二章1話 違うそうじゃない!



異世界に転生したい。


そうなんども考えて、偶然トラックに轢かれて本当に異世界に転生してしまった。


だからといって何か楽しい事があるわけでもなく、依然と同じような一般人の生活が待っていた。


普通の家庭の普通の子供として生まれた私が唯一他と違ったのは魔力の総量が魔族を超えていることだけで、そんな私が魔法使いの学校に入れられたのは必然だった。




数年前から魔族領で才能のある子を育てようと学校が開設され、それが今も稼働している。


私はそこで落ちこぼれた。


魔力はあっても使い方がわからないのだ。


何をしても魔法が使えず落ちこぼれの印を押されて残るは文化祭と卒業式というところまできてしまった。


私は一体何を求めて転生したんだろうか。 


そう自問する日々に終わりを告げたのは副校長のある一言だ。




「補助系の使い魔を召喚してみましょう」




美しい白銀の髪とファイアオパールの瞳を持つ褐色の美人はそう言って私に使い魔召喚を勧めてくる。


もしうまく行けば魔法が使えるかもしれない、私はその一言にすがるしかなかった。


変な奴が出たら助けてくれるという言葉つきで。




私は使い魔召喚用の魔法陣に血を垂らす。




淡く光った魔法陣から現れたのは私と同じくらいの背丈の少女だった。


ただ普通と違うのは手や足がドラゴンのように鱗に覆われていてドラゴンの角と尻尾と羽を持っているところだ。


その少女は私と主従契約がつながっているのが見えるのかニコリと笑って言って見せる。


「今度の契約者はうまそうだな!」


「ひぇ!」


ひょいと掬い取られた髪にキスを落とされた。


「ちょちょちょ、契約内容に食べられるなんて入ってなかったはずよ!」


慌てて私達の間に止めに入る副校長。


「あ?それは肉体的に、だろ?俺は性的に食べたいんだよ。いいだろご主人様?」


「いいいいいいわけないでしょうがぁああああああ」


叫んだ私は悪くないと思う。


なんで私ばっかりこんな目に合うんだろう。


結局契約を解除することはできなくて、このドラゴン娘『ルビィ・ドラゴニカ』と同居することになってしまった。


副校長には平謝りされてしまうし、いいことなしだ。


はぁ、とため息交じりに寮室のドアを開ければ我が物顔でズカズカと中に入ってくる。


私は防犯としてドアを閉めると鍵をかけた。


「へぇ、これがご主人さまの部屋かぁー」


きょろきょろと部屋の中を物色している。


「ちょっと、あんまり見ないでよ!」


「えーいいじゃん。今日から俺もここで暮らすんだし」


ドン、と壁ドンされた。


「それとも何か?呼び出しておいて自分に責任はありませんってか?」


急に真面目な顔で言われてビクリと固まる。


そうだ。


彼女は私の勝手な呼び出しに応じてくれたんだ。


なのになんでこんな邪険に扱ってるんだろう。


つい、と顎を持ち上げられた。


何を?と問いかける前に唇が塞がれる。


「ん、ちゅ」


薄く開いた唇から舌が入ってきてそこからさらになにか温かいモノが体の中に入ってくるのを感じた。


ビクン、と体が跳ねるのをルビィが受け止める。


「わかるか?今のが魔力の動きだ」


「ふぁ、あ……?」


今の温かいのが魔力……?


初めて感じた魔力の流れに戸惑う。


「契約書に書いてあった。魔力がわからないんだろ?俺に任せれば大丈夫だ、な?いいことあったろ?」


ちらりとルビィの顔を伺うと楽しそうに笑っていた。


何が楽しいのだろう。


私はこんな疲労した状態になっているというのに。


初めてのキスが使い魔とだなんて思ってなかった。


「んー、もう一回いっておくか?」


んちゅー、と抗う間もなく舌が私の口内を蹂躙する。


拒否したいのに、同時に入ってくる温かい何かが拒否できなくした。


温かい何かはお腹のあたりでグルグルと回って溜まっていく。


「ほら、わかるか?」


するりとおなかを触られてビクリと反応してしまう。


「ここに魔力が溜まっているだろ?後はこれを形にするだけなんだ」


そう言ってルビィはキスを再開する。


形にするって言ったってこの状態でどうしろというのか。


舌同士が触れ合うと痺れて脳が蕩けそうになるというのに。


「ふぁあ……や、めぇ……」


「だめだ。ここで辞めたらまた最初からだぞ?」


それは嫌だ。


でもどうやって形にすればいいんだろう。


ビクビクと震える体で手を持ち上げる。


温かいのをお腹から手のひらに移動させるように考えるとその通りに動く。


手のひらに小さな炎を灯そうとすればその通りに手のひらに小さな火が生まれた!


初めて魔法が行使できた瞬間だった。


「んふー、よくできました、だな」


お互いの唾液でてかてかと光る唇を舐め取ってルビィが言う。


小さな火はすぐに消えてしまった。


「ご主人様さえよければこのまま続きもしたいんだけど?」


「つ、づき?」


はぁはぁと息荒く聞くと「そりゃあセックスに決まってるだろ?」と答えてきたので全力でもって張り倒しておいた。


「シャワー浴びてくるから、ルビィは寝室で寝ててもいいよ」


今回、汗をかいたのは私だけでルビィは特にシャワーを浴びる必要性を感じなかったので言う。するとついてくると言ったのでどうしたものかと悩んだ。


この寮の風呂は男女は別れているが使い魔専用などはない。つまり一緒に入ることになる。


ルビィに裸を見られる?


そう考えたら恥ずかしくなってきた。


あ、タオルで隠せばいいのか!




そう思いついて私はルビィと連れたって寮の風呂場にいく。


すると運が無いのか風呂から出てきたばかりの同級生と鉢合わせてしまった。


「あらぁ落ちこぼれのティオさんもついに使い魔持ちにまで落ちてしまったのねぇ!」


そう言ったのはミリン・アーデルハイド。私のクラスの委員長を務める私と違って優秀な羊系魔族の女の子だ。


勝ち気な性格でいつも私の事を貶して来る。


いつもならここで私が無視を決め込めば収まるところが今日はルビィがいた。


「あ?ご主人様より魔力量も質も劣ってる羊が何言ってるんだ。馬鹿じゃねぇの」


「る、ルビィ!」


「まぁ!なんて品の無い喋り方をするのかしら!やっぱり使い魔もご主人さまに似るのねぇ~」


「なんだよ、やんのか?」


「ルビィやめて!!」


何が気に食わないのか突っかかっていくルビィの腕を引いて押しとどめる。


その間にミリン委員長は行ってしまった。


このまま時間を無駄に使うつもりはなかったのだろう。


「……なんで止めたんだよ」


「わ、私が落ちこぼれなのは本当だし。喧嘩してほしくなかったから……」


そう言って二人で脱衣所に入る。


そこで気がついた。


ルビィの体は肝心な場所は鱗に覆われている。


つまり今まで裸だったのでは?


「る、ルビィ……ふ、服は……?」


「あ?いらねぇよそんなもん」


裸だったぁああああ!!!


全裸の使い魔を連れて歩いてたなんて!!!


ふぉおおおお!!と恥ずかしさに悶えているとルビィがタオルで体を隠した。


「こ、これでいいだろ?」


そう言ってタオルを外した時には鱗も翼も尻尾も無くなっていた。


「え?え?!」


「変身能力くらいは持ってるんだよ!」


恥ずかしいから早く入ろうぜ!と腕を引かれて私も服を脱いでお風呂場に入る。


そこは少し時間をずらしたからか人がおらず貸し切り状態だった。


「ほら、そこ座って」


「おう」


私はルビィの長い宝石のような髪にたっぷりとシャンプーを着けて泡立てる。


ルビィはあわあわしているのが楽しいのか洗われているのが気持ちいいのか鼻歌を歌っていた。


ジャバァと泡を流すと綺麗な髪がさらに綺麗に見えた。


「か、体は自分で洗ってよね!」


「洗った事無いからわかんねぇよ」


「私のを見て覚えて!」


そう言って一から体の洗い方を教える。


そうして綺麗になったらお風呂に浸かった。


「そういえばさっきの感覚、まだ覚えてるか?」


「へ?」


「さっきの、おなかぐるぐるーってやつ」


キスのことかと思って一瞬びくっとしてしまった。


「お、覚えてるよ!」


「じゃあここでやってみろよ」


「えー……」


と言いながら手を前に出す。


おなかぐるぐる……あの感覚を思い出しながら手のひらに魔力が行くようにする。


ぽ、と小さな炎が灯った。


「できた!」


喜んだのもつかの間、炎はすぐに消えてしまった。


「それが基本だ。覚えておけよ」


「うん!」




それから私達は寮室へ戻ってきた。


すると使い魔のことも考えて二人部屋を支給すると副校長からの使いの人に言われたので引っ越しの準備をする。


元々大した荷物も無かったのですぐに引っ越しは完了した。


ただ一つ問題があるとすれば




クイーンサイズのベッドが一つしかなかったことである。




つまりルビィと同じベッドで寝るしかないということで。


「んふふ、ご主人……かーわいい」


「ひぇっ」


ネグリジェに身を包んでベッドの隅にいたところ肩をするりと撫でられる。


「んな警戒しないでも今日はもう何もしねぇって」


「……ほんと?」


「ほんとほんと!だから危ないしもっとこっちに来いって」


そう言われて安心してベッドの中央に寄ればルビィの尻尾が私の体に巻き付いてくる。


あれ、これ食われる?


と思ったら頭上から寝息が聞こえてきた。


「ルビィ?」


返事は無い。


どうやら何かに巻き付かせて眠るのは癖のようだ。




こうして落ち着き無いながらも私も眠りにつくのだった。






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