飲み会です!(2)

 本日二回目のトイレです。原因は両方とも恵子。最悪だろあいつ。

「優さん大丈夫?どうぞ」

 私は手元にあったいろはすを差し出した。

「うん、なんとか、ありがと」

 優さんのえろい唇がペットボトルに吸い付くと体内の空気とペットボトルの中に在る水が交換される。私は優さんの吐く息になりたいし、吸い込まれる水にもなりたい。私が将来なりたい職業Tier1だ。波打つ喉が白くて、薄く見える血管が私の心を惹きつける。

「ふう、酔い覚めちゃった、酔いたい」

「さっきまで死んでたのに大丈夫なんですか?」

「だいじょぶだいじょぶ」

 大丈夫じゃなさそうだ。けれど私の刺激された性欲は大丈夫ではない。

「じゃあ、ちょっと抜けません?いいとこ知ってるんですよ」

「お、ほんと?いこいこ」

 いや嘘だろチョロすぎる。今宵は彼氏に振られた傷を癒しになりましょう。

「じゃあ優さん…ここから逃げますよ!」

 抜き足差し足忍び足。王とその配下に気が付かれないように洗面台から部屋の扉へ行く。玄関でヒールを履いた瞬間勝利を確信しドアノブに手を掛ける。ガチ。あれ?開かない。重大なミスに気が付いた。ここロビーに電話しないと出れないじゃん!

ここでクエスト発生。【王とその配下に気が付かれないようにベッド横に在る電話でロビーに鍵開けてもらう電話を掛けろ】難易度が高すぎる。私の命賭ければイケるか?そうだ、いいこと考えた。優さんに行かせて電話掛けさせれば怪しまれないかな?傷心してるしすんなり帰してくれそうだ。よし、これはイケる。優さんも気持ちよくイくことになるだろうし。

「優さん、ベッド横に在る電話でロビーに部屋から出るように伝えて下さ…」

 ん?うわ優さん寝てるー!

 絶体絶命だけど寝息立てる優さんもかわいいもうここで襲っちゃいたいけど玄関は流石に…まずいか…

「ちょ、優さん起きて…」

「んー?」

 優さんのえろい唇が迫ってきて私の口内ににゅるりと舌が入ってきた。私の舌を包むように繊細に弄り回される。快楽の電流が私の頭に流れて本能のスイッチが爆発する音がした。いいやもうここでヤっちゃおう。

「ふっ、優さんっ」

 唇が離れた後直ぐ優さんの首元に吸い付こうとする。その瞬間柔らかい手の平が私の口を覆った。

「…ここじゃやだ」

 この人から誘ってきたのにヤダって。まあここじゃなければいいってことだ。私は目先の修羅の道に潜った後、この人をめちゃめちゃに抱くことを神に誓った。もうスイッチ入っちゃったしこれでヤれないとかは無しにしたい。

「待っててくださいね」

 優さんに唇を軽く重ね気合を入れる。こっちには極上女とのセックスが掛かってんだ。負けられない!

 電話取って、外に出るって言うだけだ。大丈夫私なら行ける!やれる!イケる!ヤレる!私イケてる!

 王とその配下たちの宴会場の扉を勢いよく開ける。すると三人共眠りに落ちていた。そうか。スピリタスにコカレロ、ウイスキー、度数高めお酒ばかり並んでいた。それに、人に酒を飲ませまくる酒飲みの席の邪悪、恵子が居るのだ。机の上に並ぶショットの内半分は開いていた。こんなに飲んでいて耐えられるわけがない。

「助かった…頭のおかしい恵子ちゃんに感謝してあげよう」

 気持ちよさそうに寝転がる恵子の頬に感謝のビンタをした後、ベッドの横にある電話機を手に取る。いや手に取ろうとした。その手は何故か沙織さんに掴まれていた。

「何してんの~飲もうよ~」

 急に起きた沙織さんはガラステーブルの上にずらりと並んだショットグラスから一つ取って私に手渡してきた。ショットに入った透明の液体を口に当てた瞬間脳が千鳥足になる。ダメだ。これ飲んだらここで死ぬ。何か逃げる方法…

「うりゃ」

 手渡されたショットを沙織さんの口に当てると沙織さんの身体はベッドに吸い込まれていった。あぶねえ。だけどこれで、遂に、優さんとセックスできる!

 やっとの思いで電話機を取りロビーに掛け、鍵を開けるよう言った。受話器を置いて部屋の入口を向くとまた一人起きていた。百獣の王、瑠衣さんだ。

 うっヤバいこれ殺されるっ。私の身体は蛇に睨まれたように硬直する。

「綾ちゃ~ん、どこ行くのぉ?」

「うっうふっえへえへっちがうんですよぉぉ」

 喉が硬直して声が震える。怪しさ満点の返しをしてしまった。

「お酒のも?」

 まだ残っていたショットを一つ、一気に飲み干し私にまた別のショットを渡してきた。っていやあれスピリタスでしょ結構酔っているとはいえなんでこの人飲めるんだ…成人女性のアルコール致死量を余裕で超えるほど飲んでいるだろ。

 絶体絶命の時、後ろで転がっていた超絶美人が起き上がった。

「瑠衣さぁん、まだ私も行けますよぉ」

 恵子!生きていたのね!

 起き上がった恵子は机の上のショットを二杯飲み干すと。

「…私の勝ちですね」

「いいや私だね」

 不敵な笑みを浮かべた瑠衣さんは机の上のショットをさらに三杯飲み干した。恵子がベッドに倒れた音で酒クズ頂上戦は瑠衣さんの勝利で幕を閉じた。

「勝っ…た…」

 我が人生に一片の悔いなしと拳を天に振り上げた瑠衣さんはそのままベッドに吸い込まれた。

 正直、恵子のおかげで助かった。

「恵子、大丈夫?ありがとね?」

 あんたのおかげで優さんとセックスできる。

「ちょ、綾、水、頂戴、しにそう」

「はいはい」

 ビニール袋に大量に入った酒の缶をかき分け、場違いなポカリを取って恵子の元へと戻る。

「あ、口移ししたげよっか?」

 頑張ってくれたご褒美にちょっと甘いことさせてあげようと思った。日頃雑に扱っているし。

「いやそんなのいいから、マジ水頂戴」

 私の良心を軽く砕いてきた。くそムカツク。

「わかったほーら飲め飲め」

 ペットボトルの口を開け恵子に飲ませてあげる。500ml飲み干した後そのままベッドに倒れこんだ。

「じゃあな恵子、ありがとな」

 最後に、恵子の頬へ感謝のビンタをして入り口の優さんの待つ場所へ向かう。あとお酒を飲んだ後ポカリとかの身体に吸収されやすい飲み物飲んじゃダメだよ。アルコールも一緒に吸収しちゃうからね。まあ、これで恵子は朝まで起きないだろうし、安心して逃げられる。

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