溶け合うまで

王水

ヤノスミ

一睡もせずに迎える白んだ空。

汚ねえ仕事で稼いだ汚ねえ金。

薄汚い路地裏の鼻につく臭い。


何もかもが癇に障る、クソみてえな日だ。


俺がこうなる羽目になったのも全てあの愚弟のせいだった。何故俺が奴の尻拭いなんざしなきゃならねえのか。そんな小言を誰に聞かせるでも無く、何度も床に吐き捨てる。


広場のベンチへぞんざいに腰を下ろし、ポケットの中でライターと葉巻を探す。血なまぐさい仕事をした後は風呂に入って一服するのが常だった。手や衣服にこびり付く血の臭いは、葉巻の匂いでかき消すに限る。昔から鼻がききすぎるせいで、どうにもあの臭いは受け付けず、香水も試してはみたが妙に臭いが混じって駄目だった。


「目には目を、クセェものにはクセェものを、だな。」


「相変わらず、意味がわからねえ独り言だなあ。」


重い瞼を無理やり押し上げながら声のした方を睨むと、完八……もとい愚弟がいた。

薄ら寒い笑みを浮かべてこちらを見ている。


「あ"……?てめぇ、誰のためにあんな面倒くせぇシゴトしてやったと思ってんだ……?」


「まあそう青筋立てるんじゃねえよ、欲しがってたもん持ってきてやったんだろうが。」


その一言を聞いて言葉に詰まる。次の瞬間、目の前の白いテーブルへ雑に放られたのは、ある男の情報と写真だった。


「お熱なんだってな?」


薄く目を開きながら、普段より口角を上げつつ問う愚弟。


「………………何故お前が。」


「ああ、お前の部下は責めてやるなよ。妙な動きをしてたんでな、俺がガサ入れしたんだ。…まさかこんなくだらねえ事をしてやがったとは思わなかったがなあ。」


「チッ……さっさと失せろ。」


「届けてやったのに礼のひとつも言えねぇのか……お前がそんなことだから俺が若頭になっちまったんだろうが。」


「おい。俺はタラタラ喋んのは好きじゃねえ。そんなに話してえならテメェのイカのとこに行け。随分鳴かせてくれるらしいじゃねえか。」


「……!」


俺が放った最後の一言で愚弟は手まで茹で上がった。いたたまれなくなったのか、そのまま黙って踵を返し立ち去っていった。

情けない愚弟の背中を見送ってから、粗雑に纏められたファイルに手を伸ばす。


この情報を集めるよう言いつけたのはつい一週間前、あの男に会った後だった。


仕事後、如何せん暴れたりなかったもので、俺はナワバリへと出かけた。シマを実力で奪い取るあの合理性が昔から気に入っていて、よく仕事以外でも足を運んでいた。

その日は妙に調子が良くて、何匹もトッたのを覚えている。

一方的な試合で相手は随分参った様子だった。試合が終盤に差し掛かると、諦めかけている奴までいて、つまらなさに舌打ちをしつつ塗りすすめる。

そこでふと、相手チームにローラーが居ることに気づいた。そのローラーと一度も遭遇していない事に違和感を覚えつつマップでローラーの痕を探すと、いつの間にか自陣に進もうとしているローラーが一匹。


「……見つけた。」


迷わずローラーが居る方へ向かい、タマをトろうとインクから飛び出した時だった。


「ッッッ!!!?う、お"おぉぉぉ!俺は塗り専なんだよぉぉぉぉ!!」


その目には諦めも恐怖もなく、映るのは驚きと楽しさだった。光を燦然と反射するビー玉のような目に、柄にもなく見蕩れてしまう。

大きく振りかぶられたローラーにハッとして、やっと引いた引き金はしかし、振り下ろされると同時であり、共倒れとなった。


「……。」


呆気に取られ、スタート位置に引き戻された俺は数秒間棒立ちしていた。呼吸を落ち着けようと深呼吸をするも、胸の高まりはおさまらなかった。


「…おもしれぇ男……。」


それからは早かった。部下を呼びつけ、情報を集めるように言い、俺は奴に半ば強制的なフレンド申請を送った。きっと奴から見ればキルをとられたヤクザが腹を立てて復讐する為に申請してきたように見えたのだろう。かといって断ればまた更に逆上されるかもしれないと、申請を断ることもできなかった…といったところか。

しかし、それが俺にとっては幸いだった。

俺が一目惚れをしてフレンド申請など、柄でもねえ。

ヤクザがキレ散らかしているのだと思われた方が幾分か楽だった。

その後は、よくその男に合流して執拗に狙い続けた。

はじめは気付いていなかったようだが、5,6回トッた辺りから俺だと認識し始めたようだった。

それでも、奴の目から光が消えることは無く、底無しの明るさを孕んだその瞳を見て、俺の鼓動と興奮は高まるばかりだった。


そうして今手に入れた、その男の資料。

逸る気持ちを抑えながらファイルをゆっくりと開く。中には男の写真が数枚と、情報を纏めた資料が8枚。

写真を一枚ずつゆっくりと眺めた後、資料を読み進めていく。

イカ(♂)…アホか、見れば分かる。

身長175cm。体重60kg。意外と引き締まってはいたな、そう言えば。

歳は20。……俺と一回り違うじゃねえかと、軽く戦慄。

好きな物は靴。これは知っている。いつも靴屋のショーケースを飽きないのかというほど眺めていた。アイツが酷く欲しがっていた靴は、金が無いようで買えずにいたらしく、気が付けば俺が買っていた。その後、また眺めに来た男は靴が売り切れたことに落胆したのか、涙を流していたのを覚えている。

……それより、一番肝心な情報はどこだ。奴の名前は。

未婚、恋人なし、二人兄弟の次男、兄の名前は…。何故当人の名前より兄の名前の方が先に出てくるのかと苛立ちながら8枚目に差し掛かる。一番下の行に目をやると、思い出したように手書きで追加された文字が一つ。


『名前:墨丸』


「……墨丸、っつうのか……。」


「え?」


妙に耳に馴染む、聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、勢いよく振り返る。

そこに居たのは墨丸だった。


「あ、いや、い、今、俺の名前……。」


身体中の血の気が引くのを感じた。

直ぐにファイルを閉じ、墨丸の口を抑える。近くの路地裏まで強引に引きずり、ドスを首に添えた。

ここまでは脊髄反射だった。

恐らく墨丸にとってはかなりの恐怖体験だろう。俺はこの状況をなんとか誤魔化そうと言葉をひねり出す。


「……俺のシマに入ったからにはミカジメを払って貰おうか……。」


自分でも自分が何を言っているのかよく分からねえが、口を抑えられて呻く墨丸に加虐心を煽られる。


「う"ッ……!ぅ"……」


墨丸は口を塞がれたまま、懐から財布を取り出した。素直な男だ、特に金に困ってはいないが、もう引っ込みがつかねえ。ここで財布だけ取って逃がせばこいつとの縁は切れるだろう。俺は財布を受け取り、中を見る。

3万か。


「……すくねえな。せめて5万は寄越すのが筋だろうが。」


胸ぐらを掴み、壁に墨丸の頭を押し付ける。

塞がれていた口が解放され、墨丸は苦しそうに言葉を絞り出す。


「ハァッ……、う、ご、5万なんて、持ってねえよッ……!勘弁してくれ……!」


ここで冗談だと切り出せばまだマシだったのだろうが、俺にそんな余裕と器用さは無かった。


「…………払えねえってのか……なら、仕方ねえな…………体で払ってもらおうか。」


よく走る口だ。


「……えっ……。」


固まる墨丸をよそにアシを呼び、墨丸を車に詰める。


「ちょっ、ちょっと待てよッ!か、体で払うってどういう意味だよ!?」


「チッ……声がでけえ。そのままの意味だ、騒ぐな。」


自宅へ移動中の車内で、墨丸は縛られ唸っている。俺はと言うと、自分の愚かさに頭を抱えていた。


攫っちまった。

ここまで来たらもう、抱くしかねえ。

俺でなければ満足出来ない身体にするしかねえ。丁か半かの博打は得意ではねえが実力行使は十八番だ。こいつが俺に靡くまで抱いてやる。


そんな事を考えていると、家の前で車が止まった。


気が付けば、横で無駄足掻きをしていた墨丸はぐったりとしていた。


「おい。やけに大人しくなったな。腹を括ったか。……だとしたらいいタイミングだ、着いたぞ。」


「ん"ッ……。」


俺に抱えられて車からつれ出された墨丸は、小さく呻き声をもらしながら、しかし暴れることはなかった。

……まさかこいつ、本当に覚悟を決めたのか。俺にこれから好きにされると分かっていながらこうやって観念しているのか。

背筋に心地よい背徳感と興奮が走る。それが、ぞくりと下腹部にも伝わっていく。

寝室のドアを蹴破り、墨丸を勢いよくベッドへ放り投げる。


「ン"ッ……!ぐ……。」


苦しそうに眉間をよせて、少し体を震わせる様子さえ、俺の情欲を煽った。

墨丸の口に噛ませた猿轡を無言で取ってやると、墨丸は深く呼吸をおき、訥々と話し出した。


「お……俺、そんなに酷いことを、お前にしたか……?と、とにかく、そう……なら、謝る、許してくれとは言わないから、だから……頼む……。」


そこで墨丸は一瞬、口を結んだ。次に出た言葉は衝撃的なものだった。


「優しく、してくれ……。」


「………………は……?」


張り詰めていて堪えていた何かが、ぶつりと切れた。こいつ、もう我慢ならねえ。

矢庭に墨丸の服に手をかけ、胸部の布をドスで切り裂く。


「お、おい"ッ!優しくしてくれって言っただろ!」


「うるせえ。こんな状況で何つー台詞を吐きやがる、このド淫乱が。」


「えっ……い、淫乱って、何のことだ、よッぉ"あ!?」


台詞を言い終わる前に、嬌声を漏らす墨丸。

裂かれた服の間から垣間見える桜色の小さな突起に舌を押し当てられ、悶絶している。

俺は口の中で弄んでいたものを強く吸って、一旦口を離した。


「ぁッ……///ハァッ……///な、何してっ……///」


顔を火照らせた墨丸が、突然の刺激に驚愕しながら、こちらを見詰めている。照明の少ない部屋にも関わらず、墨丸の潤んだ瞳はいつもより沢山の光を宿して静かに揺れていた。


「おら、脚、開け。」


墨丸の閉じていた脚を無理やりこじ開け、前のファスナーを下ろす。


「ま、まっ、待て待て、ち、ちょっと待ってくれッ!///」


「あ"?何だ。なんか文句でもあんのか。」


「い、いや、文句っていうかッ、体で払うって、こういうことなのか!?」


「……じゃなけりゃ、どういうことだと思ったんだ。」


「えっ、だって、俺ッ男だしッ……!ぞ、臓器売買とか、タダ働きとかそういうことかとッ……!」


「……。」


あの定番化した誘い台詞に他意が無かったことを知り、少し冷静になった。しかし下腹部の昂りはおさまらず、いつ襲われてもおかしくないこの無知な童貞を見逃してやる気にもなれなかった。


「安心しろ。花屋…男娼にしようってんじゃねえ。お前が奉仕するのは俺だけでいい。」


ファスナーを下ろされ、下着越しにうっすらと形がわかる墨丸の股間に、スラックスの下でかたくなった自身を擦り付ける。


「ひっ……、な、何でそんなに、かたくッ……!?」


擦られた刺激と唐突に向けられた性慾にびくりと腰を跳ねさせた。


「そろそろ黙って観念しろ。悪いようにはしねえよ。」


「ぅ"ッ……そう、言う問題じゃ、ねえだろッ……!///」


ぐりぐりと押し付けられて小さく喘ぐ様を見て、更に窮屈になる。


「じゃあ、どういう問題だ……。」


墨丸を抱くことしか考えられずに、殆ど話なんざ聞いちゃいなかったが、一応処女を貰い受けるわけだ、お前の関所の掟くらい聞いておいてやろう。聞いたところでやめはしないが。

俺は動きを止めて、サングラス越しに墨丸と目を合わせた。墨丸はその目を逸らすことなく、真っ直ぐ射抜くような目をして口を開く。


「こ、こういうのは、好きになった相手とやるもんだろうがッ……///こんなの、絶対おかしいだろっ……///」


……お前のそのいじらしさが、俺を狂わせたんだろうが。

好きになった相手とならやってもいいのだとすれば、俺はその条件を満たしている。あとはお前だろ。お前が…。


「……なら、精々今から俺を好きになる事だな。」


身勝手に攫って、身勝手に迫って、身勝手な言葉を吐くことしかできねえ。筋なんざ一つも通ってねえ。

だが、それも仕様がないことだろう。

俺はタコで、コイツはイカ。俺は男でコイツも男。歳は一回りも違えば、堅気と筋者、住む世界さえ違う。

こんな二人が筋の通った恋愛なんざ出来るわけがねえだろ。靡かせられる道理なんざ存在するはずもねえ。

それなら力ずくで通すまで。筋も意地もこの関所も。


墨丸が俺の言葉にまた何か言おうとしていたが、俺は構わず墨丸の下着のなかに手を滑り込ませた。


「ぅあ"ッ♡」


墨丸の甘い声に頭が痺れる。そのままグチュグチュといやらしい水音を立てながら、墨丸のそれを扱いた。意外にも下着の中で湿り、かたくなっていたことにまた興奮してしまう。


「……おい。立派な貞操観念をお持ちのわりに、随分と期待していたようだが……?」


「ぁ"ッあ"ッ…♡あ"ーッ♡ぅ"うッ♡そ、それ、は、さっき、擦られたからッ……♡せ、生理現しょ……ッ♡ぉ"ッあ♡///」


「……ほお。」


扱いていたものを下着からとりだし、無遠慮に眺める。


「ぁ"ッう"///や、やめッ……///そんな、見るなってッ……!///あ"♡」


恥ずかしそうに手で顔を隠すが、外気に晒され、熟視されたそれは、更に反り勃ち、かたくなった。


「身体は悦んでるじゃねえか…。」


「ち、違ッ……///ぅ"ッ♡///ぁ"……♡ハァッ……♡」


根元から先端まで扱きあげられ、身体を捩る。小さく震える唇に舌をねじいれたくなる。しかし、強姦している罪悪感からか、行動に移すのは躊躇われた。

行き場の無くなった舌を、何処にやろうかと探していると、丁度ひくひくと物欲しそうにしている下の口が目に入った。


「……少し、力抜いてろ。」


「…えっ…?」


つぷ、ぬるるッ♡


「え、ぁ"ッ……♡うわぁあ"ッ!?///」


「チッ……もっと色気のある喘ぎ方は出来ねえのか。」


「い"ッ……♡や"ッだぁッ♡///な、中にッ……!舌が、入ッ……!?////」


驚く墨丸へ追い打ちをかけるように、中でにゅるにゅると舌を動かす。


「ん"ッ……ッ……♡ッ♡うぁ"……♡///」


こいつ。腰が動いている。加えてこの蕩けそうな顔。本当に童貞なのか。だとすればとんだ無自覚ド淫乱だな。

じっくりと舐め続けていると、墨丸の腰がガクガクと震え出した。そろそろかと、ゆっくり舌を引き抜く。


「墨丸……。」


耳元で名前を呼びながら、今まで舐めていた部分に、ぬるりと自分のものを擦り付けた。


「ん"ッ、ぁ"……♡///」


墨丸の唇が、また震えている。これから何をされるのか無経験なりに察したのだろう。再び目を潤ませ、その瞳の中でキラキラと光を踊らせている。その表情が期待しているようにも見えて、また下腹部から熱さが込み上げてくる。もちろん、そんなはずが無いということは分かっている。分かっているが、目が離せない。吸い込まれそうになりながら見蕩れていると、いきなり墨丸がぎゅっと瞼を閉じた。目尻から、涙が一筋流れ落ちる。


「な、名前……ッ///お前の、名前ッ……、教えてくれよッ……///」


「ッ……名前、だと?」


確かに教えて居なかったが、何故今聞くのか、その意図が分からず問い返す。墨丸は、弱々しい、だが強い意志を感じる声で、言葉を続けた。


「が、がんばる、からッ……///お前を、好きになるようにッ……がんばる、から……ッ♡///まず、名前、教えろよッ……♡///」


「ッ……!!///」


脳から脊髄へ、脊髄から末端へと全神経に、強い電流が走ったような感覚がした。


「あ"ッ……!?♡///ぁ"ッ……♡は、入っ……ッッ〜!♡♡♡///」


気付けば俺は、入口にあてがっていたモノを墨丸の中へと挿し入れていた。ずぷずぷと呑み込まれていく心地よい感覚に、腰が砕けそうになる。


「やの、つぎ……だッ……♡漢字で、ッ……♡数字の九、と書く……♡」


「や、やのつ、ぎッぁ"ッ♡あ"♡ぅ"う♡♡♡奥まで入ってッ♡♡くるぅ"っ♡♡///」


コツンッ♡


と奥に先端が当たった瞬間、中がうねりながら締まった。


「ハァッ♡ぅ"ッ♡ぁ、あ"ッッ〜♡♡♡♡イ、イクッ♡イクッ♡♡イッ……グぅぅッッッ♡♡♡♡////」


「ッッッ……!♡♡♡///ふ……ッ♡♡ン"ッ……♡♡///ぐッ……♡」


腰を捩らせ、中を締め付けてくる墨丸からの刺激はかなりの快感で、腰が勝手に動いてしまう。このままのペースでは俺も直ぐに達してしまいそうだというのに、もうそんな事はどうでもいいほど、今は何も考えられなくなっていた。理性などとうの昔に飛んでいる。そんな中ふと、墨丸の唇が目に入った。また、震えている。奪いたくなってしまう。しかし、ここで俺が無理矢理奪って仕舞えば、コイツの全てを俺が無理矢理汚したことになる。それは、コイツがもし俺ではなく別の奴を本気で好きになった時のことを考えると、容易くは出来なかった。……そのはずだった。


「…………ぁ"ッ♡♡ハァッ♡ぅ"ッ……♡やの、つぎ……ッ♡///いい、ぞ……キス……したいんだろ……ッ?///」


ーこの、ド淫乱が。


流石に、もう我慢ならねえ。狂わせたのはお前だ。誘ったのはお前だ。赦したのもお前だ。全てお前の自業自得だ。


俺なんかに好かれた自分の運命を恨め。


俺は墨丸の小さな口を舌でこじ開け、口内を激しく犯した。片手で頭をおさえ、逃げられないように。腰も止まらないどころか、動きが早くなってしまう。イッたばかりでビクビクと跳ねている墨丸のソレも容赦なく扱く。


「ん"ッ♡♡ハァッ♡♡う"、うう"ッ♡♡♡ン"ーッ♡♡ン"ッッッ♡♡♡♡」


墨丸は目を蕩けさせ舌を動かしながら呻いている。きっとまたイキそうなのだろう。中がまた、締まってきた。


「…………ッッ♡♡///ぁ"ッー……♡♡ハァッ……♡♡ぐッ……♡クソッ、♡♡も、出すぞッ……♡♡♡墨丸ッ♡♡♡///イッ……く……♡♡♡♡」


「ッッン"ッ♡♡ハァッ♡やのつぎッ♡♡あぁ"ッ♡♡ぅ"ッ♡な、中ッ…熱ッぅ"♡♡ぉ"、俺も、イクッイクッ♡♡♡ぁ"♡♡イックぅぅう"ッ♡♡♡」


墨丸が反り返りながら達するのを見て、また少し中に出る。えも言われぬ快感と幸福感に満たされながら、墨丸と見詰め合う。共に肩で息をしながら熱く火照った肌を触れ合わせる。

墨丸が、呼吸を落ち着かせながら俺の頬に手を伸ばした。


「ハ……♡ん"……♡お前、俺と一緒で、和名なんだな……何か、お揃いみたいで照れる、な……///はは……。」


お揃い、共通点…俺が何度考えて探しても、見つけられなかったコイツとの繋がり。それをあっさりと見つけやがって。


「……ッお前は……何回俺をッ……///」


惚れさせれば気が済むんだ。


その一言が言えず、俺は黙って墨丸を抱き締めることしか出来なかった。



朝起きたら、ヤクザのタコが隣に寝ていた。


隣、というか、懐なのか。何故か俺にピッタリとくっついて寝ている。毛布を顔まで掛かるように被り、少し丸まっているようにも見える。


「寒がり、なのか……?」


最近寒くなってきたからかも知れない。こいつ、そう言えばいつもマフラーしてるしな。


「ん……?」


何か尻の方に違和感を覚えて手を添えてみると、白い液体がどろりと手に付いた。


「……ッッッ!!!////」


思い出した、そうだった、俺はコイツに…九に攫われて、抱かれたんだった。


突然の事だった、いきなり広場で名前を呼ばれたかと思えば恐喝され、誘拐された挙句にこんな……いかがわしい目にあうなんて。

ふと、まだ懐でぐっすり眠っている九に視線を落とす。長い睫毛と端正な顔立ちについ見惚れてしまう。昨日あんなに自分勝手なことを言っていた横暴なタコとは思えない…………。


いや、気付いてはいた。


コイツは横暴なんかじゃない。不器用なだけだ。


俺に触れる時に少し躊躇うところも、宝物のように大切そうに触れるところも、どこまでも優しい声音で囁くところも……全てがそれを物語っている。


「なあ……お前、俺の事、好き、なんだろ……?」


まだ起きていない九に、消えそうな声で問いかける。聞こえていたらどうしよう。まさかそんな事があるはずは無いが、鼓動が早まる。こんな気持ちは初めてでどうしていいかわからない。


『なら、精々今から俺を好きになる事だな。』


勝手なこと言いやがって。そんな顔でそんなこと言って、気付かないとでも思ったのか。もしかしてお前、ずっと俺の事が好きだったんじゃ無いのか。ナワバリでしつこく追い回してきたのも、好きだったからじゃ無いのかよ。昨日だって、キスを躊躇ってたのは、俺の何に気をつかってたんだよ。そんなに俺の事ばっかり考えてくれるくせに。俺のことそんなに好きなくせに。


なのに、なんでそれを、一言も言ってくれないんだよ。


「……ん?」


少し九から視線を逸らした物陰に、見覚えのある包装紙に包まれた箱が見えた。


「あれ……靴屋の包装紙じゃないか……?」


九を起こさないようにそっとベッドから抜け出し、箱を手に取る。


「へー、九も靴、好きなのかな……。」


また共通点を見つけたかもしれないと、にやにやしていると、箱に付いていたのであろうメッセージカードがひらりと落ちた。

拾い上げて、悪いとは思いつつも、気になりメッセージを読む。


『好きだ』


そこには宛先も差出人の名前も書いていなかったが、一瞬で九から俺への言葉だと分かった。

ドクドクと心臓が高鳴り、唇が震える。

我慢出来ずその箱を開けてみると、随分前に買えずに売り切れてしまった靴が入っていた。


顔が熱くなるのが分かる。


今自分は凄く緩んだ顔をしているのだろう。


「……あの靴買ったの、ッお前、だったのかよ……九……///」


いつから俺の事見てたんだよ。

いつからこんなもん準備してたんだよ。

いつからこんな気持ち言えずに抑え込んでたんだよ。

可愛くて、不器用なやつ……。


「……おい……。」


「ひえッ!?」


後ろからドスの効いた声が聞こえ、肩が跳ねる。

きっと自分は嬉しさで緩んだ顔を隠しきれていないが、勢いで振り返ってしまった。


しかし、そこにいたのはいつものあの澄ました怖いヤクザではなかった。


顔を片手で抑え、指と指の間からはしっかりとこちらを見ている。そして何より……


「……顔、赤い、ぞ…………///」


「チッ……お前もだろうが……///」


「なあ……これ、口で言ってくれよ……そしたら俺も、言うからさッ……///」


ピラリとメッセージカードに書いてある文字を見せると、九は観念したように深くため息をついた。そして、俺に膝に座るよう促す。

向き合うように膝に跨り、真っ直ぐ九を見詰めて、九からの言葉を待ち望む。

九は伏し目がちに心の整理をしていたようだが、やがてゆっくりと吸い込まれそうな目をこちらに向け、口を開いた。


「……お前が好きだ、墨丸……俺のものになれ……///」


「……くっ、はは///告白まで不器用なのかよッ///……俺はもう、体も心もやのつぎのものだよ……///」


この後に九からされたキスは、昨日のどのキスよりも甘くて、深くて、溶け合ってしまいそうだった。


〜END〜

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溶け合うまで 王水 @pinnsetto87653

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