32.睡眠時間では無いと思うのだが


 俺は九条さんと話した後、教室に戻ったら、授業が始まる前だった。

 本当にギリギリのタイミングだったため、友達アイツらの追求が来る前に授業が始まる。


 5時間目の授業は面倒くさいの代名詞、生物基礎だった。

 先生が淡々と教科書の重要ワードを読み上げるだけの暇な授業だ。

 プリントは配られるんだけど、もともと全て書き込まれているせいで加える事は特にない。


 その先生が作ったテストはほとんど問題集から出ているらしく、その問題集をやっておけば、問題はないらしい(問題だけに)、と友達の先輩が言ってたのを聞いた。


 うん。流して欲しい。


 ふと周りを見渡すと、4分の1 は机に突っ伏して寝ていた。梶や政宗さんもソレに含まれる。

 先生はそれに気づいているのか、それともいないのか。

 俺には分からないが、相変わらず淡々と話し続けている。


 ソレを流し見ながら、俺はノートに落書きをしている。

 絵を描くのはそこそこ好きだ。paintではなく、drawの方だが。


 そんな事を思っていたら、後ろから背中をツンツンされた。

 なにぶん、急だったもので軽くとは言え、鳥肌が立つ。


 つーか、楓、寝てなかったのか。

 珍しい事もあるものだ。


 慌てて落書きを消しゴムで消す。


 振り向いた俺に楓が小さな紙を渡した。

 俺はその紙を手早く取ると、前を向く。


『どうだった?』


 髪にはそう書かれていた。

 俺は少し考えて返す。


『どうだったと思う?』


 ちょっと振り向いたら、楓がムスッとしていた。

 なに、この娘、小動物みたいで可愛いんですけど。


 ……

 ………

 …………


「ああ、よく寝た、よく寝た」


 生物の授業が終わり、スッキリした顔の梶が振り向いた。


「アレはもう催眠術の領域に入っていると思う」

「「まあ、否定はしないけど」」

「けど、楓ちゃんが寝なかったのは意外だな」

「確かに楓もよく寝てるもんな……。まあ、今日は電車で寝てたし?」

「う、うっさいわね! ……そういえば、電車で思い出したけど、お昼、どうだったの?」


 赤い顔をして一転、意地の悪い笑みを浮かべる楓。


 うわあ、墓穴を掘ってしまったあ。


「別に、ただ弁当食べてもらって、をしていただけだよ」

「これからって、……まさか結婚を意識し始めちゃったのかい、聖人候補様?」

「何度でも言うが、聖人にはならんと思うぞ」

「ともかく、九条さんとしたって具体的に何?」


 ふむ、どう答えようか。

 と少し考え、俺はウインクしながら軽やかに言った。


「––––––ご想像にお任せします♪」



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