38.やっぱり姉が面倒くさかったのだが


 ひつまぶし弁当を食べ終えて教室に戻った。

 当然ながら、口調は戻している。


「ただいま」

「あら、おかえり。どうだった、は?」


 楓に意地悪く言われて、思わず苦虫を百匹纏めて噛み潰したような表情を浮かべてしまう。


「美少年はどんな表情も似合うから不思議だよな」


 この表情が様になるって言うのか、梶?


「そんな事言わないであげなよ。小十郎だって疲れたような顔しているじゃないの」


 おお。


「政宗さんが俺の気持ちを理解してくれている……!」


「大丈夫、わかっているわよ、小十郎。あの女と一緒にいるのが、しんどいのよね。本当は私の方が大事だものね」


 ああ、突き放したいだけですか。

 真面目な話、この人は僕の事をどう思っているんだろうか。


 ……修羅場、これからも続きそうだな。

 これからの昼食は生徒会室集合か、俺が迎えに行くかの二択しか残ってない。


「いや、問題は九条よりお姉ちゃんなんだよ……」

「ああ、片倉に家事とかを叩き込んだ人だっけ」


 梶が思い出すように言った。


「……前にチラッと言っただけなのに、よく覚えているな。ああ、その人だよ。しばらく会ってなかったけど、ついさっき再会した」

「ラブコメめいてるな、お前」

「ああ、ちなみに彼氏持ちだし、こっちとしても苦手な人だから、異性として見るのはキツイ」


「……まさかの幼馴染みポジションですって?」

「そこにどれだけのこだわりがあるってんだよ。どちらかって言うと、姉ポジションだと思うけど」


 僕は溜息を吐いた。


「弥代の話は大体面白いからね。ちなみに私ルートは存在しないわよ。私は恋に悩んだ時に相談できる異性の友達的なポジションだから」


 逆も同じく、と心の中で呟いておく。


「そういうわけだから、幼馴染みポジションは譲れないのよ。それで、どんな人なの?」


 だから、どっちかって言ったら、お姉ちゃんポジだっつーの。


「生徒会副会長」

「ああ、春日先輩ね? 小十郎と知り合いだった、ってのはビックリだけど」


 政宗さん、お知り合い?


「ええ、春日先輩は女子剣道部の主将キャプテンだもの」

「あー、ぽい感じする」

「たしか、生徒会長と付き合っているんですって」

「うん、会った。あの人も凄まじかった」


 本当に凄まじかった。


「という事で、お姉ちゃんのポジションを纏めると、俺のお姉ちゃんにして、俺の彼女のお兄さんの彼女」

「不思議な縁だな」

「完全に同意。凶暴さが治ってなかったのが、残念だった」

主将キャプテンが凶暴? 理知的なあの人が? 暴力奮ってるの見た事ないわよ? あ、一回、2年生にナンパした男を成敗してたけど」


 ……奮ってるじゃん。


「ともかく、そう誰にでも奮ってるわけじゃないわよ、って事」


 ひょっとして俺だけにだったのか? 泣くぞ、オラ。



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