四章1話 神様、そりゃないよ!


私の名前は冬樹百ふゆき もも。


16歳になったばかりの女子高生だ。


学校帰り、交差点で信号が変わるのを待っていたら突っ込んできた居眠りトラックに跳ね飛ばされ気が付いたら全方位真っ白な部屋に立っていた。


何を言っているのかわからないと思うけど私が一番よくわかっていない。


目の前には真っ白な服を着たオジサンが営業スマイルのような表情を浮かべている。




「残念ながら貴女は死にました。でも神様権限で貴女を異世界へ招待します」




「は?」


確かにトラックに跳ね飛ばされた私は死んだんだろう。


だけど神様権限で異世界に招待するってどういうことかわからず変な声が出た。


「神様?」


思わず指さすとニコニコとした表情のままうんうんと頷かれる。


「なんで?」


「神様って基本暇なんだよね。だからよく迷い込んだ魂に次の人生をプレゼントしちゃうの。もちろん私の管轄している世界に限るんだけどね~」


「いやそんな軽く言われても困るんですけど!」


暇人か!いや、暇神か!


「あ、もちろんそのまま放り出すわけじゃないよ?ちゃんと生きていけるようにスキルをあげるからね」


「人の話聞いてないな?!」


異世界に招待されることに関して私はまだOKを出していない。


なのに問答無用とばかりに話を進めていく。


「うーん、君にはコレかなぁ」


そう言って暇神がこちらに向かって指を振ると視界の右下あたりにHPと書かれたバーが表示された。


視界を動かしてもついてくる。


「なによこれ!」


「それはねぇエッチポイントって言って女の子にエロいことするとゲージが溜まっていくんだよ」


「は?!なん、え?エッチポイント?!」


超絶にいらないポイントゲージを与えられてしまった。


慌ててもどうしようもないが暇神を睨めつける。


「こんなんでどうしろってのよ!消して!今すぐ!!」


「これすごいんだよ~ゲージが溜まると強い魔法が使えるんだよ。対価に見合った、ね」


暇神のニコニコ顔は睨まれても変わらない。




「じゃあそろそろ逝ってもらおうかな」


「だから人の話を聞いてってば!!」


「私神様だから人の話は聞かないんだー」


そう言って手を一振りすると私の足元がパカリと先の見えない落とし穴が開いた。


「ひぇ?!」


「いってらっしゃーい」




「恨むからなああああああああああ!!!」




重力に負けて落下し始めるとすぐに視界は真っ暗に閉ざされた。


落下先を見ても全然終点が見えない。




次第に意識も遠のいて……








◆◆◆






気が付くとガタゴトと揺れる馬車のような物に乗せられていた。


私が上体を起こすと一緒に乗っていたらしい少女が話しかけてくる。


「あ、気づかれましたか。どこか痛い所とか無いですか?」


「だい、丈夫です……ここは?」


そう言って馬車の中を見回すとここにいるのは私と少女だけだと分かった。


私より少し幼い顔立ちをした愛らしい笑みを浮かべた少女は質問に答えてくれる。


少女が言うにはどうやら私は砂漠のど真ん中で倒れていたらしい。


もう360度どこ見ても一面の砂漠だったとか。


暇神は私を殺すつもりなのかもしれない。


そのまま見殺しにするわけにもいかないとこの馬車の持ち主が私を拾ってくれてこの少女を看病役につけたらしい。


「まずはお水を飲んでください」


差し出された水の入ったコップを受け取る。


予想以上に喉が渇いていたのか一気に飲み干してしまった。


「あ、すみません。全部飲んじゃって……」


確か砂漠では水は貴重な資源のはずだ。


そう思って謝ると少女は首を横に振る。


「先ほどオアシスに立ち寄ったばかりなので大丈夫ですよ」


「あ、ありがとうございます」


コップを返して私はその場に座った。


「それで、どうして砂漠で倒れていたんですか?」


暇神のせいとも言えず私は言い淀む。


「あ、の……分からない、です」


「分からないですか?」


「う、はい……」


騙すのは心苦しいけど口から出てしまった言葉は取り消せないので頷いた。


「うーん、若頭に報告して今後の事を考えないといけないですね。私の一存では色々と決められないですし」


そう言って少女は難しそうな表情になる。


「あ、の……その若頭という方はどちらに?助けてもらったお礼を言いたいです」


「あぁ、若頭なら……」




突然ガタン!と大きく馬車が揺れた。


障害物のないはずの砂漠でだ。


突然の出来事に対応できなかったらしい少女が倒れかかってきたので受け止める。


その際に当たった胸部クッションの大きさなんて気にしないんだから。


遠くで動物の鳴き声や人の怒号が聞こえた。


「サンドワームだ!追い払え!」


「うわぁああ!」


どうやら何かに襲われているらしい。


これは危ないんじゃないか?


そう思って少女のほうを見れば顔色を青くして震えている。


驚いて私は少女を強めに抱きしめた。


「だ、大丈夫……多分」


多分と言った所でまた馬車がガタンと揺れる。


今度の揺れはまるで下から突き上げたかのように大きくて、私達の乗っている馬車が大きく傾いた。


「きゃあああ!!」


ドスンと馬車は中身ごと横転してしまう。


運よく私達に荷物は当たらなかったけれどこれはほんとうにまずいのでは……


「おい!無事か?!」


外から声がかけられる。


「は、はい!大丈夫です!」


「危ないから出てこい!」


そう言われて私は少女を抱えたまま馬車の外へ出た。


外は砂埃や怒声ですごいことになっている。


ぐるりと見渡せばいくつかの馬車が横転していて、そこら中で戦っている人がいた。


「くそ、数が多いです若!」


「わかってる!なんとか持ちこたえろ!一匹づつ倒せ!」


若と呼ばれた男性が目の前に立っている。


砂漠用の衣装に身を包んだ褐色肌の男性が命令を出していた。


随分苦戦しているようだ。


そこで私は気付いた。




視界の端に移るHPゲージがたまりつつあるということに。




暇神の言うようなエロイことなんてしていないのに、だ。


原因になりそうなことなんて少女を抱きしめてあげているくらいしか思いつかない。


まさか接触でもゲージがたまる?


たしかゲージがたまるとすごい魔法がつかえるんだっけ?


それならこの状況もどうにかできるかもしれない。


でもエロイことって何をすればいいんだろう?




……キスなら、どうだろう。




うん、接触になるしもしかしたらゲージが溜まるかもしれない。


そう思い至った私は抱きしめていた少女の肩を掴んだ。




「あの、ごめんね!」


「え?」




返事を待たずに私は少女の唇に軽くキスをした。


すると思いのほかHPゲージがギュン!と上がって2ゲージ目に突入する。


同時に私と少女を取り巻くように風が渦を巻いた。


視界の端に


『Lv1 神の風 発動可能』


と表示される。


私は頭の中で発動するよう何度も念じた。


念じたことで発動条件を満たしたのかブワリと風が広がると人以外のサンドワームらしき怪物を切り裂いていく。


何体もいるそいつらが居なくなったあたりで風は収まる。


風が収まると急に体から力が抜けてその場に座り込んでしまった。


少女も驚きながら私の隣に座り込む。


ちょっと頬が熱いのは砂漠の熱のせいかそれともキスをしたせいか……




「おい」




そう声を掛けてきたのは若と呼ばれていた男性だった。


彼はこちらへ歩み寄ってくると自身の被っていたマントを外してこちらへかけてくれる。


さらりとした銀髪が風に揺れた。


「さっきまで倒れてたんだ。無理すんな」


ちょっと待ってろ。そう言って彼は周囲の人に指示を出し始める。


部下らしい人達は横転させられた馬車を起こして使えそうな馬車を選んで積み荷を移し替えていく。


その様子を見ていたら段々と視界がブレはじめた。




あ、やばいなと思った時にはもう倒れこんでいた。


そのまま意識も暗転する。




暇神、魔法使うためのハードル高すぎだろ!!



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