36.姉が面倒くさいのだが


「まあ、冗談抜きの話をすると、幼馴染みだよ」


 正確に言えば、もっと複雑なんだけどね。


「元?」

「うん、僕は6年前に引っ越したからね」


 それを聞いてなぜか嬉しそうな顔をする九条さん。もうよくわからない。


「けど、九条さんとお姉ちゃんも知り合いなんだね?」

「はい、この人、こう見えても私のお兄様の彼女ですから」

「へえ、お姉ちゃんも恋愛するんだねぇ……」


 俺の知ってたお姉ちゃんは「恋愛? 何それ、美味しいの?」って感じだった。

 顔もいい、頭もいい、運動神経もいい、の三拍子が揃っていて、人気はあったんだけど、本人にその気がなかった人だ。

 癖も強かったしね。


 そんなお姉ちゃんに彼氏ができるだなんて、この世界、どう動くか、わからないものだな。


「私も弥代に対して同じ事を思っていたぞ? あれだけ人気があったのに、彼女の一人もできなかったんだから」

「人気? 女子みたい、って馬鹿にされてた記憶しかないんだけど」

「人気があったお前に対して嫉妬してた男子の負け惜しみだぞ? 正直、私としても自慢の弟だと思える男だった」

「誰のせいだよ……」


 僕はジト目で見つめる。


「そこは『おかげ』って言って欲しいところだ」


 ドヤ顔で言わないでほしい。


「ともかく、それでお姉ちゃんは何しに来たのさ?」

「いや、私の彼氏がどうしても、妹ちゃんの彼氏に対して気になっているようでね。まあ、弥代なら、心配いらないだろう」


 ああ、対外的には付き合ってるもんね、僕たち。


 九条さんのお兄ちゃん、昨日の昼に聞く限りではシスコン色強いみたいだし。

 まあ、会った事はないから、まだなんとも言えないんだけど。


 と言っていたら、本人が来たようだ。


「済まない。少し遅れてしまったよ」


 ヤバイ。誰だよ、このイケメン。


 覇気カリスマが凄まじく、無意識に人の目を惹きつけるタイプ。

 ラブコメで言うところの、王子様系イケメン。

 手を振るだけで女子が騒ぐああいう系統。


 正直、この人と一緒にいると、イケメンや美少女も霞むだろう。

 当然、僕のようなどっちかって言うとイケメン(そこは認めた)程度だと、ブサイクにしか見えないだろう。鏡がないから、わからないけどね。


 そんな彼がこちらを向いた。


「ほう、君が咲奈の彼氏だね? 一応自己紹介しておこうか。僕は九条 衛流くじょう まもる。咲奈の兄で、生徒会長を勤めている」


 この人が引きつった笑みを浮かべるだなんて正直想像できないな。


「片倉 弥代です。一応妹さんの彼氏をやっています。まあ、機会があれば、よろしく」


 と軽く自己紹介する。本当にめちゃくちゃ軽いけど。


「へえ、弥代らしいね」

「なるほど。咲奈が気に入るわけだ」


 先輩方が楽しそうに笑う。

 何が面白いのか、僕にはよくわからないけど。


 チラリと横を見たら、九条も微笑んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る