41.デートに備えたいのだが


 次の朝、梶が教室に入ってきた。


 俺は周りを見渡す。


 政宗さんはまだいないみたいだ。あのヒトが来ると、場が面倒くさい事になるのはもう目に見えているので、来る前に用事を済ませておきたい。

 他のクラスメイトもちょこちょこいるけど、どうせ、俺の話を気にする事はないだろう。


 という事で、俺は楓と梶に話しかけた。


「楓、梶。大事な話がある」

「珍しいわね、そんな真剣そうな弥代。聞こうかしら」

「俺も聞いてやるよ」


 二人が承諾する。


 俺は一度深呼吸をしてから言った。


「俺、今週の土曜日に九条とデートをする事になった」


 ガタン、と椅子の倒れる音がする。


 思わず見ると、クラスメイトの女子が尻餅をついていた。申し訳ないが、名前は知らない。

 「どうしたの?」と友達だろう女子に聞かれて、「ただ転んだだけよ」と震えた声で答えていた。


 まあ、関係なさそうだし、放置でいいか。


「いよいよか」


 梶が嬉しそうに言う。彼に関しては倒れた女子は完全にスルーしていた。


「なんだけど、何をすればいいのか、わからないんだよ」

「デートプランを悩んでいるの?」


 楓の質問に俺は首を横に振った。


「いや、プランは九条が考えてくれている」


 梶が口を開いた。


「それなら当日にしっかりオシャレをする、ぐらいでいいんじゃないか? プランを考えられている時点でリードは不可能だろうし、何も考えずに楽しめば、相手は喜んでくれるだろうよ」


 楓も意見を言う。


「流されっぱなしはよくないと思うわよ。やっぱり女子は甘えたがりが多いんだから。九条さんも今までの様子を見る限りでは、甘やかすよりも甘える方が好きみたいだし。まあ、玲亜ちゃんを甘やかしまくっている弥代なら、無意識にでも甘やかしちゃうと思うけど。黙って手を繋いでみたり、『次はどうするんだい?』ってイケボで囁いてみたりしたら? あと、知らない男子に絡まれている時に『コイツ、俺のツレなんで』って抱き寄せながら言ったら好感度は爆上がりよ」


 なるほどな。

 梶も楓もめちゃくちゃ語っていたけど、恋愛素人の俺にはなかなかためになりそうだ。


 それにしても楓の提案はなんでそんなに具体的なんだろうな。


「ありがとう。二人の意見を参考に頑張ってみようと思う」


 まだ二日あるけどな。


 そう思って、なんとなく振り返ってみたら、開けっ放しの後ろの扉から男が覗いていた。俺に目線を向けている。

 俺と視線が交わると、少し驚いたような顔をして去っていった。


 あの男、どこかで……。

 ああ、5組に行った時に見かけたヤツだ。他の男子どもと違って九条と俺の掛け合いに対して、関心を持っていないように感じた珍しいヤツ。

 そういえば、イケメンだった。


 ともかく。


 九条に関心がないと思われるあの男はなぜこちらを見ていた?

 好きな女子がウチのクラスにいたから?


 ……まさか。


 俺は思わず楓の横顔に目を向けた。



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