第8話 回想頼まれたので仕方なく。

 今から約3か月前、街に2人の女性冒険者がやってきた。

 一人は小柄、一人は女性にしては少し背の高い二人組の冒険者。

 守ってあげたい妹タイプと、それを守るような姉タイプと。


 その容姿から男性冒険者が声を掛けるのは必然と言えば必然。

 冒険者をやるくらいだから、貴族ではないし、街で平凡な暮らしをするわけでもない。

 下手をすれば容易に命を失ったり、後悔する傷を負う可能性の高い職だというのに。


 冒険者とは一言で言うけれど、魔物と戦うだけが冒険者ではない。

 誰かのために代わりに何かをする仕事、言ってみれば何でも屋である。


 安全な地域で薬草採取しかしない冒険者も中には存在するくらいだ。

 ただし、冒険者ランクが高くないと入れない地域なども存在するため現実には魔物と戦う事が前提となってくる。


 そんな冒険者のランクがDの二人が訪れた事によってこの街はある意味恐怖に襲われることになる。

 もっとも一部の者に対してだけではあるけれど。


 「おう、姉ちゃん俺達と組まないか?」

 「いやいや、姉ちゃんこっちで酌してくれよ。」

 「じゃぁ、その胸に酒入れて飲ませてくれ……」

 3人目が言い終わる前にその男に向かって飛んでいったナニかが顔に当たり、その男は気絶する。」


 「失礼な事言う奴に天罰だね。」

 「女の価値は胸だけじゃねぇ。」


 最初の言葉がその一言だった。


 「一生懸命ない胸に挟むのが可愛いのにね。」

 「私らにはそもそもツイてないけどな。」 

 そして問題発言をかました。


 普通女性から下ネタが飛べば引くものだけれども、ここの男性陣はさほど気にしていなかった。


 そもそも冒険者をやっている以上いつ命を失うかわからないのだから、その場限りでもと思う男女は少なくない。

 

 二人が受付で暫くの本拠地登録を済ませると、ギルドにある依頼表を一瞥していた。

 二人の後ろ姿を見て、欲情したのか数人の男性冒険者が声を掛ける。


 「ねぇねぇ、何のクエスト探してるの?もし良かったら俺達と洞窟前に居ついたというリザードマン討伐に参加しない?」

 「いやいや、それよりも俺達と一緒にダンジョン潜ろうよ、危険も少ないところだし浅い階層までしか行かないからさ。」


 いや、魔物よりあんたらの方が危険じゃないの?と思ったが、実際の所はここにいる冒険者で太刀打ち出来るような者はいそうになかった。


 「断る。」

 夏希が一刀両断すると、それでもしつこく勧誘をしてくる。

 過度な勧誘はご法度だし、冒険者同士の揉め事は基本的にはギルドは不介入だ。

 命のやり取りに発展しそうな場合はその限りではないのだが。


 「なぁ、冷たい事言わないでさぁ……」


 本人は肩を掴もうと思って手を伸ばしたのだろう。

 しかしタイミング良くか悪くか、真希が身体の向きを変えた事によって、男の手は真希の胸を鷲掴みする結果になった。


 「な……」

 しかし真希の表情は変わらない、赤らめもしない。

 ただし、その横にいる夏希は違った。

 触れられた本人ですら動じていないのに、憤怒で顔を赤らめていた。


 「てめぇ、死ぬ覚悟は出来てるよな。」

 ぼぐぅうぅぅっと夏希の膝が男の股間にクリーンヒット。

 しかしそれだけでは済まなかった。

 肩を掴み、腰の引けた男に対して追い打ちの膝を何度も何度も叩きこんでいった。

 男が泣いても、叫んでも、周りがもうやめろと言っても。


 男達は知らなかった。

 二人の関係を。

 そして異性に抱く感情も。


 知らぬとはいえ触れてはいけないところに触れられ、夏希は止まらなかった。


 「夏希、待って。もういい。その人?再起不能になっちゃう。」


 「ん?はっ?」

 真希の一声で正気に戻り、膝蹴りが止まった。


 男はそのまま倒れ込み口からは泡を吹いて気絶していた。


 ギルド職員が走ってきたので真希は魔法を使った。


 「ほら、回復したげるから。その変わり砕けて摺り潰れた玉の回復料と、胸に触った慰謝料で金貨500枚、3ヶ月以内に払ってね。コレ、誓約書。」


 勢いに負けて隣の男が倒れた男の指を持ち、代わりに血判を押した。


 本日より90日以内に金貨500枚支払う旨と、支払い出来ない場合は奴隷商に売るという内容のものだった。

 誰も気にしていなかったが、これは誓約魔法であるのだがこれがまた恐怖を煽るには充分なものとなった。


 この後二人と騒ぎを起こした男達はギルドマスターの部屋でこってり説教を受けたのだが……


 この様子を見ていた者たちはあいつらには関わるな、関わったら玉とお金がいくつあってもたりねぇという噂が出回った。

 今回の護衛任務を請け負った紅蓮の3人の男も、この騒ぎの時にギルドの隅っこでこの様子を見ていた。


 街について数時間も立たない間に貧乳乙女隊の名前は街中に広まっていった。



 「私は胸を触られた被害者なんだけど。」

 「私は汚いもんが膝についた被害者なんだけど。」


 この時ギルドマスターはまだ、厄介な奴らだなという認識でしかなかった。


  

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