第2話 実在した脱兎

はぁ。昨日の夜はめちゃくちゃ大変だった...。


妹に何があったのか問い詰められるし、母さんにはなんの連絡もなしに帰ってくるのが遅いって説教されるし、全ての元凶である単身赴任の父さんに電話しても出ないし...。


俺が一体なにをしたっていうのか。

誰か教えてくれ。


少し気持ちが乗らないなか、学校の敷地内に入ったところで後ろから思いっきり叩かれる。


「いたっはぁーー!?」


「アハハ。相変わらずリアクションが面白いなー来栖くんは」


「・・・・・美玖かよ。やめろよ、その変な挨拶」


「ごめんごめん。来栖くんが面白いからつい」


俺の背中を思いっきり引っぱたいた女子は佐々木 美玖ささき みく。俺と1年の頃からクラスが一緒で仲がいい女子だ。

茶髪のポニーテールにクリッとした大きな瞳。

そして柳沢さんに負けず劣らない胸の大きさ。

あとは健康的な太ももだ。

・・・・・・変態ではないぞ決して。


「てか、どーしたの?朝から浮かない顔しちゃってさ」


「いや、昨日はいろいろあってさ。結局、合コンにも行けなかったし」


「合コン行く予定だったの!?ダ、ダメだよ!」


「ん?なんで?彼女ぐらいいいじゃん」


「とにかくダメなの!もうっ!早く行こっ!」


「お、おう」


そう言うとぷりぷりしながら俺の数歩先を早歩きで歩く美玖。

ぷりぷり揺れる胸もまた良きかな。

眼福眼福。

ちなみに変態ではないぞ決して。


俺は2年2組だ。

どっちも数が2だから覚えやすいよね。


教室に入り、席に座ると隣の席の男子から話しかけられる。


「おい、来栖。お前なんで昨日来なかった」


「待つんだ涼介。早まるな。俺はなにも悪くないんだ!」


「そんないかにも悪いこと隠してるみたいな言い方しやがって。今日は全部吐いてもらうぞ」


「そんなご無体な!!」


この男子こそ小学生の頃からの幼なじみ、森永 涼介。

イケメン顔に金髪にネックレス。

緩くしたネクタイといかにもチャラ男みたいな男だ。

大の女好きで彼女も取っかえ引っ変えだが性格は仲間思いのいいやつだ。

でもまぁこいつのせいで俺も悪影響受けてるんだけどね...。

俺は自分の緩くなったネクタイと軽く着崩した制服を見る。


「さて、何があった昨日。お前が来なかったから予想してたより女子の食いつき悪かったわ」


「いや、それがですね。ものすごいことがあったとしか言えないんだよ」


「俺はそのものすごいことが知りたいんだよ」


「それはさすがに言えないなぁ〜」


言えない。

気づけば婚約者みたいな人が出来たとか口が裂けても言えない。

言ったら現在彼女なしのこいつに殺されかねない。


「はぁ。これ以上問い詰めても無駄そうだな。まぁ、また今度誘うわ。次こそこいよ」


「俺も行きたいから行くに決まってんだろ?」


「せっかくお前があれから立ち直れるように誘ってやったのにさぁ」


「大丈夫!俺は既に立ち直ってるから!」


中学3年生の時に少しトラウマじみた事があったんだがきっとあれから立ち直れてるんだと思う。

多分。


「ちょっと森永くん!来栖くんを合コンになんて誘っちゃダメだよ!」


またぷりぷりした顔で美玖が女子グループの輪から抜けてこっちへとやってくる。


「あー、誰かと思ったら佐々木か。いいじゃん別に。こいつだって彼女欲しいだろうし。なぁ?」


「モチのロンよ!!」


「むむむむ・・・・!!」


涼介がニヤニヤしながら美玖に視線を向ける。

そして美玖は恨めしそうな目で涼介を見る。

いや、あれは睨んでるわ、うん。

え、なに?

これどういう状況?

開いた口が塞がらないよ。物理的な意味で。


俺が少しあたふたしているとそれは突然やってきた。


ガラガラガラガラ...ダンッ!!


扉が開き、閉められる音がするとクラスメイト全員の視線が一気にそちらへと向けられる。

それは俺や涼介、美玖も例外ではない。


そしてそこに立っていた人物は柳沢 音々。


いつものようにキリッとした目付きに隙のない雰囲気が彼女をかなり強く見せている。


いつもなら彼女はこのまま窓際の1番後ろの席に向かい日頃から行っているであろう読書をするのだが今日は違った。


いつもとは違う進行方向に足を動かし始めるのだ。

それがなんと俺のほうに歩いてくるのである。


・・・・・・ほんっとに勘弁してください!?

こんなところであんなことバラされた日には切腹物だよ!


「え?柳沢さんなにか用があるのかな?」


「おい、来栖。まさかお前じゃないだろうな?」


「アハアハアハアハアハ。ななななななにを言ってるのか俺にはなにも分からない」


「お前なんか頭おかしいやつになってんぞ...」


柳沢さんは歩みを止めずに俺の目の前へと立つ。

その時の迫力といったらもう凄まじかった。

だって体の周りから波紋が見えるんだよ?

自分の頭がおかしくなったって思ったんだもの。

震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!

じゃねぇんだよ。ここに石仮面はないの。

スタ〇ドなんて使えないの!


ゴゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうだ。

ジ〇ジ〇の世界に迷い込んだのかもしれない。

時とか止めてみたいな!どうせならさ!


まぁ、そんなことあるわけもなく。

普通に話しかけられる。


「来栖くん。おはよう。今日もいい天気ね。今日は一緒に帰りましょう?」


「あ、おはよう。柳沢さん。いい天気だね....え?」


シーーーン。

この教室にあう効果音はきっとこれだ。


沈黙とはまさにこのこと。

誰もが喋らない。

誰かは口を大きく開け、誰かは口を抑え、誰かは目を見張った。そんな状況。


まぁ、要するにカオスの前兆なわけ。


・・・・・・何いってんのこの人!?

こんな人前で一緒に帰りましょうとか言います!?


「え?は?え?」


俺がこんな戸惑いの声を出すもんだからクラスメイトたちの時が動き始める。

時は動き出す・・・・・。


「「「キャーーーー!?」」」


「「「マジかーーーー!!!」」」


「「「いやぁーーーーーー!!!!」」」


うるさっ!やばいこれは!隣のクラスに文句言われるレベルでうるさい!!


「お前合コン来ないで何してた!?ほんとに!!」


「くくくく来栖くん?2人はつつつつ付き合ってるの?」


涼介と美玖の2人も脳がパンクしてやがるぜ!

まぁ、そういう俺が1番焦ってます!!

変な汗垂らしまくりです!はい!


か、かくなる上は!!


「ちょっと柳沢さん!こっち!」


「え?」


俺は柳沢さんの手を取って走り出す。

目指すは階段の踊り場!

まだ登校している生徒に見られるだろうけど教室よりかはよっぽどマシだ!!


踊り場に付くと俺は速攻で話し始める。

だってホームルーム近いんだからしょうがないじゃん!


「柳沢さん。俺たちは確かに仮ではあっても婚約者なんだろう。でも、あまり学校ではそういう行動を取らない方がいいと思うんだ。ハァ...ハァ...」


全速力で走ったから息が上がってしまう。

帰宅部にスタミナを分けてくれ運動部のみなさん。


「え?どうして?」


「まず柳沢さんはこの学校ですごく目立ってる。そんなところにゴシップなんてものが出てきたらかっこうのネタにされちゃう。それはいろいろとまずいと思う」


「確かに言われてみれば...。父様が怒るかも」


「でしょ?それにあんまり自分では言いたくないけど俺も多少なりともモテはする。だからあんまり騒ぎにはなりなくないんだよ」


「なるほど」


「だから今後そういう行動は控えて欲しいなって思う」


「そうね。そうするわ」


良かった。

柳沢さんが物分りがいい人で。

やっぱり学園の花は一味違うな。


「みんなにバレないようにしろってことね」


「・・・・・ん?」


「そういうことならしょうがないわ。今日はみんなにバレないようにこっそり一緒に帰りましょう」


前言撤回しよう。

全然物分り良くなかった!

話が通じてねぇ!!

むしろ状況が悪化した感じさえしてくるのは不思議だ!


「え?俺はそういうことが言いたいわけではなくて」


「あら。もう時間じゃない。早く戻りましょう」


そう言うと柳沢さんはダッシュで俺を置き去りにして走っていく。

脱兎とはまさにあのこと。

そして残される俺。

呆然と残される俺。


・・・・・・・・・・・


「ちょ待てやゴラァァァァ!!!!」






その後教室に1人戻った俺はクラスメイトみんなの誤解を解くのに休み時間と、昼休みまるまる使ったのはまた別の話。







━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

文字数多くなりましね。

ゴメンなサイドステップ。

ゆるーく投稿していきます。多分。

他にも連載しているので良ければ是非。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る