四章2話 暇神にチート能力もらったけど使いづらい!



次に気が付いた時は質のいいふかふかのベッドに寝かされていた。


服も暑くないようにか、薄い生地の服に着替えさせられている。


「目覚められましたか?」


ベッドサイドには図ったようにあの時の少女が立っていた。


「あ、私……倒れて……」


「えぇ、丸三日も目覚めなかったんですよ?」


少女は心配そうに私の額に手を当てたりして熱を測ったりしている。


この子は私が無理矢理キスをしたことをどう思っているんだろう。


「丸三日ですか……?」


「はい、今医師を呼んできますのでそのままお待ちくださいね」


そう言うと少女は部屋を出て行ってしまった。


キスの事は次に聞けばいいかとベッドの上で体を起こす。


人が二人寝れそうなくらい大きなベッドだ。


部屋の中を見るとテーブルやソファもあり上級ホテル並みに広い部屋だと分かる。


こんな豪華な部屋で三日も眠ったままだったのか。


ていうかすごい魔法使った反動にしても三日は眠り過ぎだと思う。




使いづら過ぎるでしょこの魔法!


おのれ暇神!次会ったら一発くらい殴りたい!




暇神に対しての愚痴を脳内で叫んでいると医師らしき女性を連れた少女が戻ってきた。


女性は私の脈を測ったりよくわからない装置を当てたりして体に異常が無いかを確認している。


「よし、特に異常はないわね。ちょっと体内魔力が少ないくらいかしら」


「体内、魔力?」


知らない単語が出てきた。


RPGで言う魔力と同じようなものだろうか?


「……なるほど、お嬢ちゃんの言ってた通り記憶に難があるみたいね」


「えっと、すみません?」


嘘をついている申し訳なさから思わず謝ってしまった。


「いいのよ。確か砂漠で行き倒れていたのよね?」


「らしいです」


「それより前の記憶が無い、と?」


「はい」


「じゃあ貴方が使ったって言う魔法については?」


「それが、よくわかりません……気付いたら体が動いてて……」


そう言えば難しい表情で女性は私を見る。


なにかまずいことでも言ってしまっただろうか?


「うーん……元々そういう魔法が使えたのか、それとも使えるようになったのか……もしかしたらソコに貴方が砂漠で行き倒れていた理由になるのかもね」


「先生、そこから先の話は若にもしないと」


「あぁ、それもそうね。診た感じ歩き回っても大丈夫だから直接会いに行くといいわ」


少女の言葉に女性は頷いた。


「じゃあ私はこれで失礼するわね」


そう言って女性はさっさと部屋を出て行ってしまう。


「あ、あの……」


「申し遅れました。私はシトラス・ディディエライト。あなたのお世話係に任命されました」


「え、お世話係?」


「はい。さっそくですが若に会いに行けますか?若はいつでも大丈夫って言ってましたが……」


私のお世話係と名乗ったシトラスという女の子は私の体調を気遣うように伺ってくる。


「だ、大丈夫です。行けます」


そう言ってベッドから出ると三日間寝たきりだったせいか少しふらついた。


さっとシトラスちゃんが支えてくれたから倒れたりはしなかったけどこれだけのふれあいでも若干HPゲージが上がるのが気になる。


上昇に対する判定、範囲広くないか……?


「ありがとう」


シトラスちゃんに連れられて部屋を出ると長い廊下が待っていた。


少し歩いた所で少し豪華な扉の前につく。


「ここです」


コンコンと扉をシトラスちゃんがノックするとすぐに中から返事が返ってくる。


「若、連れてきました」


「おう」


中にいたのは私にマントを貸してくれて若と呼ばれていた男性だった。


書類に目を通していたらしく私達が部屋に入るとその書類を机の上に置いて立ち上がる。


「そっちのソファに座ってくれ」


「あ、はい」


勧められてソファに座ると対面に男性が座った。




「まずはお礼からだな。サンドワームの時助けてくれてありがとうな。すっげぇ助かった」


がばりと頭を下げて言った。


「え、と。あの、私こそ助けていただいてありがとうございます」


「俺はヤン。ヤン・ライジングだ。この雷光商会の頭をやっている」


「雷光、商会?」


商会というからには何か売っているんだろうか?


私の疑問を肯定するようにヤンさんは説明をしてくれる。


「あぁ、この砂漠の都と王都を行き来して色んな商品を運んでるんだ。普段は魔物に襲われることもそう無いんだが今回は運が悪かったみたいだな。本当に助かった」


「そんな何度も言わないでください。私も助けてもらったんですからお互いさまですよ」


「そうだな……所で、記憶が無いって言うのは本当か?」


その問いかけに私は頷いた。


「はい、拾われる前の事が思い出せないんです」


「どこに住んでいたとか、名前もか?」


「えっと……はい、思い出せません」


心の中で申し訳ない気持ちで謝りながら私は言った。


するとヤンさんは何かを思案するように視線を移す。


足元からずーっと上を見てある一点で視線が止まる。


「呼び名が無いのも困るし。とりあえずモモだ。思い出すまでそう名乗っておけ」


「!!」


まさか前世と同じ名前をつけられると思ってなかったので驚いた。


「って、今どこ見て言った?ねぇ?どこ見て言った?」


どう考えても視線が私の胸部で止まってから言ったよ。


モモみたいに小さいって言いたいのかな?


シトラスちゃんみたいなメロンサイズが近くにいるから目が肥えてるのかな?


「どこも見てないって!なんだよ、気にしてんのか?」


「見てんじゃん!気にしてないし!これからだし!」


「思いっきり気にしてるじゃねぇか」


「若!ふざけないでください!モモさんが可哀想です!」


ぶはっと笑われた所でシトラスちゃんが止めに入ってくる。


さすがに言われたらふざけるのもやめたようで真面目な表情になった。


「まぁ、とにかく名前が無いのは不便だからな。悪意は無いからモモで我慢しろ」


「うぅ……なんかモヤる」


「ところでこれからのことなんだが……モモ、うちで働かないか?」


「え?働く?……どんな事をすればいいの?」


これからの事については最悪放り出されることも覚悟していたのに思ってなかった提案が出てきた。


「そうだな、シトラスと同じように家政婦をしつつお前の場合は魔法があるから時々用心棒のようなことをしてもらいたいと思っている」


シトラスちゃん家政婦だったんか……


「え、魔法……?」


私の魔法は普通と違うから普通の戦力として求められると困る。


思わずソファから立ち上がりかけた。


「なんだ、お前自分が魔法使った事覚えてないのか?」


「いや、覚えてはいるけど……使い方が分からないの」


「どういうことだ?」


「あの時はとっさに体が動いて魔法を使ったけど、今使えって言われても使えそうにないんだ」


なんせHPゲージが溜まっていない。


だから言っていることは間違っていないだろう。


「使うには発動条件があるってことか?」


その言葉に頷いた。


「だから私を戦力として数えるのはやめたほうがいいです」


「そうか……まぁなんとかなるだろ」


楽観的ぃ!!


「家政婦の方はどうだ?できそうか?」


「えっと、やってみないと分からないです」


家の家事手伝いはしたことはあるけど家政婦ってどんなことをすればいいのかさっぱりわからないのでそう言った。


「じゃあシトラスが指導する通りにやってみろ。駄目そうなら別の手を考える」


「わかりました」


この人の家政婦になるということはヤンさんが雇い主ということになる。


いつまでも適当に敬語を混ぜて喋ってたら駄目だろうと口調を直す。


「了解です。モモさん、頑張りましょうね!」


「はい。よろしくお願いします!」


「よし、あとは任せたぞシトラス」


そう言ってヤンさんは席を立つと元の机に戻っていく。


その背に向かって慌てて私は


「あの、色々とありがとうございます!」


と言った。


すると彼は気にするなという風に手を振って退室を促したのでシトラスちゃんと揃って部屋を出る。


また長い廊下を二人で歩く。


「仕事がもらえて良かったですね」


「うん、本当に良かったです」


「あの、私には普通に話してもいいんですよ?」


「いえ、仕事の先輩になるので敬語は外せません」


じゃないと仕事中に普通に話してしまいそうだ。


「そうですか……」


彼女はすこし残念そうに言った。


「じゃあまずはお着替えしましょうか」


そう言って連れてこられたのは衣裳部屋と書かれた札がついた部屋だ。


その中に入ると色んな種類の服が沢山仕舞われていて、服屋みたいな所だと思った。


「うーん、モモさんのサイズだと……これか、これですかね」


シトラスちゃんが選び出したのはよく見るメイド服ミニスカートタイプとメイド服ロングスカートタイプだ。


そうか、家政婦ってメイドか。とようやく思い至った私は少し後悔する。


まさかメイド服を着ることになるとは……。


私は迷わずロングスカートタイプを選んだ。


誰が悲しくて生足を晒すと……!




メイド服を着たら次は今日のご飯の買い出しに連れて行かれた。


大きな屋敷を出ると太陽の光が熱をもって襲い掛かってきた。


ヤンさんが砂漠の都と言っていたから覚悟はしていたけど本当に暑い。


これはロングスカートにしたのは間違いだったかもしれない。


何度かバテそうになりながらシトラスちゃんについて市場を回り食材を買い込んでいく。


目の前を見るのが困難になるくらい紙袋が積まれて暫くしてそれは起こった。




「きゃっ!」


「いてぇな!」




前方を歩いていたシトラスちゃんが大柄な男とぶつかってしまった。


男はちょっとしたことなのに怒りシトラスちゃんの手を掴んだ。


「ぶつかっておいて謝罪も無しかぁ?」


「も、申し訳ありませんっ」


シトラスちゃんは手を力強く握られているのか痛そうに顔を歪める。


「誠意が伝わらねぇなぁ?」


「そんなっ」


大柄の男は仲間連れだったらしく横やりが入った。


「どうすれば満足していただけますか……?」


困ったようにシトラスちゃんが言う。


すると男はニタリといやらしい笑みを浮かべた。


その視線はシトラスちゃんの胸部に向いている。


「なぁに、簡単な事だよ、なぁ?」




「まずはその手を離してもらおうか」




そう言って私はシトラスちゃんの腕を掴む手に爪を立てた。


するとそれなりに痛かったのか手を離す。


「いってぇ!ナイチチに用はねぇんだよ!」


「胸の話は関係ねぇですわよ!!」


ムカついたので金的をお見舞いしてやる。


「ふぐぅぁ」


と変な声を上げて男はしゃがみこんだ。


すると周りにいた男の仲間達がナイフを抜いた。


「てめぇ!男に対してやってはいけないことを!」


「兄貴が不能になったらどうしてくれる!」


「鬼!悪魔!」


なんだか私のほうが悪者っぽい扱いをされている。


真に遺憾だ。


「胸の話も女性にしていい話じゃないよなぁ?」


私が怒りを込めて言えば少し気おされたのか後ずさる。


背後にシトラスちゃんを庇いながら私も後退した。


男たちはナイフ持ち、私達は武器を持っていない。


魔法を使おうにもゲージが溜まっていない。


肝心な時に仕えない魔法だな。


「モモさん……」


シトラスちゃんが不安そうに私の服の袖を掴む。


やるしかないのか。


私は意を決してシトラスちゃんの方を向く。


「本当にごめんね!」


「え?」


呆気に取られているシトラスちゃんにマウストゥマウスパート2。


HPゲージがみるみる溜まっていく。


だけど溜まり切るまで男たちが待っていてくれるはずがない。


気を取り直したのかナイフを持ちこちらへ向かってくる。


後でいくらでも謝ろう。そう心に決めて私はシトラスちゃんの薄く開いた唇から舌を入れて絡めた。


「んん?!」


驚いているがシトラスちゃんの柔らかい舌が私の舌に絡みついてくる。


やはりキスの先に行けばいくほどゲージの溜まりが早かった。


すぐにゲージは二巡目に突入して視界の端に『Lv2 神の雷 発動可能』と表示される。


私は心の中でなんども発動しろと唱えた。




バリバリッ!




とすごい音をさせて雷が降ってきた。


雷は男の仲間三人に綺麗に落ちて黒こげにする。


どさりと倒れたが浅い呼吸をしている当たり命は助かったようだ。




私は唇を離した。


「二度も唇を奪ってごめん……」


私がそう言えばシトラスちゃんは顔を赤くして首を横に振った。


「あの、モモさんが、魔法を使うのに必要な事なんですよね?なら謝らないでください。その魔法には二度も助けられているので……」


もじもじとしながらそう言われる。


「うぅ、でもごめんよぉ……」






「シトラス!モモ!無事か?!」






一足遅れてヤンさんがやってきた。


どうやら騒ぎが起きていると連絡が行ったらしい。


「さっきすごい雷が落ちるのを見たがそれはモモの魔法か?」


「はい」


素直に頷いておく。


「使い方は分かったのか?」


「一応……ですね」


「?……まぁいい、こいつらを警備に引き渡したあとゆっくり聞かせてもらおうか」


そう言ってヤンさんは連れてきた警備の人たちに男達の後始末を指示する。


そして私達は大した聞き込みもされず屋敷へ戻ることになった。






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