第7話 ショッピング?デート?
「それで?来栖くんがなんでここに居るのかしら?」
「あ、あはは....」
「ん?先輩のお友達の方っすか?」
「違うわ。婚約者よ」
「婚約者!?!?」
「違うけど違くない!!てか、それはバラさない約束じゃん!!!」
「あら。ついうっかり」
ただいま俺は修羅場(?)の真っ只中である。
気がつけば俺の婚約者(仮)の柳沢 音々が斜め前の席に座っている。
対する菜々子は顔を赤くしてアワアワしている。
そして俺は額に汗かきまくりの状況です。はい。
「先輩、婚約者なんていたんすか!?私という女がありながら!?」
「俺とお前はそういう関係じゃないだろ!!」
「来栖くん?もう一度聞くけど何をしているのかしら?こんな美人さんと一緒に」
「ただの買い物だよ!」
「ふーん。そう。ほんとに?」
「ほんとだよ!!なぁ!?」
俺は早くも助け舟を出して欲しいがために菜々子に同意を求める。
もうね、この空気胃に悪いです。
「え?.....。いやいや、何言ってるんすか先輩。デートですよデート」
「何言ってんの!?!?」
「こちらの方はこう言ってるけどそれでもただのショッピングなのね?」
「そうだけど!?」
何言ってくれてんの!?菜々子は!?
この状況下でのそれは爆弾だよ!
火に油を注ぐとはまさにこのこと。
やばたにえん。
「まぁ、来栖くんがそういうのならそうしときましょう」
「先輩と私はデートです!デートでーすー!」
「おいてめこら。適当なこと言ってんじゃない」
コノヤロウ。
なんの企みか知らんが死んでもデートなんてことにはしてやらないからな。
絶対に。
「そういえば2人とも、早くしないと麺伸びるわよ?」
「「あ」」
音々のこの言葉を機に俺たち2人して急いで麺を啜り始める。
俺たちにこんなこと言ってくるこいつは何を食べてるんだろうと思い、音々のナイフとフォークの先を見てみると200グラム4000円の高級ステーキを食べていました。
この時点で何かを悟った俺だった。
「2人は今からどこに向かうのかしら?」
「そうですね、私の下着を買おうかなと思ってます」
「だから俺は1人で行動をしようかと」
「は?何言ってるんですか先輩?先輩も着いてきてもらいますよ?」
「え?」
「は?」
「「え?」」
綺麗にユニゾンしました。
というか絶対行かないからな!?
女子の下着屋に男の俺が行ったらどうなるか。
そんなこと火を見るよりも明らかだ。
「来栖くん、ついて行くのが恥ずかしいのなら私もついて行きましょうか?」
「へ?」
「いえ、必ずついて行くわ。あなたが何をするか監視してないといけないもの」
「いやいや、何もしませんって」
「下着をクンカクンカしたり、マネキンの胸を触ったり、そこの女子...「あ、佐尾 菜々子です」佐尾さんの着替えを覗くかもしれないもの」
「音々の中での俺は一体....」
「正真正銘の変態ね」
「俺なにかしたかな?」
最近俺の人権が無くなってきた気がする...。
解せぬ。
「それはそうっすね。先輩、変態だからピチピチな私の体を狙っているかもしれません」
「お前ほんといい加減にしとけよ?」
「えーと...「柳沢 音々よ」柳沢さんに見守ってもらった方がいいですね」
「もう絶対、奢ってやんないかんな」
「では、行きましょう!」
「なぜにガン無視.....」
ほんとに俺の人権ないみたい。
どうしよ....。
裁判でも起こしたろかなちくしょう。
2人に連れられ着いたところはなんかピンク色のランジェリーショップ。
すごくお客さんの目線を感じる。
9割女性のやつや...。
すっごく恥ずかしい。
涼介はよくこんなところに入れるな。
すでに俺のライフは0に近いってのに。
「では、お二人共行きましょう!」
「ちょっ!引っ張るな!袖を持つな!」
「さぁさぁ、来栖くんも行きましょう」
「背中を押して強引にするな!ちょ!ちょっと!」
菜々子からは引っ張られ、音々からは背中を押され、葛藤しているなか、無理やり店内へと突っ込まれる。
そこには桃源郷が存在していた。
数々のランジェリー。
ピンクやら紫やら赤やら。
たくさんの品揃え。
って、やばい。
俺の三大欲求のうちの1つが暴走しそう。
「なるほど。これもいいですね」
「それよりもこっちの方がいいんじゃないかしら?」
「確かにそれも悪くないですね」
女子2人組は俺のことなんか放ったらかしで下着を物色している。
気がつけば思った以上に仲良くなってる...。
もうこれ俺いなくてもいいよね?
絶対そうだよね?
ということでこっそりお暇させて頂いて...。
ガシッ。
「ちょ、先輩どこに行ってるんですか」
「ほんと、どこに行ってるのよ」
「なんかすいません」
あっさりバレましたね、はい。
もうヤダ.....。
「あ、先輩。こっちのやつとこれどっちがいいですか?」
そういってピンクの下着と紫の下着を見せてくる菜々子。
正直に言うとどっちも可愛いです。
「え、どっちもいいと思うぞ」
「ほんと乙女心分かってないなぁ。まぁ、どっちも買お」
「こっちとこっちはどっちがいいかしら」
今度は音々か。
どんな下着だ?
なんでもこいや。
そうして音々が手に持つ下着を見る。
右手には黒いTバック。
左手には赤いTバック。
「ブフッ!!」
な、なんてハレンチな!
思わず吹き出してしまった!!
「それはさすがに過激すぎやしませんかね」
ごめんなさい。嘘です。
どっちもエロくて最高です。
「まぁ、いいわ。どっちも買うから」
いーや、買うんかい!!
うふふと不敵に笑う音々を傍目に心の中でつっこむ俺だった。
「いやぁ、今日は楽しかったですね!」
「まぁ、そうだな」
「えぇ、そうね」
めちゃくちゃ馴染んでるけどなんで音々もいんの?
「私の家はここからそこまで遠くないのよ」
「なるほど」
ショッピングモールの近くに日本家屋のあの豪邸があるとは。
なんともシュールな。
美人な女子2人に挟まれ、まさに両手に花状態。
一生の運を使い切ってしまったかもしれない。
そう思って歩いていると反対側から6人の派手な見た目をした集団とすれ違う。
男女比3:3だ。
女子はみんな派手な格好をしているいわゆるギャル。
男どももピアスやらタトゥーなどをしている。
男たちがその女子たちをガッチリ囲むかのようにして歩いてる。
女子のうち2人はニコニコして男たちと談笑しているがそのうちの1人は少し嫌な顔をしている。
そこでようやく俺は気づく。
嫌な顔をしている女子があいつだということに。
目線は合っていないがあいつだと分かる。
俺の嫌な記憶が脳の奥底から引き起こされる。
『な、なんでだよ!?理由を言ってくれよ!』
『あんたなんかと話したくない!近づかないで!』
あの時の光景がフラッシュバックしてくる。
理由も無しに別れ話を告げられた。
きつくて悲しくて家に着いてからは泣いた。
1週間ほどしても穴がぽっかりと空いて俺の心は埋まることはなかった。
その集団とすれ違ってからも少し気分が悪かった。
「さっきの人たち派手でしたねー。絶対、チャラいですよ」
「えぇ、そうね。まさかとは思うけど今から体でも売るのかしら」
体?
なんでそんなことがでてくる?
「な、なんで体ですか?」
「だってこの先ってホテル街があるじゃない。だからよ。まぁ、憶測でしかないけどね」
そうだ。
確かにこの先には県内でも有名なホテル街がある。
まさかとは思うけど援助交際でもするのかもしれない。
あの男たちもなんかやばそうだったし。
なにか嫌な予感がする。
食べ物が奥歯に引っかかっているような感じだ。
でも、俺にはなんの関係もない。
あいつとは縁を切った。
切ったんだが.....。
どうしてかな。
ほっとけない。
もしかしてと思うとハラハラしてくる。
別にあいつのことを思っているわけではないはずなのに。
どちらかというと見てて不快になってくるのに。
モヤモヤする.....。
この感情がなんなのかはよく分からない。
でも、助けたいと思ってしまう自分がいる...。
助けたくない、どうでもいいとはどうしても思えない。
でも、あいつのためになんて理由で動くのは今更な感じもする。
どうしたものか。
・・・・・・・・・・・・・
そうだ。
俺は決してあいつを助けるわけではない。
あいつの連れの2人の女子を助けるためだ。
あとは見て見ぬふりが出来ないからだ。
そうだそうだ。
あいつのことなんて少しも考えちゃいない。
考えてはいけない。
だから、別に少し後を付けても大丈夫。
少し様子を見ても大丈夫。
何も無ければすぐに帰ってくればいい。
何かが起こるとは決まったわけじゃない。
そうしようそうしよう。
俺は菜々子と音々の方を向き、話す。
「ごめん。俺、ちょっと用事できた。先に帰ってて」
「へ?先輩どうしたんですか?」
「どうしたの?来栖くん」
「とにかく用事が出来ました。それじゃ!」
俺は2人のことを見向きもせずにあいつらが向かったであろう場所へと走り出す。
「ちょ、先輩!?」
「来栖くん!?」
後ろの方で声が聞こえるが悪いが無視を決め込ませてもらう。
とにかく何もなければそれでいいのだ。
自分ではそう思っていても俺の心にはやっぱり嫌な予感というものがこびりついていた。
◇◇◇◇◇
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◇◇◇◇◇
誘拐されたと思ったらヤクザの娘が婚約者(仮)になっていた件 気候カナタ @kokixyz
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