49.ショッピングをするのだが


 お昼を食べ終えてからも僕たちのデートは続く。

 今もまた、九条さんに連れられて店に入るところだ。


「……ここは?」


 と僕が聞くと九条さんは店に並んでいる商品を指しながら言った。


「見ての通りですが?」


 うん、ここがどこか、何を売っているのかは確かに見ればわかる。


 文房具屋だよ。


 だけど、デートで来るようなところではないと思うんだけど。


 九条さんは溜息を吐いた。


「片倉さんには女心はわからないみたいですね」

「悪かったな」


 仲のいい女子なんて、引っ越し後は玲亜と楓と茜ぐらいしかいなかったもん。他にも話すだけの女子なら、ちょいちょいいたけど、集まって遊んだりするほど仲がよかったのはその3人ぐらいだ。

 それに買い物をするのは、女子力以上に僕を優先する玲亜しかいない。


「ともかく、お揃いの何かを買うんですよ。ほら、デートの記念品になるじゃないですか」


 なるほど、記念品か。

 それを実用性のある文房具から選ぼう、というわけだな。


「ようやく理解したよ。それを学校で見せびらかしてデート自慢をするわけか」

「……言い方に多少の悪意というか、嫌味というか、感じますけど」

「それで、どれにするの?」

「シャーペンとかどうです?」


 九条さんの提案を受けて筆箱の中身を思い出す。


「……そうだな。普段、学校に持っていってるのは2本だけだし、もう1本ぐらいなら大丈夫か」


 九条さんはホッとしたような笑顔を浮かべた。


「それじゃあ、デザインを選びましょうか」

「そうだね。ちなみに九条さん的にビビッと来たのはどれ?」


 今思ったけど、ビビッと、って何だろう。


「そうですね……、これとかどうでしょうか?」


 と言って、九条さんは一画書くごとにシャー芯がクルクル回る事でシャー芯の偏減りをしにくくなる1本を手に取った。

 色は真っピンクである。九条さんがそれを使っていたら、似合うだろうけど。


「……それは冗談だよね?」


 学校に持っていったら、弄られそうじゃん。マスクとったから、ただでさえ女子みたいな外見なんだから、女子が使っていそうなシャーペン使っていたら、もう女子だよ。


「流石に冗談ですよ。断ってくれてホッとしています」


 そう笑う九条さんに思わず溜息を吐いた。


「九条さんには何かアテがあるの?」

「男の子が好きそうで私も気に入っているものはあります。少し値段は高いですけど」


 そう言って九条さんが取ったのは、お医者さんグリップのエース。

 少しずんぐりとした持ちやすいフォルムでグリップがラバーでできている、お医者さんグリップシリーズの中でも特に性能のいい一品。


「まあ、せっかくのデートの記念だし、ちょっとぐらい高くてもいっか。色はどうする?」

「白か黒かで悩んでいます」

「そうだね。僕もその二択だ」


 グラデーションカラーもあるのだが、正直、単色の方がなんというか、気品がある。


 う〜ん、悩むな。

 僕としてはどっちでもいいので、九条さんに似合いそうな方を選ぼうと思うんだけど、どっちも似合いそうなんだよな。


 と思っていたら、九条さんが口を開いた。


「それじゃあ、白でいいですか?」


 なるほど、九条さんは白にするらしい。

 僕としても断る理由はないので、承諾した。


「うん、構わないよ」


 レジが空いていたので、チャッチャと買い、店の外に出た。


「えへへ。これが片倉さんとの初デートの記念品ですね」


 シャーペンが入ったレジ袋を嬉しそうに抱える九条さんを見て、僕は思わず微笑んだ。



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