二章5話 ケンカ
文化祭の当日がやってきた。
私達のコスプレ喫茶は目新しいもので気を引いたのか大繁盛している。
それこそ休憩が出来ないほどに。
「3番!ケーキと紅茶できたから持って行って!」
「はぁい!!」
「9番早く片付けて!お皿洗うの遅いわよ!」
「無茶いうなって!水道二口しかないんだぞ!!」
男女関係なく裏方で忙しく動き回っている。
「12番テーブル清掃終わりました!」
「よし、開いてる人でお通しして!」
「了解!」
まさかこんなに繁盛するとは思っていなかったので驚いている。
やっぱりルリエール先生の反応を見るにこっちの世界の人には珍しいものだったんだなぁ。
「なぁなぁ、暇」
「暇ならどっか行ってきてもいいよ」
と暇を訴えてくるルビィを邪険に扱う。
正直言って裏方にいられても邪魔なだけだ。
そう言うと機嫌を損ねたようにルビィはどこかへ飛んで行ってしまった。
◆◆◆
お昼休みを無理やりにでも勝ち取って私はルビィを探していた。
ここのところ忙しすぎて少し邪険に扱いすぎたと罪悪感がある。
道行く人にそれらしい使い魔の話を聞いて辿り着いたのは屋上だった。
屋上の手すりの隅に座って風を羽に受けている。
さらさらと風にのって流れる赤い髪が印象的だった。
「あら、ティオさん?」
ルビィに声を掛けようとしたところ、背後から呼び止められる。
振り返ればブロンドの髪をなびかせたエルフの女性が立っていた。
「し、シルフ生徒会長?」
そこにいたのはシルフ・シルヴェスター。この学校の生徒会長だ。
魔法が使えない頃から私の面倒をよく見てくれていた優しい人である。
「聞いたわよ。魔法、使えるようになったんですってね」
「あ、はい……その、使い魔のおかげで……」
「これで卒業試験も受けられそうね、良かったわ」
「そうですね」
しかし私は彼女が苦手だった。
エルフでありながら教員になるため日夜勉強に励んでいる。素晴らしい模範的な生徒である彼女はなぜか私を必要以上に構う。
それに距離も近い。
そのせいか嫉妬されることもあったし。
「それじゃあ、生徒会に入る事も考えてくれたかしら?」
歩いて二歩ほどの距離まで近寄ってきた先輩が言う。
以前から成績だけは良かったので生徒会に誘われていた。
しかし魔法が使えないため断り続けていたのだ。
「あの、その件は、その……」
一歩さらに近づいてくる。
先輩の手が私の頬に触れた。
「私の補佐は君しかいないと思っているんだよ?」
「ひゃ……!」
囁くように言われて体が震える。
言いようのない恐怖感が私の背筋を伝わって頭まで登ってきた。
どうにかして断らなければ……
「うちのご主人様に馴れ馴れしいんだよ!」
待ち望んでいた声が私の体を空へと誘う。
状況に気付いたルビィが私を抱き上げて空へ逃げてくれたのだ。
「せ、せんぱ……私、無理、れす!」
先輩から距離を取る様にルビィは私を連れて空を飛んでくれる。
返事は届いただろうか。
暫くしてルビィは寮の屋上へ下ろしてくれた。
「ありがとう」
「別に」
「お昼ごはん、一緒に食べたくて探してたんだよ?」
そう言えば少し不機嫌そうだったルビィも関心を示す。
「そ、そうか」
「朝は邪険にしてごめんね。忙しかったからついキツイ言い方になっちゃった」
「お、おう……別に、気にしてねぇよ」
丁度いいので屋上に設置されている椅子にバスケットからお昼ご飯を出して広げた。
用意していたサンドイッチとジュースをおいしそうに食べ始めるのを見て私も食べ始める。
どうやら思ったほど機嫌は悪くなってないみたいで安心した。
◆◆◆
午後の部も無事に終了させた生徒達は最後に行われる夜祭りの準備をしていた。
屋台などの廃材をキャンプファイヤーにするのだ。
私とルビィはこっそり屋上からそのキャンプファイヤーが燃える様子を見ている。
あの炎も今年で見納めだ。
あとは卒業試験を残すのみ。
「なぁ、ご主人様」
「なぁに?」
「シたい」
「は?!」
そう言ってルビィは座っている場所から距離を詰めてくる。
「ちょ、何を、ここ外……せめて部屋に!」
「今がいい」
「いや、だめ!」
勢いに負けて椅子の上に転がされてしまう。
だめだ、この勢いに負けたら本当に最後までされてしまう。
そんなの
「駄目だって言ってるでしょぉおおお!!」
のしかかってきたルビィに足をかけて蹴り飛ばす。
「外は駄目!もう!ルビィの馬鹿!!」
「なんだよ他に誰もいないんだからいいじゃねぇか!!」
「駄目に決まってるでしょ?!常識的に考えて!!」
ガバリと起き上がってルビィと距離を取る。
「そんな常識知るかよ!俺は今したいんだ!!」
「もう嫌!そんな勝手なこと言うルビィなんて知らないんだから!!!」
「あぁそうかよ!!」
私はルビィから逃げるように屋上を後にした。
その足で向かうのは副校長室で、夜なのに書類に囲まれた副校長が対応してくれる。
「なにがあったんだ?」
「ルビィと喧嘩しました。帰りたくありません」
こんな時間の訪問者だというのに副校長は紅茶を入れてくれた。
それを一口飲んで少し落ち着く。
「簡潔だね。もっと詳しく聞いてはだめか?」
「ルビィがどこでもエッチな事したがるんです……嫌だって言ってるのに」
「あー……そうか、使い魔のことちゃんと教えてなかったなぁ」
納得といった表情で副校長が言った。
「使い魔は魔力供給されないと駄目なのは分かるよな?」
頷く。
「最近忙しくて簡易的なやりとりしかしてないだろ?」
その問いに私は頷いた。
忙しすぎて疲れてキスくらいしかしていない。
「つまり、魔力切れだ。なんとかして魔力を補給しようとしているからどこでもシたくなる」
人形と同じだ。燃料が無くなれば動けなくなる。そう言われて私は気が付いた。
「え、じゃあつまり私のせいってことですか……?!」
「そうなっちゃうねー」
「そんな……私ルビィになんて酷いこと……」
「さぁ、もう大丈夫だね?戻りなさい」
そう言われて私は副校長室から出される。
ルビィに謝らないといけない。
ルビィはまだ屋上にいるだろうか?
急いで戻ったがそこにルビィの姿は無かった。
かわりに
「あら、ティオさん」
シルフ先輩がなぜかいる。
「あ、あの……ルビィ、使い魔を見ませんでしたか?」
近づいてくる先輩に後ずさりしながらも問いかける。
「いいえ、私が来た時にはいませんでしたわよ」
「そ、そうですか……じゃあ私はこれで」
「ティオさん」
背を向けて逃げようとしたところを壁ドンされて塞がれた。
「お逃げにならないで……?」
「で、でも私ルビィを探しに行かないと!」
「よいではありませんか。どうせそこらへんに出かけているだけですよ」
耳元で囁くように言われる。
触れた呼吸にゾクリとした。
「ねぇティオさん……私ずっと、貴方のこと気にしていたのですよ?」
スルリと先輩の手が体のラインに沿って降りていく。
「ねぇ……あんな使い魔の所じゃなくて私の所へ参りませんか?」
「し、るふせんぱ……」
先輩の指が服の合わせ目に触れた時だった。
「何度も同じこと言わせんじゃねぇぞ!!」
ビュウと私の周りに風が吹いてシルフ先輩が飛び退いた。
「うちのご主人様に馴れ馴れしいんだよ!!」
一番望んでいた声の主がそこにいる。
「る、びぃ……!」
手を伸ばせばその手を取って空へと抱き上げてくれた。
「ごめん、ごめんねルビィ!」
「謝るのは後にしてくれ」
「いつもいいところで邪魔をしてくれるわね」
底冷えするような声でシルフ先輩が言い放つ。
あれはいつも見ている優しい先輩とは違う。
「ご主人様が嫌がってるからなぁ!」
「使い魔風情が!私とティオの邪魔をしないで!!」
邪魔も何も始まってすらいませんが?!という私のツッコミは無視された。
「邪魔させてもらうね!なんたってご主人様は俺のものだからだ!」
「まぁご主人を自分のもの呼ばわりなんて……!ティオ、この使い魔は駄目よ。すぐに送還しなさい」
シルフ先輩の言葉に私は首を横に振った。
なんと言われようとルビィは私の呼びかけに答えてくれた使い魔なのだ。
魔法の使い方を教えてくれて、護ってくれる騎士なのだ。
送還なんてできるわけがない。
「私はルビィがいいんです!!」
「よく言ったご主人様!」
一瞬の浮遊感の後、私達は自室のベッドの上にいた。
「転移するのも疲れるんだよなぁ」
と言ってのけたのはルビィで、私は魔力供給のことを思い出す。
「あ、あの……ルビィさえよければ魔力供給、しよ?」
そう私が言えば驚いた表情でこちらを見られる。
「あぁ、そうか、魔力供給について知らなかったんだな?だからあんなに拒絶してきて……」
ギシリとベッドのスプリングが鳴った。
「ご主人様の魔力、いただくぜ?」
そう言ってルビィの手が服に伸ばされる。
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