48.お昼の時間なのだが


 それから10分後、ようやく立てるようになった九条さんとフードコートのある3階に降りた。


 映画館からエスカレーターを降りてすぐの所にあるというのはなかなか良心的な設計だ。


 席はそれなりに埋まっていたけど、誰も座っていない席もポツポツとあったので、その中から席を適当に選んで座った。


「なんだか、凄く疲れましたぁ」


 九条さんがテーブルに上半身を倒しながら、溜息を吐いた。


 誰のせいだよ、とも思ったけど、流石にデート中にそれを言うほど無礼な人間ではない。


「片倉さん、何が食べたいですか?」


 僕はその質問を受けて一度九条さんの方を見た。どうやら、まだ決めていなさそうだ。


 正直、どれでもいい、と思っているけど、その答えは特にデートにおいてはNGだ。

 お昼を取れないまま、時間だけが過ぎてしまうからね。その上、グダグダしている人間だと印象付けられてしまうし、雑な反応とも思われてしまう。


 百害あって一利なし。全くオススメしない。


 ただ、相手に「何がいい?」って聞く女子側に対しても男子は色々と思うところはあると思う。


 「何でもいいよ」に文句を言われたら、ブーメランを返してやれ。


 とは言っても、デート中にそれを言う勇気があるわけでもなく。


「……そうだな、うどんとかどう?」


 僕が提案すると九条さんは笑顔で言った。


「うどんですか。さすがは片倉さんです」


 え? 「さすが」って何? うどんチョイスから何を読み取ったんだよ。

 とりあえず、正解を選んだらしい。


 僕たちは荷物を置いてうどん屋へ向かった。


 ……

 ………

 …………


 2分後、僕たちはうどんを乗せたトレーを持って戻ってきた。


 僕が選んだのは、肉ぶっかけうどん。ぶっかけうどんに牛肉と玉ねぎをトッピングしたものだ。いわゆる『牛丼ぎゅううどん』って感じ(誤字ではありません)。


 そういえば、ちょくちょく疑問に思うんだけど、かけうどんとぶっかけうどんって何が違うんだろう。

 メニュー表には肉ぶっかけうどんと肉うどんがあったが、この違いもよくわからない。


 ちなみに、そんな中、あえて『ぶっかけ』で攻めたのは、なんとなく言葉の響きが好きだからだ。


「私も詳しくは知りませんが、出汁の濃さの違いじゃないですか? ぶっかけうどんはかけうどんよりも濃いはずです。あと、肉うどんはかけうどんに肉をトッピングした物です」


 へえ。初めての九条トリビアはうどんでした。


 ちなみに九条さんの選んだのはざるうどんだ。

 つけ出汁にはネギが入っている。オーソドックスな線を攻めていったようだ。


「それじゃあ、いただきます」


 九条さんも両手を合わせた。


 僕はパキッと鳴らして、割り箸を割る。

 よし、綺麗に割れた。今日はいい日だな。


 つけ出汁から勢いよくすする九条さん。

 九条さん本人の気品と重なって物凄く上品に見える。


 すする、と言う行為は日本独自の礼儀だ。音を立ててみっともない、だとか言う外国人もいるらしいが、こう言う文化なのだ。


 おっと、うっかり見惚れてしまった。

 僕も食べ始めなければ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る