24.妹が少し怖いのだが


 図書館に行きながら、偽装について詳しい事を話し合い、予約していた本を借りたら、ちょうどいい時間になったので、九条さんと別れ、家に帰った。

 九条さんは車で来たようで「せっかくですので、送りましょうか?」と聞かれたけど、生憎、僕は他人のリムジンに乗れるほど心臓は強くない。


 ……

 ………

 …………

 

 玲亜は、まだ帰ってきてないみたいだ。

 おっと、口調を戻そう。


 俺は置き手紙をゴミ箱に捨てた。

 そして、刺身と米を冷蔵庫から出す。

 米をレンジでチンしていたら、玲亜が帰ってきた。


 『剣道部』と背中に書いてある、いわゆる部ティー。正直言って、デザインは微妙なんだが、それでも自慢の妹が着るとしっかり似合っている。

 あれだな。『馬子にも衣装』の真逆だな。アレは衣装さえ良ければ、誰でもそれなりによく見える、って意味だから。


 ちなみに俺は玲亜とは兄妹の癖に真逆である。

 はぁ。性別転換したら玲亜になるぐらいの美貌が欲しかった。モテたくはないけど、イケメンにはなりたい、ってどんなワガママだよ、とは言われそうだが。


 玲亜はいつも通りだ。

 帰ってきた瞬間に俺に抱きつく。『お兄ちゃん成分』を補充するためらしい。

 ガソリンスタンドかよ、と思った。ただ、俺自身はソレを補充できないので、エネルギー保存の法則で考えるといつか尽きるぞ。


「ただいま、お兄ちゃん」

「うん、おかえり、玲亜。手を洗っておいで。その後、お昼にしようか」

「了解です」


 トテトテ、と洗面台に歩いていく玲亜を見守っていたら、レンジが鳴ったので、俺は米を出す。

 二人分、茶碗に盛ったタイミングで玲亜が戻ってきた。


「お兄ちゃん、一つ聞いていいですか?」

「ん? どうした?」

「今日、お兄ちゃん、誰か女の人と会いましたよね?」

「え?」

「匂います」


 え? ……匂うって?


 ……女って怖い。


 さて、正直に言うべきか、誤魔化すべきか。

 よし完全に正直に言い切れば、怒る事はないはずだ。


「今日図書館行ってきたんだよ」


 と言って本を取り出す。


「それで、女の匂いはどう言う?」

「ナンパされてたから、助けた」

「それだけですか?」

「そうしたら、喫茶店に誘われて」

「……」

「で、実は同じ高校のヤツだったんだよ」

「……」

「それで色々あって偽装の恋人になった」


「すみません。『色々』でまとめないでください。お願いします」


 と言われてもなぁ。


「すまん。俺自身状況がわからないんだよ」

「お兄ちゃん」

「ん?」

「それ、惚れられてますよ、きっと」

「まさか」

「ナンパから助けてくれて、少しも意識しない女ってほとんどいません。恋人の振りをして、外堀を埋めて断れなくしてから、告白してくるヤツですよ。頭も切れるようですね」

「それはつまり?」


「女の勘です」


 玲亜は片目を閉じながら言った。



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