第3話 浮気の末路

 『ねぇ・・・・・・今夜会えない?』

 『いいよ。じゃあいつものホテル行こうか』

 『やったー。ねぇ、奥さんは大丈夫なの?』

 『あいつ?あいつバカで鈍感だから気が付かないって(笑)この前も残業で遅くなったっていい訳したら信じたくらいだし(笑)』

 『そうなんだ!じゃあ心配ないね!早く会いたいな(ハート)』

 『俺も(ハート)』

 『明日もお休みでしょ?そのままデートしようよ(ハート)』

 『いいよいいよ。好きなところ行こうよ。あーあ、お前と結婚してればよかった(泣)』

 『別れちゃえばいいじゃん(笑)それであたしと結婚しよ?(ハート)』

 『でもさ、あいつの家大金持ちじゃん?それで社長の娘じゃん?肩書だけは強いからさ~別れたくないんだよね~』

 『あたしとそいつ、どっちが大事?』

 『おまえ(ハート)』

 『嬉しい(ハート)』

 『今夜は寝かさないぞ?』

 『いいよ(ハート)朝まで頑張ろ(ハート)』

 


 「ねぇ?今どんな気持ち?」

 猿轡を咥え、唸る事しか出来ない夫の顔を鞭で引っぱたく。

 「どんな気持ちだって聞いてんの。唸るとこじゃねえだろ猿野郎」

 右の頬を、左の頬を連続で鞭で叩いたせいか。彼の顔はパンパンに膨れ上がっていた。

 まるでパンだ。顔がアンパンの幼児向けアニメの主人公のようだった。

 「ねぇ?アンタは今どんな気持ち?」

 夫と同じく、丸裸にされた上に両手両足を固縛された女が恐怖で顔を歪める。

 さっきまで「やめて!彼を離して!」と喚いて煩かったから、ハンマーで目の前の床を思いきり叩いた。

 それきり、もう喚かなくなった。この猿よりは相当賢い。

 「ねぇ?どうだって聞いてんの?」

 「・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・・・・」

 「やめて?どうして?あんた達は浮気をやめなかったでしょ?私が散々警告したのに。不貞行為だと分かって継続してたでしょ」

 鞭を力強く夫に向かって振る。背中に当たった鞭の痛みに彼は悶え、ついに倒れた。

 倒れた彼を無理に起こし、再び背中に鞭を振る。唸るしか出来ない彼が何と言っているか、聞きたくなってきた。

 「外してあげる」

 猿轡を外すと、彼は泣きながら謝り始めた。許してくれ。もう二度としない、と。

 「そのセリフ、何度目?」

 「・・・・・・え?」

 「何度目だって聞いてんの?」

 「それは・・・・・・その・・・・・・」

 答えられるハズがない。それもそうだ。追及する度に土下座しては同じセリフを吐き続けてきたのだ。彼にとっては、これが最大の武器なのだろう。

 「答えられないならさ、彼女の方を虐めるわよ?」

 鞭を捨て、机に綺麗に並べられたペンチを手に取り、かちかちと動作を確認する。

 その動作を見た彼女は歯をがたがたと震わせる。体全体が震えているのか。無理もない。裸だから寒いのだろう。

 「や、やめろ!彼女に手を出すな!」

 「は?本気で言ってんの?」

 鞭を拾い上げて彼の右頬を叩く。ぎゃっと泣き声を上げて彼は倒れた。

 「あんたが思い出さないせいでこの子が苦しい目に合うのよ。あんたのせいよ」

 女に近づく。私が近くなるたびに縮こまって、本当に可愛らしい。

 「お待たせ。それじゃあまずは――汚らわしい前歯から抜いていきましょうか?」

 泣き崩れてうつむいた女の髪を引っ張り顔を上げさせる。そして無理矢理、口の中にペンチをねじ込み前歯の一本を挟んだ。

 異物に歯を挟まれた事を理解した彼女は泣き叫ぶ。私は構う事なくペンチを握り、思いきり下へと下げた。

 「――――!?」

 声にならない叫びが耳元で聞こえた。煩いので平手打ちで頬を叩いて黙らせる。

 やはり綺麗には抜けないか。ペンチを握る力が強すぎたせいか、歯が途中で折れてしまったようだ。

 それでも彼女には激痛だろう。黙らせたのに、また叫び始めた。

 口から血が流れている。見るからに痛そうだ。

 「煩いなぁ・・・・・・あ、そうだ」

 私は台所に行くと、まな板と中華包丁を取り出し、二人のいる部屋に戻ってきた。

 まな板と包丁を見て、夫は震えあがる。女はそれに気づかないでまだ泣きわめいている。

 「あんたさぁ・・・・・・夫のアレが大好きなんでしょ?」

 女の髪を持ち上げ、顔を上げさせ問いかける。

 「メールでも散々言ってたもんね~。あなたのアレが大好き、しゃぶりたーいって」

 女は否定するように首を横にぶんぶんと降る。声も出せない彼女を床に叩きつけると、私は宣告した。

 「これからたっぷりしゃぶらせてやるよ」

 まな板をテーブルに置き、夫だけ足の拘束を外してやる。

 固縛されていた足が解放された瞬間、夫は私を蹴飛ばして出口に走った。

 蹴飛ばされた私はゆっくり立ち上がり、包丁を手に夫を追い詰める。

 「助けて!助けて下さい!!殺される!殺されるから誰か助けて!」

 ドアの前で懸命に叫ぶ夫の背中にスタンガンを打ち込む。びくびくと痙攣しながら夫は立ちすくむ。

 「来い」

 彼の髪を掴んで引っ張る。口ではまだ許してくれと請願している。

 下半身のアレに弱電流のスタンガンを打ち込む。夫は悲鳴を上げるが、下半身は微弱な快感を感じてむくりと起き上がった。

 テーブルに置いたまな板に、アレを乗せる。びきびきとそそり立った気持ち悪い肉棒の付け根に狙いを定め、私は包丁を振り上げた。

 すぱん、と。綺麗に切れた。そそり立ったアレは膨張したままの姿でまな板の上にごろんと転がった。

 スタンガンのお陰か。痛みは感じてないらしい。だが、自分の象徴ともいえるアレが無くなった事で、夫は目に涙を浮かべた。

 用が無くなった夫の足首を切る。これで逃走は難しくなる。

 まな板の上に転がったアレを掴み、女の方へと歩み寄る。そして、包丁を女の首に押し当てながら「咥えろ」と命令した。

 女は震えながら膨張したアレを口いっぱいに咥える。口の隙間から涎と血液をだらだらと零しながら、涙を浮かべて喜んでいるように見えた。

 「何か腹立つなぁ・・・・・・。そうだ。もうあの男要らないよね?」

 包丁をテーブルに置き、両手で使うハンマーを握る。

 そのハンマーを大きく振り上げ、夫の頭に向かって振り下ろした。

 鈍い音が聞こえた。肉が破裂する音だ。夫はぐぇっと鳴くと力なく倒れる。

 続けて、夫の手を叩く。肉が破裂し、骨が折れて肉を突き破って出てきた。

 足は・・・・・・まぁいいだろう。もはや逃げる気力すらない筈だ。

 「まぁまぁ。こんなものかなぁ」

 ハンマーを投げ捨てた私の気分は爽やかだった。地べたを這いずり回る不貞者を成敗したのだ。当然だろう。

 「これにこりたら浮気は止める事ね。それじゃ、お元気で」

 二人を残して、私は部屋を後にする。部屋にカギを掛け、そして警察へと電話を掛けた。わざとらしく、だが迫真の演技で。

 「助けて下さい!私の夫と知人が部屋の中に閉じ込められているんです!呻き声も聞こえるんです。お願いです!助けてください!」

 警察はすぐにやってきた。そしてカギを掛けたドアを蹴破ると、瀕死の夫と彼女を抱いて出てきた。

 二人はすぐに病院へと送られた。私は事情聴取を受けたが、作って置いたアリバイをつらつらと話したお陰か疑われずに済んだ。

 現場に残しておいた二人の浮気映像が役に立ち、私は夫に浮気された悲しい女として扱われた。

 その後の二人だが――。

 夫はあれから言葉を話す事が出来ない状態が続いていた。目に生気がなく、ただぼんやりとそらを見続ける生活が続いているそうだ。

 女の方は、周りからの視線に耐えきれず、家族からも勘当されて自殺したと聞いた。

 私は何の不自由もなく今を生きている。夫の家から送られてきた慰謝料と持ち家を手に入れ、今は悠々と独身貴族を楽しんでいる。

 警察からは何度も疑われたが、その度に学生時代に培った演技力を発揮し、不起訴になった。

 私はこれからも周りからは心配され、贅沢を続けられる。何故なら、私は悲劇のヒロインなのだから――。

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短編ホラー小説 RAG @Muramasa923

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