第18話 流派、ねこみみメイド拳は!
見えない障壁にぶつかりそれ以上前に進めない5体の魔物。
カダベルも不死者として復活している以上魔物と数えるのが妥当。
強そうな魔物が5体もパントマイムのように同じ場所で進もうとしている姿はなんともシュールである。
「な、なんだこの結界のような空間は。えぇいまずはこの障壁をぶち壊すぞ。」
その様子を見ていた街の者数人は唖然としていた。
それから魔物達の魔法と拳が見えない空間をただひたすらに攻撃をする時間となった。
12時といえばほぼ太陽は真上にある、現在は日も傾き次の夜に備えて風呂や夕飯の支度をし始める頃。
パリィンッとガラスが割れるような音とともにその障壁は砕け散った。
実に4時間もの間攻撃を続けてようやく障壁を破壊する。
これで漸く街へと進む事が出来る、まったく忌々しいモノを展開してくれやがってとお怒りである。
「いらぬ消費と時間を要したが問題ない。お前達の寿命が……」
ドドドドン、ドドン、ドギャーーーーン……
街側から一斉に魔法が連射される。
激しい魔法群の後、煙が晴れると……
そこに魔物の姿はなかった。
「やったか!?」
それは古今東西言ってはいけないお約束、所謂フラグというものである。
「ばっ、おま、それは。」
あちこちからお咎めの言葉が漏れる。
ぴちゅんっと水の音が聞こえたかと思ったら、ドンッという音ともにフラグを立てた冒険者の首が胴体とさようならをしていた。
「なっ……」
それを目の前で見ていたフラグに対して注意をした冒険者達は突然の事とその惨劇に対して恐怖を抱き動く事が出来なかった。
ぐちゃぐちゃ、くちゃくちゃと、件の冒険者の頭を咀嚼していたからである。
その行動を皮切りに他3か所からも同じような光景が繰り広げられる。
魔物の歩行は遅い、まるで逃げる獲物の恐怖を煽るかのように、そして残念ながら捕獲された者は最初の冒険者のように魔物の口の中へと消えていく。
そんな地獄絵図の様子にギルドマスターは……
「俺、この戦いが終わったらお前にプロポーズする。だから返事、考えといてくれ。」
突然の言葉にマリーは驚く。
ギルドマスター35歳、マリー23歳、一回り離れてはいるが二人は恋仲……かどうかは知らないが随所にそうではないかという様子は周囲に漏れていた。
緊張感を損なうかもしれないが、マスターの意思は固い。
生死を掛けた戦いになる事は必至のため、マスターは決意を言わずにはいられなかった。
しかし、その言葉もまた……
「はぁ?なにフラグおっ立ててるんですか。勃てるモン違うでしょうが。」
前日セクハラになるかもとマスターが飲み込んだ言葉もあったというのに、マリーの言葉の方がセクハラであった。
「俺、この戦いが終わったらお前にプロポーズする。だから子供の名前、考えといてくれ。」
マスターは決意を言い直した。
ちなみに隠れて付き合っているのは本当である。
ただし、まだそういった行為はしていない。
「未亡人にしたら死体のあそこ、思いっきり蹴ってあげるから。嫌ならちゃんと無事に帰ってきてくださいね。」
それが先の言葉に対するマリーなりの返事であった。
人の命が失われている場所で、新たなカップル、夫婦(仮)が誕生した瞬間である。
「鑑定だけのマスターだと思うなよ、ギルドマスターになるには最低でも個人でAランクになってる事が条件だからな。」
一番近くにいた魔物の傍に瞬時に移動すると、目の前の化け物と対峙する。
身体能力、思考能力、判断能力向上系のスキルを使用、愛刀(マスターのではない)に聖水(マリーのではない)を付着させ準備を整える。
「古今東西アンデットには聖水か光・聖魔法と相場が決まってるんだ。この愛刀とマスターである俺を恐れるならかかって……うわっ。」
意趣返しである。マスターが喋っている間に魔物の腕がマスターの居た個所を切り裂いた。
すんでのところでその攻撃をかわしたマスターは流石というところであろう。
口を動かしていても周囲の警戒は怠っていない。
「第二ラウンド開始といこうか。俺と対峙した以上は、これ以上誰もヤらせん。」
マスターは地面を蹴ると魔物に向かって駆け出した。
肉薄する寸前、互いの攻撃と防御が繰り広げられる。
刀と爪の弾きあう音、それが拮抗した戦いである事がわかる。
それはつまり戦えるということであった。
昨日鑑定した時、聞いたことのない種族となっていたために、驚愕ではあったが凶悪さはともかく戦えるならどうにかなるかも知れない。
そう感じたマスターであった。
問題はこれと同じような魔物があと3体存在し、カダベルという恐らく主犯がまだ残っているという事だ。
「1段階あげるぜ。1体に時間をかけていたら犠牲者は増えるだけだからな。」
既に数十人が犠牲となっている。マスターの動きが先程までよりも早く、肉体が強く、攻撃が重くなる。
刹那、魔物の腕が宙に舞った。
宿屋愛の巣の傍、逃げていた数人の住人達と共にエリーとその家族はいた。
魔物は建物の中にいても容赦なく破壊し、その先に人がいれば喰らう。
両足を掴まれ、身体を途中まで引き裂かれ、その股から喰らい付く様子を目の当たりにしてしまったエリーはお漏らしをしガタガタと震えていた。
エリーの身体を抱き寄せ少しでも不安を和らげようとする父母の姿。
エリーの前で身体を割かれて捕食されたのは、逃げるために盾となった冒険者の女性。
直接の関りは少なかったが、愛の巣に宿泊していた冒険者だった。
魔物がコツコツとゆっくりエリー達に近付く。
エリーの家族以外は散って逃げていった。
決して冷たいというわけではない。自分の命が大事なのは当然である。
誰も責めない、エリー達の家族だって責めることはないだろう。
次の犠牲者が自分達だ、そう悟っただけ。
「俺が囮になるからお前はエリーを連れて逃げろ。」
父はそう言い包丁を右手に、鍋蓋を左手に持ち立ち上がった。
エリーはエプロン姿の父の姿を涙ながらに見ていた。
「馬鹿かいあんた。誰一人欠けてもダメなんだよ。」
精神力向上系の魔法を3人にかけ、身体能力向上の魔法で強化する。
残念ながらアンデットに有効な魔法はないが、それでも何もしないよりはマシである。
エリーの両親は愛の巣を経営する前までは冒険者パーティを組んでいた。
当時のランクはB。
エリーの母の胸のサイズもB。父のあそこのサイズもビッ……
「商売道具である包丁を武器にするのは、料理の神様に叱責されそうだけどな。」
しかし過去にBランク冒険者であろうとも、現在は料理人と宿屋の女将。
魔法で色々上げても装備はエプロン。
正直気休めでしかない。
それでも娘、エリーのためならば盾でも剣でもなってやる。
父母の想いと決意である。
件の魔物が数メートル先に目視出来る。
可哀想ではあるが、あの冒険者を喰い終わったのだろう。
「さて、地獄への片道切符は熨斗つけてヤツにくれてやらないとな。」
かっこつけている父の足は震えている。
怖くないわけがない。人を捕食する魔物を目の前にして怖くないわけがない。
娘を守るという一念において、こうして立ち向かおうと出来ている。
互いに斬りあえる距離にまで魔物がゆったりと接近すると、魔物は手を振りかざし……
しかしその腕が振り下ろされる事はなかった。
ドゴォォォッという音と共に魔物の姿が見えなくなっていたからだ。
「ほあ、たぁっ、ですぅ。」
それが間延びする声と共に魔物への一撃を加えられ、そのまま弾き飛ばされた瓦礫の下敷きとなった音だったと気付くには少々時間を要した。
その声のする場所へ視線を向けると、ねこみみを頭に生やしたメイド服を直用した女の子達が立っていた。
「流派、ねこみみメイド拳は、メイドの風よ、全身萌え萌え、天破侠乱、見よ、当方は朱く萌えているぅぅぅ」
この世は常に萌えと癒しを求めている、全国のご主人様達に萌え萌えきゅんきゅんしてもらうために萌えを追及した結果、自身が萌えを体現する事なのだ。という意味である。
民明書房「流派ねこみみメイド拳の始祖は武蔵野市。」より抜粋。
「アニスミアねこみみメイド隊、
センターに店長兼オーナーであるカレンの姿があり、決めポーズでカレンは口上を述べた。
左右のメイドさんは指を波のようにさわさわ動かしながら店長を讃えていた。
常連にはわかるがあれはお店のNo1とNo2のメイドさんである。
何はともあれ、エリー達一家は窮地を救われた事に変わりはない。
愛の巣の壁は吹き飛んだ魔物によりボロボロに破壊されてしまったが。
「あ、宿屋壊しちゃました。ごめんなさいにゃ。」
――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
マスターとマリー婚約しました。
子供の名前以前にマスターの名前……
マリー・エリーの両親の名前も……
そして次回、ねこみみメイド喫茶アニスミアの戦うメイドさん達。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます