下を歩いていた。


ふいにザァと風が吹く。




ふわりと風でローラルな香りが漂っているのに気がついた。




庭の方を見れば目立たない場所に花園がある。


そこに人が立っていた。




ウェーブがかかったピンクブロンドの髪がふわふわと揺れている。


小顔で、大粒のアクアマリンのように澄んだ瞳は前を見ていて、ぷっくりとした唇には薄く紅がひかれていた。


髪に合わせたのか薄ピンク色のドレスを着ている。




私は周囲と全く違う彼女の姿に見とれてしまっていた。


チリ、と頭の片隅が痛む。


その痛みは段々と強くなっていき無視できないものになる。


「い、たい……!!」




痛みと共に私のものではない記憶が流れ込んでくる。


それは信じられないものだった。






「嘘、私が……悪役、令嬢……?」






そう呟いて私は意識を失う。






高熱でうなされながら私は前世の記憶を思い出していた。


平成の世に生まれ、普通の中学生だった私はあるゲームにハマっていて、そのゲームに出てくる王女様に花園にいた彼女がそっくりなのだ。


しかもそのゲームではリタ・トゥールマンは悪役令嬢としてヒロインの前に立ちふさがる。


いわゆるお邪魔キャラ的存在で、攻略が進めば断罪イベントなるもので世間から排除されてしまう役割を持っていた。


私はゲームを隠しルートまで完全クリアする前に何らかの要因で死んでしまった。


そしてなぜかそのゲームに酷似した世界に私はいる。


これは何か悪い夢なのだろうか。




この高熱は三日も続いた。


熱が引いたころには前世の記憶を全て思いだして折り合いをつけることが出来ていた。


この記憶は誰にも気づかれないように隠して行こうと決心した。


そして断罪イベントに繋がりそうなヒロインには一切近づかないことも決める。


学園の隅で地味な子として平和に卒業を迎えることが私の目標となった。


これからはこの記憶を最大限に活用していくことになるのだろう。




そんな事を考えながら静養していた所にアリアローズ様が見舞いに訪れたのだ。




最初は王女様だと知らずに驚いて、自己紹介を受けて二度驚いた。


彼女は近くで倒れていた私を見つけてくれたのだとか。


それが縁でよく話すようになり、いつの間にか友達になっていた。


始めの内はちゃんと礼儀正しく接していたのだけれどアリアローズ様が普通に接してほしいと望んだので普通の友達みたいに接している。




****




そしてお互い12歳になり学園に通うことになった。


学園にはアリアローズ様の婚約者もあのゲームのヒロインもちゃんと在籍していて、あぁ関わらないようにしないとと気を引き締める。


そこで幸運だったのがヒロインの狙いがアリアローズ様の婚約者であるレスター・バーンライトという青年だったことだ。


このシナリオの場合私は悪役令嬢として立ちはだかることは無く、代わりにアリアローズ様が婚約を破棄されて悲しみのあまり修道院に入るという終わり方だったはず。


つまりアリアローズ様さえシナリオ外で幸せにできれば万々歳ルートなのだ。


そんな私の思いを知ってか、知らずか、アリアローズ様は予想以上に私を慕ってくれていてまさかの襲われる展開になった。


ということはアリアローズ様はバーンライトのことをそれほど気にしていないということじゃないだろうか。




あれ、これは愛情を深めていけば私もアリアローズ様も幸せハッピーエンドを迎えられるんじゃ?






後書き編集

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