第17話 1日目の攻防、2日目への布石。

 街へと押し寄せる魔物の大群。

 ゴブリンやオーク、ウルフのような見慣れた魔物であっても、大量すぎて何が押し寄せてきているのかわからない。

 一言で表すならば波である。

 魔物の津波が町を押し流そうとしていた。

 

 「撃てーーーーーーーー」

 ギルドマスターの合図で城壁に構える魔法使い達は一斉に魔物達へと向かって放たれていく。


 波のいたるところに魔法が撃たれ、直撃を受けた魔物や周辺の魔物達は躯へと変えられていく。

 魔力向上アイテムとマナポーションにより威力と回数を増やす算段である。


 門や壁に隣接されると魔法を撃つわけにもいかないので弓矢の出番であるが、そこまで近づかせるわけにはいかない。

 押し寄せる波は魔法のおかげで一定のラインから街側へは押し寄せる事もなく留まっている。

 魔力切れを起こした場所から綻びが出るのは分かっている。

 みな必死なのだ。


 「も、もうだめ……」

 一人、また一人と魔力切れを起こし立つことすら困難となる。

 実に10時間近く魔法を放っているのだからよく頑張ったほうだ。


 一方魔物側も地面が見えなくなるような程の量はいなくなったがまだまだ尽きてはいない。

 倒れた魔法使い達は小一時間の休憩の後アイテムを駆使して再び立ち上がる。


 魔法を使えない者は、魔法使いにアイテムを渡す係となっている。

 こうしてどうにか1日目をやり過ごす事には成功した。


 魔物の焼け焦げた肉と腐臭が街をも覆いつくす。


 二日目、つまり昨日の攻防戦も然程変わらない。

 魔法を潜り抜けられた数体の魔物は矢によって貫かれるという回数が増えただけ。

 それはつまり魔法使い達の戦力が落ちてきたという事に他ならない。


 「こんな時にあのあたまのおかしい二人が居ればな。」

 どこからともなくそんな言葉が聞こえ始める。


 「伝説の勇者様とかがいればな……」

 段々と街の住人達の不安と疲労も溜まってくる。

 

 二日目の夜、戦況を変える事件が起こる。

 魔物達の死体の上に1体の何かが立っている。


 何か唱えたかと思うと、闇に紛れて黒い光が死体達を包み込み……


 光が消えると4体の禍々しい鬼のような魔物が出現する。


 鑑定レベルの高いギルドマスターが鑑定すると、【死せる魔物達の英雄(アンデット)】とだけが見えた。

 聞いたこともないその名前にマスターは驚愕していた。


 4体の魔物が顔を上げると、後方にいた魔物達が一斉に吸い込まれていく。

 

 するとあれだけ大量にいた魔物達の姿はなくなり、この4体と死体の上にたっていた1体の5体のみとなっていた。


 「さて、復讐の舞台は整った。街を蹂躙しろ。」

 4体の魔物に命令をくだしたその声は綺麗な少年か少女か判別つかない程若々しかったが憎々しさも同居していた。


 

 「と、思ったけど攻撃をしかけるのは明日の昼12時とする。それまで最後の夜を過ごすが良い。」


 そう宣言すると4体の魔物はその場に佇み、街を凝視している。


 まるで街を出ようとするなら遠慮なく攻撃するよ、おまえらは家で縮こまって最期の夜を過ごしてれば良いんだよと言われているかのようである。


 


 「マスター、あれはもしかしたら。」

 受付嬢がマスターに向かって問いかける。

 真希達をいつも相手にしている受付嬢のマリーである。エリーの姉である。 

 マリーはエリーの英才教育腐った教育をした張本人である。

 赤ちゃんの頃から童話や絵本の読み聞かせのように毎日毎日コツコツと。


 そのマリーの問いかけにマスターは神妙な趣で答えた。


 「あぁ、あいつはカダベルだろうな。永遠の若さを得るために魔物や人間を解体しまくって追放され、そして処刑されたはずの男の名前だな。」

 「でもそれって、20年は前の話だな。どうみても新人冒険者くらいの年齢になってやがるが。」


 かつて永遠の17歳に憧れた少年冒険者がいた。

 解体と結合というスキルを持っていた少年。

 冒険者として活動し実力が上がるにつれ、同時に年齢も上がっていった。

 ギルドでAランクとして一目置かれる実力を得る頃には30歳を超えていた。

 それからは肉体の衰えに怯えていく毎日。

 

 というのも元々美少年だったため、若い時は言い寄ってくる女性が後を立たなかった。

 100人以上の女性との関係を築いたとも噂されている。

 しかし35歳になったころ、自分の半分程度の少女と関係を持とうとした時、勃たなかった。

 そしてその少女に散々馬鹿にされた。


 そこから彼の人生が狂い始める。

 彼に喰われた、寝取られた男性たちからの報復である。

 寝取られたとはいうが、誘ってくるのはいつも女側。

 彼から誘った事は皆無だった。


 当然理不尽は否めないが、取られた方の男性達はたまったものではない。


 そんな仕打ちに耐えられない、えっちな事が出来ない事に耐えられない、だったら若い肉体を永遠に維持すればいいという結論に達した。

 それからというもの様々な研究や実験と言う名の解体と結合、融合、分離を繰り返し、対象が人間となったところで国から、国民であることの追放処分、大量殺人の罪で処刑されることになる。」

 この時彼は50歳だったという。


 皺の増加と肉と思考の衰えを感じていた彼は、そのまま処刑を受け入れ来世にワンチャン賭けると言い残し磔刑からの火刑で処された。


 はずだったのだが。


 17歳くらいの姿で彼は戻ってきた。

 鑑定をしたマスターが確認したのだから間違いない。

 彼の名は「カダベル」、年齢は死した時と同じ50歳。

 ただし詳細鑑定にて表記された肉体年齢は17歳。

 彼の職業は「スペルマ スター」となっていた。


 これはマリーには言うわけにはいかない。

 多分セクハラですと言って分厚い本で殴られる。


 彼の言う明日の昼12時までに冒険者達、特に魔法使いには休んでもらいアイテム調合出来る者たちは交代制で回復薬の作成と休憩を取る事にする。


 「これを乗り切ったら魔法使い達とアイテム調合士達にはボーナス出さないといけないな。


 領主の騎士団達が遠征で半数以上いないのも苦しい要因だ。

 若年の騎士達では領主邸周辺の守りを固める事くらいしか出来ない。


 街の防衛には殆ど参加出来ていない。


 冒険者と騎士の不協和音は今に始まった事ではないのだが。

 下手に互いに介入していないのが偶然にもこの1日は良い結果となってるのは皮肉である。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 「そういえば、部屋に置いてきた魔物避け。半径2kmくらいだっけ。」

 護衛依頼に向かう前、愛の巣の部屋にいくつかの魔物避けを置いて行っていた。

 Bランク以下の魔物を半径2km以内には寄せ付けないというものである。


 街の周辺を囲まれているにも関わらず、進行速度が遅くなり魔法使い達の攻撃でどうにかなったのも、この魔物避けの効果もあった。

 もちろん例外はある。

 Aランク以上の魔物には然程効果がない。

 また、魔物避けの効果を受けながらも強引に近付けるBランク以下の魔物が存在しないわけではない。


 「持ってきたよー。」


 

 真希達がおもちゃ屋に着いた頃、セーノペキューノスではカダベルと4体の魔物が丁度時計の針を5等分したかのような位置で別れ、それぞれ街を覗いていた。


 そして12時、約束の時間になるとカダベルが口を開いた。


 「さぁ、蹂躙と殺戮と復讐の開始時間だ。」

 5人が歩き出す。

 一歩、また一歩と。


 街へ恐怖をばら撒きながら歩を進めていく。

 そして……


 ギィンッ

 5人は見えない何かにぶつかった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 「そういえばSランク魔物が半径1km以内立ち入り禁止なアイテムもベッドの下に置いて(隠して)きてたけど、エリーちゃん間違って捨てたりしてないかな。」


 

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