27.俺は可愛いらしいのだが


「––––––それで、彼女とはどういう出会いをしたのかしら」


 グイグイ来る楓。


 ちょっと九条さんとグダついて遅れたせいで、梶も政宗さんも俺が来た頃には、教室にいた。


「出会いは階段のアレだけど……」

「その後、何かあったのね。この土日あたりで」


 仕方がないので、正直に言う。


「ああ、土曜日、そこの図書館に行く時に、九条さんがチャラ男に絡まれていたから追い払ってやったんだよ。そしたら、カフェ奢ってくれてさ。そこからちょっと仲良くなったんだよ」


「可愛い娘をチャラ男から助けるだなんて、俺、マンガでしかないと思っていたんだけど……」

「それには私も同感ね」

「私はそんな事より小十郎の外見の変化に驚いているんだけど」


 マスク外しただけだよ、政宗さん?

 そこまで印象変わらないでしょ?


「そんなに変わるか?」


 と俺が聞くと、三人して溜息を吐く。


 解せぬ。


「貴方は自分が美少年だっていい加減気づいたらいいのよ」

「まさか」


 また三人して溜息を吐く。


 そうか、俺がイケメンって事はこの世界の美的感覚がおかしいって事なんだな。


「じゃあ、考え方を変えましょう。貴方の自慢の妹の玲亜ちゃんは美少女だと思う?」


 アイツは身内贔屓がなくても、クールでキュートな正真正銘の美少女だよ(謎にテンションが高い)。


「まあ、そうだな。本人にはなかなか言えないけど、めちゃくちゃ可愛いとは思う」


 「このシスコンは……」とどこかから溜息が聞こえてきた。おい、溜息吐きすぎると、幸せが逃げていくぞ、と俺は溜息を吐く。


 ……俺の幸せも逃げてしまったわけだ。


「貴方はその美少女の玲亜ちゃんとそっくりな顔をしている」


 まあ、そっくりは言い過ぎにしろ、割と似た顔をしている。血は繋がってるし、俺の外見は男性ホルモンが多少活性化した玲亜だからな(玲亜曰く)。


「まあ、似てはいるかな」

「それなら、美少女とそっくりな貴方は美少年だと思わない?」


 だから、なんでそうなる?


「小十郎は『イケメン = 男っぽい』って思ってるんでしょ」


 ポツリと政宗さんが呟いた。


「ああ、そうだな」

「だけど、それだと説明の付かない現象があるわけよ」

「……それはつまり?」

「こっちとしても好きで言ってるわけじゃないんだけどね。『オネショタ』よ」


 なるほど。可愛い男の子と大人っぽいおねーさんのセットか。


 確かにそれから考えると確かに可愛い系男子もモテる、と言えるかもな。

 だが、俺に可愛げを求める女子がどこにいるというのだ?


「ちょっと弥代、一人称を『僕』にしてみてよ」


「はあ。そんな急に言わないでよ、楓。口調をいきなり変えるのってさすがの僕でもなかなかキツいんだから」


「とか言いながら、あっさり変えてるところ、俺的には少し怖いと思う」

「酷いよ、梶くん。人の事、怖いとか言い放って」

「あ、ああ、その、……ごめんな」


「まあ、冗談はともかくとして。さっきの口調は合っていたか?」

「ええ。それはもうビックリするぐらいに」


 首肯する二人。

 なるほど。この口調が似合うという事は、俺は可愛い系男子だったわけか。


 神様。どうせなら、男っぽくしてほしかったよ。


 ただ、この時点での俺はやっぱり勘違いをしていたらしい。



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