28.例の人はめちゃくちゃモテるようなのだが


 楓たちとの会話が少し落ち着いた。


 そういえば、まだ九条さんに弁当を渡してなかったな、と思い出したので、今から渡しに行こうかな。


 え? ご飯食べる時に渡せば良いじゃんって?


 弁当を作るとは言った。しかし、一緒に食べるとは誰も言っていないのだ。


 女子の敵? なんとでも、何度でも言え。


 という事で、九条さんのクラスに行く。彼女は確か5組、って言っていたはずだ。

 ちなみに、言ったかどうかわからないが、俺は7組である。


 そんな事よりなぜだろう、廊下に出てからめちゃくちゃ視線を感じるのだが。特に女子からの目線が多いようだ。


 こうなると、楓が言っていた事が本当かも、ってホントにちょぴっとだけとは言え、思えてくる。個人的にはあり得ないって思っていたんだが。


 まあ、ただ女子みたいな外見してる癖にスカートじゃなくてズボンだから、驚いているだけなのかもしれないけどね。


 ……

 ………

 …………


 俺は5組の前まで来た。

 一呼吸してから、扉を開く。

 これで間違えてたら恥ずかしいよな。


 そしたら、


「––––––好きです、付き合ってください!」


 告白現場に遭遇してしまった。


 告白した側の男子は生憎存じ上げないけど、された側の女子は知り合いだった。俺は部活にも入っていないので、他クラスの知り合いはほとんどいない。その知り合いとは、つまりは九条 咲奈の事である。


 やっぱ、あの娘、モテるんだな、と心の中で呟いた俺は、そっと開けた扉を閉め––––––


「––––––あ、片倉さん。もう、来てたなら言ってくださいよ」


 え、ちょっと待って。

 告白の返事すっぽかしてあげるなよ。


 クラスを見渡してみるが、みんな俺と同じような表情を浮かべている。

 「は?」みたいな。

 いや、無関心なヤツも何人かいるみたいだけど。


「いや、流石に人が告白している現場で邪魔できる勇気はないよ」

「まったく、片倉さんは……。私が断る、って事ぐらいわかるでしょう?」

「まあ、そうだろうよな。それでもさ、せめて紳士的に対応してあげようとは、思わないのかよ……」


 九条さんは女子だから、紳士的と言うより淑女的なんだけどな。

 なるほど、と納得したような表情を浮かべた。


「あ、無視をしてしまって申し訳ございません。私、この人がいますので」


 凄くドライに返すな、九条さんよ……。無視してた時点で相当にヤバいと思ってたけど。


 ただ、コイツに惚れてしまったのが、運の尽きだったわけだ。ほんのちょぴっとだけ同情してやろう、名前も知らない一人の男よ。

 お前さんは知らないようだが、俺という偽装彼氏ができた時点で君の望みは完全に消えたのだ。


 俺はそんな事を思いながら、撃沈した男子の横を通って九条さんの元へ歩き出した。



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