34.またもや修羅場なのだが


 次の日の昼休み。


 今日の俺は弁当を持ってきていない。

 なぜなら、九条さんが用意してくれるらしいから。

 正直言おうか。凄く少し楽しみにしている。

 それでも玲亜の分は作らないといけないのが、ちょっとだけ悲しいかな。


「片倉、飯食おうぜ」

「小十郎、弁当を食べましょう」


 と誘われるが、すまなかったな。


「すまん、先客がいる」

「誰だ、先客って?」

「そろそろ来ると思うよ」


 と俺が宣言した瞬間、教室の空気が変わった。

 一人の少女が入ってきたからだ。


 男子たちが思わず、と言った様子で見入る。

 相変わらず九条の美貌ちからは凄まじいモノだな。


「……昨日の話、マジだったのかよ」


 梶が呟く。


 逆に冗談だと思ってたのかよ。


「九条さん、弥代と付き合えるだけあるわね」


 楓も呟くが、それは信じない。


 俺の顔が整っている事はもう否定しないけど、さすがにこの娘ほどまでではない、と思う。


「片倉さん、お昼にしましょう」


 女子たちがこの世の終わりのような顔をする。

 やっぱり女としての格の違いを見せつけられたからか。


 「ああ、そうだな」と言って、俺は立ち上がろうとしたが、その前に声が響いた。


「––––––たかだか一週間程度の付き合いのくせに私の小十郎を奪うのかしら?」


 うん、空気を読まない事で定評のある政宗さんだ。相手が美少女だからと言って、一切ブレない。

 俺はこのヒトの真っ直ぐな部分は嫌いではない。


 ただ……。


「……片倉さん、その女は誰ですか?」


 九条さんに対しては大人しくしていてほしい……。

 彼女なんだから。


「気にしないでくれ。ちょっと頭のオカシイただの上司ともだちだよ」


 部下だの上司だの言ってるけど、ぶっちゃけただ言ってるだけで、それ以上の事はない。


「小十郎、私の事をその程度にしか思っていなかったの……?」


 その程度、ってなんだよ。


「逆に政宗さんは俺の事を何だと思っているんだ?」


「前世からの魂の繋がりが引き寄せた私にとっての運命の人で––––––」


「––––––ごめん。俺が悪かったから止まってくれ」


 やっぱりこの娘、イタイ。


「ともかく、貴女なんかよりもよっぽど小十郎の事を想っているのよ、盗人さん」

「私の彼氏に対する想いを舐めているので?」


 ねえ、修羅場? 昨日、別人とぽいのがあったじゃん。2日連続で来なくていいよ。


 歯軋りしながら、互いを睨む二人。

 うん、思ったより仲良くなってくれて嬉しいよ(現実逃避)。


「––––––それなら、二人で片倉のいい所を言って多く言えた方が勝ち、ってのはどうだ?」


「「それ採用!」」


 ……余計な事を言わないでくれ、梶。

 あと、二人とも食いつかないの。


 俺は溜息を吐いてから、ちょっと雰囲気を変える。マンガとかでよくある『覇気』の類い。

 ごめん、カッコつけて言ってみただけでそんな大したものじゃない。

 ほら、怒っている人ってなんかオーラがあるだろ。ゆーて、アレを自由に出している感じ。


「いい加減にしなよ」


「「だって、コイツが!」」


 ……本人たちには効果がなかったようで。


「政宗さん、マジで落ち着いてくれ」

「何でよ!」

「僕と九条さんは昼食を一緒に食べると約束したから」


 九条はそれを聞いて笑った。


 黄色い声と野次が聞こえて来る。


「それでこそ片倉さんです。それでは愛の巣へ行きましょう」

「……生徒会室だよね?」

「ほら、リア充は早く行きなよ」


 梶が乱暴に言う。


 しかし、その口には僕を応援するかのような笑みが浮かんでいた。



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