第二部
25.いつも通りに学校に行くのだが
月曜日。準備を終えた玲亜と俺は玄関を出た。
俺が戸締りしたタイミングで隣の家の扉も開く。ブレザーを着た楓とセーラー服の茜が出てきた。
「おはよう、玲亜ちゃん、弥代」
「ああ、楓に茜も。おはよう」
「おはようございます、茜、楓さん」
「うん、おはよう、玲亜、弥代さん。って、珍しい格好してますね」
なんだ、その思わせぶりな発言。
いや、マスクつけてないだけだよ。
理由? 九条さんが「取れ取れ」ってLONEで騒ぐからよ。それ系統だけで20メッセージ50スタンプも来たら流石に承諾するしかないでしょ。
頼み込まれたら断れない俺の弱みに漬け込んだわけだ。
ブロックされるかも、という心配はなかったのか。
さすがの俺も登録した初日にブロックできるほど無情じゃないけどさ。
「改めて見ると弥代ってイケメンよね」
楓が思わずと言った表情で言うと、
はえ?
コイツら全員揃って幻を見てやがる、と俺が溜息を吐くのを、三人は呆れたように見ていた。
おい、なぜだ。
「そういえば、弥代さん、なんでイメチェンを? モテたい欲求でも出ちゃいました?」
「なわけないでしょ」
「じゃあ、なんで戻したんです?」
「……そう頼まれたから、かな」
俺は頭をかきながら言った。
「つまりはこの土日に何かあった、ってわけね」
「まあ、楓の言う通りだな」
「恋しちゃったとか?」
「まさか」
「……」
ムスッとした表情の玲亜が俺の袖を掴む。少し睨むような目線。
俺はその頭にポンと手を置いた。これだけで機嫌が直るんだから、この娘はちょろい。
さすがは我が妹だ。この言い方だと俺もちょろいように聞こえるけど。
「はわわわわ」
……めちゃくちゃ嬉しそうだな。
「いいなぁ」と呟く茜。
「はあ、この兄妹は……」と頭を抱える楓。
……。
現実から軽く目を逸らした俺の脳裏に九条さんの姿が浮かぶ。
恋心を抱いているわけではない、と思う。それでも、俺はアイツの偽装彼氏となるわけだ。
玲亜が言っていたようにそれで外堀を埋めてくる可能性も否定できない。
だけど、九条さんだって普通に恋する少女だと言っていた。そう考えると、やっぱ俺に惚れている可能性はかなり低い。
万が一、九条さんが本当に俺に惚れているのだとしたら、その6年前の相手も俺だったと言う事。その場合は俺も泣いて喜ぶ(男の涙とか誰得だよ)。
だけど、彼女が気付いたのに俺が気付かない、って事は考えづらい。俺だって彼女の事が好きなんだから。
となると、どちらも本命ではないと思われるため、とりあえず期限の間、いざと言う時に別れられるよう、イチャイチャはほどほどにしないといけない。逃げ道は残しておかねば、という事だ。
歩いているうちに駅に着いた。
玲亜たちの中学校はこの先にある。つまりはここでお別れだ。
「じゃあ、お兄ちゃん、また後で!」
「おう」
「さ、私たちも行きましょう」
「そうだな」
とりあえず俺たちは駅に入った。
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