33.放課後なのだが


 授業が終わり、一応あるんだけど、あってないようなSTを適当に流し、俺は帰る準備をする。


 俺は無所属だが、他のヤツらはどこかしら入部している。

 楓は、羽球バドミントン部、梶は蹴球サッカー部、そして、政宗さんは剣道部だ。


 ……いや、無所属じゃなくて、あえて帰宅部と言っておくか。


「ねえ、見学だけで良いから行こうよ」


 と楓に勧誘され、


「貴方には素質があるのよ!」


 と政宗さんに勧誘され、


「くそっ。イケメンはなんて得なんだよ……」

「私にも話しかける勇気があればなぁ……」


 とクラスの一部から怨嗟や嫉妬、羨望の声が聞こえてくる。


 まあ、いつも通りだ。


 いつも通りじゃない事だなんて、


sana : 片倉さんは部活ありませんよね。ここに来てくれませんか。


 と言う九条さんからのLONEぐらいだ。


 地図アプリのスクショも送られてきた。

 ああ、あそこね。


「やめておけ。コイツはこれからイチャイチャ時間なんだよ」


 俺のスマホを覗き見た梶が言った。


「そんな一週間も経ってないのに、バカップルになれるわけないだろ」


 俺は溜息を吐く。


「いいえ、小十郎。大事なのは量じゃなくて質なのよ」


 ああ……、確かに政宗さんとの間には(ある意味)濃密な時間が流れているよね。


 このヒトの暴走のせいであるが、確かに謎に仲が良い。


「けれど、時間も大事だと思うわよ」


 楓が言う。


「流れすぎたら、逆に問題だけどな」


 40年とかそのままだったら、間違いなく飽きるもん。


「まあ、行ってこい」


 梶は案外ノリいいよな。


「ありがと。じゃ、また明日な」


 ……

 ………

 …………


「––––––遅いですわ」


 悲観的な表情で九条さんが呟く。


「言うほど遅くはないだろ」

「遅いです」

「……」

「恋する少女は1秒を永遠に感じるんですよ」

「理不尽にもほどがあるぞ……」


 この娘、相当に頭が切れるな。


 九条の言う恋の相手ってのは当然、俺ではない。しかし、事前に知っていない限り、確実に俺の事だと思うだろう。


 嘘を吐かずに相手を誘導する技術と言い、朝の笑顔の仮面と言い、やっぱ金持ちにはこういう力があるんだろうな、と俺は驚いた。


「すまんな」


 俺は笑いながら言った。


「……まあ、いいです」


 九条さんは顔を逸らしながら言う。


「けど、なんの用だ? 九条さんは確か、リムジン登校じゃなかったか?」

「朝、電車で来たじゃないですか」

「あ、そう言えばそうだったな」

「まあ、帰りはリムジンなんですけどね」

「おい」


「まあ、ちょっとゆっくりしませんか」


 最近、忙しかったし(大体九条さんのせいだけど)、こういう時間も悪くはないかも。


「そうだな」


 俺は九条さんに促され、ベンチに座った。

 微妙に離れた位置に九条も座る。


 仲がいいと言うには少し遠く、仲がよくないと言うには少し近い。


 やっぱりこれが俺たちの距離感なんだろうな。

 俺はボンヤリと景色を眺めながら、そんな事を思った。




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 そう言えば、昨日バレンタインでしたねぇ。

 塾に籠って一日中勉強してたから、縁はありませんでしたけど。



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