44.絡まれているのだが


 僕は南條たちから目を逸らした。

 その逸らした先、五人ぐらいのチャラ男が半円を描くように立っているのが見えた。まるで、誰かを閉じ込めるみたいに。

 それをさらに野次馬が取り囲んでいる。


 僕の頭の中に九条さんとの二度目の出会いが浮かぶ。そう言えば、あの日の九条さんもそう言えば絡まれていたな。


 ただここで勘違いだったら恥ずかしいので、耳を澄ませる。


「ねえ、俺たちとデートしない?」

「彼氏と待ち合わせをしているので断ります」


 よし、状況が読めた。

 九条さんがナンパされている。

 モテる女子って大変だな……。


 助けに行く前に一言断っておこうかな。


「ごめん、南條。ちょっと彼女が絡まれているみたいだから、助けてくる」

「ちょっと待ってよ、アンタ。アレに喧嘩売るの?」

「まあ、売る事になるだろうね」

「……アンタ」


 ただヤツらの体格や立ち振る舞いを観察している限り、負ける事はないだろう。


「まあ、最悪、殴り合いになったとしても勝てると思うし。それじゃあ」


 僕はそう言い残して、チャラ男集団の元へ歩く。


 男の隙間から九条さんの顔が伺えた。

 よかった。ここまで来て間違いだったら、僕は泣いている。


「このアマ、調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 そう言って一人が九条を殴ろうもとした。

 目を瞑る九条。


「片倉さん……」


 僕は九条さんと男の間に割り込む。


 九条さんに向けて殴ってきた拳を、僕は九条さんを庇うように左手で止める。そして、右手を相手の脇にかけて、そのまま投げた。


「……おい。僕の彼女に手を出すんじゃない。潰すぞ」


 今は本気でブチギレている。


 唖然としたような五人。

 少し時間を置いてから、走り去っていった。


 その姿が消えてから、九条さんが抱きつく。


「すみません。もう少しだけ、こうしていてもいいですか?」


 さっきのはまあ恐怖体験だったんだろう、僕に回された腕は少し震えていた。


 思わず頭を撫でる。

 サラサラと流れる髪。ずっと撫でていたいぐらいに触り心地がいい。


「それじゃあ、アタシたちはそろそろ行くから!」


 南條はそう言い残して、友達を連れて去っていった。

 ウインクしているように見えたのは気のせいだろう。


「ああ、ごめん」


 僕は撫でるのをやめた。


「ごめんなさい。せっかく、デートに誘ったのに最悪な始まりになってしまいました」

「それなら、ここからを楽しめばいいだろ? 本当に楽しかったら、さっきの事なんてどうせ忘れる。それにデートプランを考えたのは九条さんなんだから、ここで落ち込まれると正直僕としても困る」


「そう。そうですね。それじゃあ、片倉さん。今からを楽しみましょう! プランはバッチリ考えておきましたので、覚悟しておいてください!」



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